最上級超能力者~明寿~ 社会人編 ☆主人公総攻め

まむら

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07 佐伯(明寿専用の運転手/39歳) 暴漢、恐怖

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明寿専用の運転手になってどれくらい経っただろうか。
 
自分を気に入ってくれた小学生だった明寿も今ではすっかり大人の男となった。
 
そして自分も、時の流れをしみじみと感じるほどには歳を取った。
 
まだまだ若さ溢れる明寿に比べ、自分はもうすぐ四十になる。
 
いつまでも若いままではいられないし、いれるとも思ってはいない。
 
それでも、明寿のそばで一生近くにいられるならと、いつも願っていた。
 
その願いはまだ叶えられているらしく、こうして今でもどうにか明寿専用の運転手として生きていけている。
 
今日も佐伯は明寿を乗せて目的の場所へと向かっていた。
 
 
 
「…明寿様、もうすぐ到着します」
 
「うん、わかった」
 
 
 
会話はいつも短く、だが、幸せな時間だった。
 
短いからと言って気まずいわけではなく、それが日常だからだ。
 
明寿と佐伯の会話はいつも一言二言で終わる。
 
佐伯はこうした日常の中で行われる短い会話が好きだ。
 
バックミラー越しに見える明寿の表情はいつも穏やかで、時々視線が合うが、明寿は特に気にした様子もなく優しく笑いかけてくれる。
 
運転中ということもあり、佐伯はすぐに視線を逸らして運転に意識を向けるが、それもいつものことだ。
 
今日は取引先の視察を兼ねた挨拶というような内容であり、社長である明寿の単独行動である。
 
そうこうしているうちに目的の場所に到着した。
 
佐伯は車から降りて明寿の座っている側の扉を開き、明寿が降りるのを待つ。
 
 
 
「終わったら連絡するから、それまで佐伯はそこら辺をブラブラしてきてもいいよ。駐車場でずっと待機してるのも暇だろうし」
 
「…それではお言葉に甘えて。車は駐車場に留めて、近くをちょっと散歩してきます」
 
「うん、じゃあね」
 
「行ってらっしゃいませ、明寿様」
 
 
 
佐伯は明寿の後ろ姿が見えなくなるまで、その背中をじっと見つめていた。
 
明寿の姿が見えなくなると車に乗り、取引先の駐車場に車を留め、のんびりと近場を散策に向かう。
 
今回の取引先はオフィスビルが立ち並ぶ場所にあり、数多くの店舗もある。
 
そういえば最近、あまり個人的な用事で外出をしていないことに気が付き、それならばといくつか新しい服を買いたいと思っていたのだ。
 
この年になり、今までのカジュアルな服装もそろそろ変えなければならないなと思っていたのだが、出不精ということもあり後回しにしていた。
 
出来ればもう少し落ち着いた、大人向けの服が欲しいと思い、キョロキョロとあたりを見渡した。
 
すると、視線のすぐ先に丁度良い紳士向けの衣料品店があることに気づき、佐伯はそちらの店に入ることにした。
 
 
 
「いらっしゃいませー」
 
 
 
店員がお決まりの挨拶を投げかけ、佐伯はペコリと会釈をして店内を進んでゆく。
 
落ち着いた雰囲気の静かな店内だったが、店員は寄ってこないようでホッと胸をなでおろした。
 
正直、衣料品店は従業員がグイグイ来る店が多いため、佐伯はあまり入るのが好きではなかった。
 
しかしこの店は客から声がかからない限りは来る様子がない。
 
そういう店なのだろう。
 
佐伯にとっては大変助かる店だ。
 
落ち着いた印象のコーナーに入り、服を物色してゆく。
 
 
 
「最近の衣料品は腐るほど展示してあるんだな…」
 
 
 
大量に並べられた衣服を見て佐伯がボソッと呟いた。
 
佐伯は昔からあまり服の好みがなかった。
 
そもそも金もなく仕事もなかった時からほとんど服は買っていないな、と佐伯は思い出しながら店内を歩いてゆく。
 
服もだが、心身の全てがボロボロになっていた時に小学生だった明寿に拾われ、気が付けばスーツを着せられ、運転手としての今の自分の姿になっていたのだ。
 
休日は特に何をするでもなく、部屋で一日を過ごすことも多く、服はたまに買いに行っていたが、安い店で無地のものを適当に買っていた。
 
しかし、今は東条家で働く者として恥ずかしい格好でいるわけにはいかない。
 
初めの頃はそういった身だしなみさえ気にしなかったが、周りにいる仲間たちに色々と注意され、出来る限り小綺麗な服装で過ごすようになったのだ。
 
それでも昔からあまり服に好みがなく無難な無地のTシャツやパーカーを買っていたのだが、自分もそろそろ四十になることだし、いい加減子供っぽい服を減らして落ち着いた印象の服を揃えなければと思っていたところだった。
 
