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10 中野忠男2(友人/37歳)
しおりを挟むとうとう中野は諦めた。
今回も奮闘したが、玉砕だった。
結城に伝えるための語彙力が、足りない自分が悪いのだ。そういうことにした。
「はあ、もういい。説教は終わりだ」
「え、これ説教だったの?何についての?」
「…もういいって、勘弁してくれ」
「ええー?」
結城は笑いながら中野を見ているが、とにかく言いたいことは何一つ伝わらなかったらしい。
完全に脱力し、ゴロリと寝転んだ中野を見て、結城は嬉しそうにニコリとした。
「…まあ、可愛いんだけどな」
「何の話?」
「独り言だっての」
「変なの」
変なのはお前の方だと言いたかったが、面倒くさくなり止めた。
ドッと疲れた襲い、中野は目を閉じる。最近少し忙しかったせいか、眠たかった。
だが今は友人として家に招き入れた結城がいる。無理矢理体を起こし、結城を見た。
結城は昔と同じままだった。ずっと笑いながら何を考えているのやら。いや、もしかすると何も考えていないのかもしれない。
ただこうして笑っていて、そばにいる。学生時代、結城はいつも笑って隣に座っていた。
今ではすっかり落ち着いた印象の中のだが、昔はかなり荒れていた。
クラスで問題児だった中野はあの頃、親と衝突し、教師に歯向かい、同級生らと喧嘩をよくしていたのを思い出した。
そういえば、話しかけてきたのは結城だけだった。
ああして笑顔で隣にいて、昼飯を一緒に食べていた。学生の頃の思い出など、それくらいしかない。
だから結城のことが心配なのだ。
悪い虫に襲われ、泣かされないかと心配している。
昔から貞操観念が欠如していた結城は、よく上級生の男子から呼び出しを受け、襲われそうになっていた。
そんな時でも結城は笑い、よくわからないという表情をして成り行きに任せていた。
そこに割って入っていたのはいつも中野で、襲われそうになっている結城の手を掴み、逃げていたものだ。
何故こうも人を引き寄せてしまうのか、そして何故、彼は体を許すのか、それだけが未だにわからない。
何度か尋ねたこともあるが、聞きたかった応えとは全く違う言葉ばかりが結城の口からは出るばかり。
あまりにも鈍感すぎる結城に切れて、殴りかかろうと握った拳を上げるが、いつも上った血が急降下して殴れなくなってしまう。
それというのも、結城には全く殺意がない。
そして、こうして笑っているのだ。嬉しそうに、楽しそうに笑い、優しい笑顔で誰彼構わず受け入れてしまう。
そこか結城の良いところであり、欠点でもある。
そうまでして自分の体を粗末にする理由などないはず。
目の前でニコニコしている結城に、中野は小さく溜め息を吐いた。
「やっぱり、疲れてるんだね」
「…疲れてねえよ」
「ううん、忠男は今、凄く疲れてる」
「…そう見えるか?」
「見えるなあ」
「そうか…」
そう言えば昨日、上司と少し喧嘩腰になった。
部下に止められ、どうにかその場は治まったが、それからあまり上司とは話もしていない。
昇格すれば責任も増え、その分ストレスも同じくらい増える。
それが大人であり、仕事をする上での決まりごとだ。何も知らなかった子供の頃の自分と、今の自分では全く責任の重さが違うのだ。
自分も大人になったなと苦笑し、中野は結城を見た。
そう、結城は今でもこうして、大人になった今でも優しい笑顔を向けてくれる。
何を考え、何を思っているのかはわからないが、それが結城なのだった。
少し苛立ちが治まった様子の中野に、結城が近寄りそっと囁いた。
「中野にも、慰めエッチ、してあげようか?」
「………ボケ」
「えー?疲れてる時は慰めエッチが良いって聞いたんだけどなあ」
「…誰だよ、こいつにそんなコト教えたの」
「何か言った?」
「言ってねえー」
まるで学生の頃に戻ったような会話に、中野がククッと笑った。
するとそれを見て結城も笑みを深め、二人してクククッと笑い合った。
何がそこまで面白いのかもわからず、二人は笑い続けた。
そうして夕方になり、中野は時計を見た。
「あ、もうこんな時間か。おい久弥、お前、何か食ってくか?」
「いいの?」
「出前でいいなら」
「あははっ、出前ね。ならご馳走になろうかな」
「決まりだな」
中野はスマホを取り出し、適当に数種類注文すると、すぐにスマホをテーブルに置いた。
結城は嬉しそうに出前が届くのを待っている。そう言えば、こうして二人でゆっくりと食事をするのはひさしぶりだ。
しばらくすると出前が届き、二人はのんびりと話をしながら食事を始めた。
「お前、あんまり老けてねえよな」
「そう?忠男はちょっと親父になったかな?」
「何だって?」
「あははっ、ほら、眉間の皺がすごい」
相変わらずの結城は、昔のままだった。嬉しそうに笑って、楽しそうに生きている。
「社会に出てから、辛かったり、腹が立ったりしたことないか?」
「んんー?」
結城は出前で注文したピザを頬張りながら、中野の質問に不思議そうに首を傾げた。
モグモグとのんびり噛み、ゴクンと飲み込んだ結城が笑う。
「いつも楽しいよ」
「…そうかよ」
中学の頃も、高校の頃も、同じ質問をしたことがあった。そして結城の返事はいつも同じだった。
中野はいつもつまらなかった。
自分を含めた人間という生き物が嫌いで、堪らなかったというのに、結城はいつも楽しそうに笑っている。
羨ましいと思った。自分もそうやって、楽しく生きていける性分なら良かったのに。
笑顔でこちらを見ていた結城に、中野はフッと苦笑した。結城は笑顔のまま中野を見ていたが、少しして、優しい眼差しを向けながら言う。
「ねえ、忠男」
「あん?」
「慰めエッチが嫌なら、仲良しエッチしよう」
「…ふんっ」
中野はそっぽを向きながらピザを取り、パクリと口に入れた。
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