だが、自分に合う服がどういうものかも分からないし、だからといって派手な模様も嫌だった。
 
すると必然的に選ぶのはやはり無地になってしまう。
 
無地のTシャツから無地のポロシャツに変わるだけだな、と佐伯は溜息を吐いた。
 
 
 
「…はぁ」
 
 
 
無地のポロシャツを眺めながらぼんやりしていると、背後から女性店員が声をかけてきた。
 
 
 
「あの、お客様、お困りでしょうか?」
 
 
 
ドキッとしながら後ろを振り向くと、女性店員が遠慮がちに話しかけてきた。
 
突然のことに少し戸惑ったが、佐伯は控えめに訪ねてきた店員に振り向いて服選びに困っていることを説明した。
 
女性店員は少し笑いながら佐伯に言う。
 
 
 
「それでしたら一緒に選んで差し上げましょうか?」
 
「え、えっと…」
 
「ご予算などお聞きしても?」
 
「その、特に予算は決めてないですけど…」
 
「そうなんですね。えっと、どのような服をお求めですか?要求に見合った服を選んでみますよ」
 
「…なら、お願いします。その…」
 
 
 
女性店員の控えめな対応に、佐伯は任せてみることにした。
 
何度か会話を交わし、話の流れで佐伯の年齢を聞いた女性店員が驚いたように少し大き目な声を出した。
 
 
 
「ええっ、お客様、来年で四十歳ですか!?本当に!?本当の本当ですか!?」
 
「…?はい、もう中年のおじさんですよ」
 
「お、おじさんっ!?」
 
「…それがどうかしました?」
 
 
 
佐伯は不思議そうに首を傾げ、驚いている女性店員の様子に戸惑っている。
 
もしかするともっと老けて見えたのかもしれないと思い、少し悲しくなった。
 
すると女性店員が、少し興奮気味に言った。
 
 
 
「お客様っ、わたし、お客様はまだ二十代前半の青年の方かと思っていましたっ、大変失礼いたしましたっ、あまりにも可愛らしいお顔でしたものでっ、まさかわたしよりもずっと年上の方だとは思いもよらずっ」
 
「………え、二十代の青年?いや、それは流石に…」
 
 
 
お世辞にしては冗談が過ぎる、と佐伯は苦笑いしながら困ったように笑う。
 
しかし、女性店員は本気で言っているらしく、遠くにいた仲間の従業員たちもやけに驚いた様子だった。
 
少々居心地が悪くなり、佐伯は店から出ようかと思っていたのだが、女性店員はやけに張り切った様子で佐伯に向かって口を開いた。
 
 
 
「お客様っ、わたしが誠心誠意、全力を尽くして大人向けの服をご用意いたしますねっ」
 
「え、あ、そのっ、んん?」
 
「お客様のご注文ですが、その年齢に見合った大人らしい落ち着いた装いが良いということでよろしかったですかっ?」
 
「あ、えっと、は、はい、そうです、けど…」
 
「少々お待ちくださいませっ、わたくしどもが店内の隅から隅まで見渡し、お客様にふさわしい服をチョイスしてまいりますのでっ」
 
「お、お願いします。…わたし、たち?」
 
 
 
店内の全店員が現れ、ワラワラと佐伯の周囲に集まってくる。
 
不安になり、佐伯はどうしようかと若干挙動不審になるが、女性店員らは一致団結したように店内の服を物色し始めた。
 
佐伯はいつの間にか近くに設置されている椅子に座らされていた。
 
数分後、女性店員が戻ってきた。
 
 
 
「お客様、お待たせいたしました。こちらが我々でご用意いたしました服になります。どうぞ試着してみてくださいませ」
 
「はい、じゃあ…」
 
 
 
佐伯は近くにあった更衣室に入った。
 
どちらにせよ、自分ではどのような服を選べばいいのかも分からないことに気付き、少々落ち着いた様子の佐伯は手渡された服を着てみることにしたらしい。
 
自分ではきっと選ぶことなどないだろうというような落ち着いたデザインの服だった。
 
しかし、大人過ぎる印象もなく、自分に合っているような気がするが、よくわからない。
 
服を着て鏡を見るがやはり自分では似合うのかどうかも分からず、佐伯は更衣室のカーテンを開けて女性店員の意見を聞いてみることにした。
 
 
 
「着てみたけど、…どうです?俺、あんまりこういうの着たことがなくて…」
 
「あらっ、よく似合ってますっ」
 
「このデザイン、俺が着てもおかしくないですか?」
 
「全然おかしくないですっ」
 
「う~ん」
 
「気になるのでしたら他にも選んでますので、そちらを試着してみては?」
 
「そうしてみます」
 
 
 
それから何度か試着を繰り返し、この女性店員のお陰でどうにか服を数着ほど選ぶことができた。
 
支払いを済ませ、佐伯は嬉しそうに紙袋の中身を見た。
 
 
 
「お陰で服を選ぶことができました、どうもありがとう」
 
「いえいえっ、お客様に気に入ってもらえる服が用意できてよかったです。こちらこそありがとうございました。滅多にお客様のようなお美しい方はいらっしゃらないので、わたしたちも楽しく接客ができました。また機会があればお越しくださいませっ」
 
「うん、それじゃあ、また服が欲しくなったらここに来ます。…え、美しい??」
 
 
 
女性店員に見送られ、佐伯は店を後にした。
 
最後に言われた美しいという言葉に疑問を感じたが、忘れることにする。
 
佐伯は気づいていないようだが、もうすぐ四十になるという男にしては佐伯はとても若く見えるし、透き通るような白い肌と少し儚げな表情は昔から変わらずずっと美しいままだ。
 
東条家でもそれは皆が言っているし、東条家以外からも明寿専用の運転手はいつまでも美しいままだと評判だというのに、気づかないのは本人のみだ。
 
しかも、当の本人は自分のことをおじさんだと言って卑下する始末。
 
仲間たちからは冗談を言うなとたまに怒られるが、明寿は特に何も言わない。
 
明寿にとってそのような会話はくだらな過ぎてどうでもいい。
 
少し弾む心のまま、佐伯はブラブラと散歩を再開した。
 
 
 
「…そろそろ昼になるな」
 
 
 
時計を見ればもうすぐ正午。
 
視察はまだ終わらないらしく、連絡はない。
 
昼食は彼らとすると言っていたので、自分は自分で適当に済ませようかと考えていた。
 
コンビニで買って公園ランチか、喫茶店で軽食か。
 
そう考えながら歩いていると、目の前にレトロチックな喫茶店が見えた。
 
 
 
「…入ろうかな」
 
 
 
滅多に見ない落ち着いた雰囲気の喫茶店に、佐伯の足が止まった。
 
前にテレビで見たような昔風の喫茶店。
 
一度は行ってみたいと思っていたところだ。
 
チラリと中を覗いてみるが、一人で入っている客も結構いた。
 
小さく頷いた佐伯は、ソロリとその喫茶店に足を踏み入れた。
 
 
 
チリンチリン…
 
 
 
「いらっしゃいませ~」
 
 
 
店内からウエイトレスが現れ、挨拶をする。
 
 
 
「一名様でよろしいですか?」
 
「はい」
 
「ご案内いたします」
 
「お願いします」
 
 
 
佐伯は性格的に、一人で喫茶店に入るタイプではなく公園ランチタイプなのだが、何故かこの喫茶店には入ってみたいと思った。
 
どこか懐かしいような店内の雰囲気と優しい印象のウエイトレス、キッチンでは年配のコックさんがいて、佐伯はこの静かな場所が気に入ったらしい。
 
 
 
「こちらの席にどうぞ。ご注文がお決まりでしたらベルを鳴らしてお呼びください」
 
「はい」
 
 
 
メニュー表を開き、何にしようかと考える。
 
ナポリタンにカレー、パフェにトースト、メニューまでレトロな感じだ。
 
注文の決まった佐伯はベルを鳴らし、ウエイトレスを呼んだ。
 
 
 
「お待たせしました、ご注文をどうぞ」
 
「えっと、フレンチトーストとホットコーヒーを」
 
「かしこまりました、しばらくお待ちくださいませ」
 
 
 
会釈をしたウエイトレスが静かに去る。
 
店内は老若男女、様々な客がいた。
 
皆、この落ち着いた喫茶店が気に入って来ているのだろう。
 
しばらく待っていると先程のウエイトレスが注文した皿を持ってやってきた。
 
 
 
「お待たせ致しました」
 
「ありがとう」
 
 
 
美味しそうな匂いがした。
 
目の前にはフレンチトーストとコーヒー、それに、何故かプリンアラモードの皿ががそっと添えられた。
 
佐伯は慌ててウエイトレスに言う。
 
 
 
「あ、あのっ、これは注文してないので他のお客様のをもってきたんじゃ…っ」
 
 
 
そんな佐伯の様子に、ウエイトレスがクスリと笑って言った。
 
 
 
「ふふっ、これは私からサービスです。君、大学生かしら?とっても美人さんだから、お姉さんからプレゼントよ」
 
「えっ?…えっと、あの、う…、あ、ありがとう、ございます…」
 
「今時の学生さんにしては大人しいのね。それではごゆっくり、失礼します」
 
「………が、学生さん…」
 
 
 
去っていったウエイトレスはどう見ても自分より年下だったが、まさか大学生と間違えられるとは思わなかった。
 
そんなに自分は他人から見て子供っぽいだろうか、仕事中でネクタイはしていないがしっかりとスーツだって着ているというのに。
 
今日は髪を下ろして来ていたが、そのせいも多少はあるだろうか。
 
 
 
「…髪、アップにしてくればよかったのかな…あ、美味しい…」
 
 
 
佐伯はプレゼントされたプリンアラモードをスプーンで掬って口に入れた。
 
バニラの甘い香りはやはりどこか昔の懐かしさのようなものがあり、自然と佐伯の表情が柔らかくなる。
 
小さな口でフレンチトーストを頬張る佐伯を店内にいたウエイトレスたちがニコニコしながら見ているが、佐伯は気付いていないようだ。
 
それどころか、店内にいた客たちもほんわかした雰囲気で見ているのだが、やはり佐伯は最後まで気付くことはないのだが。
 
 
 
「美味しかったです、あの、プリンアラモード、ありがとうございました…」
 
「いいえ、またいらしてくださいね!」
 
 
 
佐伯はペコッと頭を下げて店を出た。
 
あまり一人で歩き回らないが、たまにはいいものだと思いながら歩いてゆく。
 
そろそろ車に戻って待機していようかと、佐伯は明寿がいる取引先へと戻る事にした。
 
時々紙袋の中身に視線を向け、少し嬉しそうに笑う。
 
しばらく歩いていると、目の前に数人の若い不良集団が見えてくる。
 
あまり近づかないようにするため、佐伯はその集団を避けるように道の端の方に寄り、彼らから十分な距離を取った。
 
すれ違いざま、集団の一人がこちらをチラリと見たようだが、特に何かを言われたわけでもなく、ただすれ違う人物を見ただけのようだったためホッとしたように息を吐く。
 
そろそろ明寿の方も終わるころだろうと思い、佐伯は少し歩みを早めた。
 
すると、背後から男性に声をかけられ、佐伯は後ろを振り向いた。
 
 
 
「なあ、ちょっといいか?」
 
「え?」
 
 
 
振り向けば、目の前には先程すれ違ったばかりの集団がおり、その中の一人が佐伯を呼び止めたらしい。
 
嫌な予感がして、佐伯は若干後退りながら男を見た。
 
その男は多分リーダー格のような者で、とても派手な服を着ている。
 
見た目からしてかなり悪い相手だと分かる。
 
 
 
「へぇ…、かなり美人なお姉さんだな。アンタ、今から俺たちと遊びに行かない?ちょっとでいいからどっか行こうよ。な、いいだろ?」
 
「……っ」
 
 
 
ガシッっと両肩を掴まれ、無理やり正面を向かされた。
 
佐伯は戸惑いながら口を開いた。
 
 
 
「いや、あの、俺、男なんで…」
 
「えっ、男!?嘘だろ!?そこらの女より全然美人なんだけど!!」
 
「あの…、だから、放してください、仕事中なので…っ」
 
「え~、マジかよ、凄いタイプなんだけど」
 
 
 
男は佐伯の性別を知りながらも、肩を掴んだ手を放す様子がない。

それどころか逃がすまいとするように力を強めてくる。
 
佐伯の痛みに強張る表情を見て、男がニィッと笑う。
 
気味の悪い笑みに、何か嫌な予感がした。
 
 
 
「すみません、急いでるので…っ」
 
「おっと~、そんなに慌てて逃げなくてもいいだろ。男でも一緒に遊ぶくらいできるしなあ、そうだろお前ら!」
 
「ウイーッス!」
 
「イエーイ!」

「だよなぁ、できるよなぁ!!」
 
「……っ」
 
 
 
どうにか掴まれた肩から逃げ出そうと体を捩るが、男の握力はとても強く、細い佐伯の体はビクリとも動かなかった。
 
いくら治安のよさそうな場所でも、こういう不良集団は探せばどこにでもいるものだ。
 
このような若い不良集団というのは、ヤクザほどの悪事を働く度胸はなくとも、弱い女性や老人などには力任せに暴力を振るったり、金銭を取ったりすることが出来る、肝っ玉の小さい者たちばかりだ。
 
しかし、それでも力では敵わない。
 
骨が軋むほど強く掴まれ、佐伯は表情を強張らせる。
 
 
 
「い、痛いっ、は、はなしてっ」
 
「俺たちと遊ぶなら放してやるけど~?」
 
「できませんっ」
 
「なら放さないし」
 
「…い、いた…っ」
 
 
 
そのままズリズリと距離を縮められ、佐伯は男たちに引きずるようにして場所を移動させられた。
 
気が付けばそこは人気のない裏道だった。
 
人通りなど全くないような場所に連れられ、下っ端の者らに体を羽交い絞めにされ、背中から壁に押し付けられてしまう。
 
 
 
「や、やめてくださいっ、一体何を…っ」
 
 
 
必死に抗うも、ガッシリと全身を固定されてしまえばどうすることもできない。
 
リーダー格の男が佐伯の顔をジイッと眺め、気味の悪い笑みを見せる。
 
ゾッとするような寒気を感じ、佐伯は顔を逸らした。
 
 
 
「いやあ、男でもこんな綺麗な顔の奴は見たことないぜ。肌も白くて艶がある。何だよこの腰の細さ、女でもこんなに細い奴は滅多にいねえし。おいおい、見てみろよ、この小さな尻!」
 
 
 
グイッ
 
 
 
興奮したように男は佐伯の尻に両手を回し、そのまま思い切り掴んで力強く揉んだ。
 
その行動に、今から自分が何をされるのか分かり始め、佐伯の顔色は真っ青に変化してゆく。
 
震える声で拒絶しようとするが、男はその仕草さえも興奮する要素の一つとして受け止めてしまう。
 
 
 
「あっ、や、やめ…っ」
 
「声も案外イイな、アンタ。男でもアンタなら楽しく遊べそう。お前ら、どうよ?」
 
「イイっすね~。俺も結構イケそう」
 
「俺も俺も!」
 
 
 
皆で佐伯を囲み、男たちは楽しそうに会話をしている。
 
遊びというのが何か、それは確信に変わった。
 
これから自分は彼らに襲われるのだ。
 
佐伯の目が恐怖で見開かれ、ジワリと涙が浮かんでくる。
 
怖くて、声が出ない。
 
体が震え、抵抗する気力が無くなってゆく。
 
 
 
「…っ、…ひっ……っ」
 
「はははっ!そんなに怯えんなって!今から楽しいことするんだからさあ!」
 
「……っ…」
 
「ひゃはははははっ!!」
 
 
 
ポロッと涙が零れた。
 
何故自分はこう、昔から男に襲われてしまうのだろうか。
 
何度同じことを繰り返せば、これが終わるのだろううか。
 
もしかすると自分が悪いのだろうか。
 
自分が無意識に、男たちに媚びを売るような行動をしているのだろうか。
 
 
 
ブチイッ
 
 
 
「ひ…っ」
 
 
 
スーツの上着が無理やり開かれ、ボタンが地面に弾け飛んだ。
 
白いカッターシャツに男の手が伸び、そして同じように力任せに破られる。
 
 
 
ブチッ、ブチブチッ、ビリィッ
 
 
 
「…うぅ……っ…」
 
 
 
声を出して悲鳴を上げることさえ出来なくなり、ガクガクと体が震えている。
 
破れて布切れとなった隙間から現れた白く美しい肌に、男たちの目がギラリと光った。
 
一切無駄な肉のない痩せた体、あまりにも細い腰、恐怖に震えて涙を零す顔、その全てが男たちを誘う。
 
リーダー格の男の顔が近付くと、荒く熱い息が肌に触れ、佐伯の体がギクリと硬直した。
 
恐怖に震える体は逃げることを忘れてしまったようだ。
 
昔の恐怖を思い出し、佐伯の目が濁ってゆく。
 
 
 
(…また、また俺は、こんな男たちに犯されて、明寿様を裏切るのか…。俺は明寿様のモノなのに…、俺は、明寿様しか、触れてほしくないのに…、ごめんなさい…、ごめんなさい、明寿様…)
 
 
 
突然佐伯が抵抗を止めた。
 
それを了承だと勘違いした男たちは興奮したように佐伯の体から手を離し、ドサリと地面に寝かせた。
 
抗うことを諦め、何も言わずに涙を流し、肌を晒されてゆく。
 
全裸にされ、鼻息を荒くした男の一人が佐伯の体を見て言った。
 
 
 
「見てくださいよこの傷!!すごいッスよ!!タバコの痕に刺された痕、それにこっちは縫ってるし!!もしかして案外そういうプレイも喜んでするタイプだったとか!?」
 
「ああん?見せてみろ。…へえ、凄いな。…はははっ、アンタ、結構そういうのが好きだったんだ?面白い!!それなら遠慮しなくてもいいだろ!!おい、全員で相手してもらうぞ!!」
 
 
 
ワアアア、と皆が興奮して奇声を上げている。
 
佐伯の表情は既に無く、まるで人形のように静かだ。
 
もう、何もする気力がない。
 
魂が抜けたように瞳から光が消え、何も聞こえなくなった。
 
 
 
(…そうだ、また我慢すればいい。何も聞かず、何も見なければいい。我慢すればいつか終わる…)
 
 
 
青白い顔で虚空を見つめ、佐伯は静かに心を閉じる。
 
例え傷だらけの体であっても、肌は白く美しい。
 
男たちは我先にと佐伯に群がり、それぞれが別の場所を責めようとしていた。
 
両手を破れた服で縛られ、口にも適当に布を詰め込まれ、舌を咬ませないようにさせられた。
 
左右から足を多きく開かされ、ググッと持ち上げられてしまえばもう、どうすることもできない。
 
 
 
「おいおい、どうしたんだ急に静かになりやがって」
 
「何だかんだでこいつも楽しむ気でいるんだろ」
 
「はははっ」
 
 
 
都合のいいようにとらえた男たちは、抵抗しなくなった佐伯に気をよくしたらしい。
 
気持ちの悪い複数の手が肌を撫でてゆく。
 
誰かの手が佐伯の萎えたペニスを握り、何度か擦る動きを見せる。
 
しかし反応などするはずもなく、くたりと下を向いたままだ。
 
男たちは笑いながら佐伯に言った。
 
 
 
「もしかしてお前、こっちは使い物にならないとか!?」
 
「ぎゃはははっ!!まじかよおいっ」
 
「こんな綺麗な顔してりゃあ使えなくても困ることなんてないだろ!!」
 
「ああ、後ろさえよけりゃあなぁ!!」
 
 
 
大笑いしながら男たちは佐伯の下半身を持ち上げた。
 
 
 
「…ぐぅっ…」
 
 
 
足を広げられたまま後ろの蕾を披露され、佐伯は地面に押し付けられた背中の痛みに小さく悲鳴を上げた。
 
小さな石が肌を傷付け、背中や腰に血が滲んでいる。
 
口に無理やり詰め込まれた布のせいで、佐伯は苦しそうに呼吸をしているが、誰もそんなことを気にする様子もなく、ただただ目の前の美味そうな体に夢中になっているようだ。
 
 
 
グプッ…
 
 
 
「…っ、…んぐっ…」
 
 
 
とうとう後ろに誰かの指が入れられ、佐伯は怖くなり全身を小さく震わせている。
 
ずっと忘れていた恐怖を思い出し、呼吸が上手くできない。
 
 
 
「……ひぃっ……んぅっ……ひっ……ひっ…」
 
 
 
怖い、怖い、怖い。
 
彼らの自分を見る目が、全身を這う手が、ニタリと笑う口が、全てが怖かった。
 
息が吸えない、吐けない、苦しい。
 
もう、このまま、息が止まってしまえばいいのに。
 
死にたい。
 
死んでしまいたい。
 
死んで、楽になりたい。
 
でも、死ぬ前にもう一度…
 
明寿様に、会いたい。
 
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