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第1章――1 【 自由奔放なパートナー/吸血鬼との旅 】
第5話 旅のパートナーは吸血鬼
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裏路地で倒れている女性を助けたら異世界転移に連れてこられました。
「ずぅぅん」
「おーい。センリ? 大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないよぉ」
僕が異世界転移をしてしまった事実を理解してから数分後。果たしてすっかり意気消沈してしまった僕は、立つ気力も湧かなくなってその場にしゃがみ込んでいた。
リリスはそんな僕の頬を突きながら訊ねてきた。
「ねぇ、センリ。さっき異世界転移しちゃった、みたいなこと呟いてたけど、それってどういう意味?」
「どういう意味もなにもないよ。僕、リリスに異世界に転移させられたんだよ」
「ふむ。改めて聞いてもよく解らないわね。私にそんな、次元を跳躍するなんて芸当はできないわよ」
「それが出来ちゃったから僕は今途方に暮れてるんだよ」
僕ははぁ、と盛大に嘆息を落とす。それから、ここまでの状況を整理して導き出した一つの推論をリリスに語った。
「リリス。キミはひょっとして、あの裏路地で倒れる前に一度空間転移を使ったんじゃないかな?」
「えぇ。ちょっと厄介なヤツに巻き込まれて。ソイツから逃げる為に使ったわ」
リリスは空間転移を精密にコントールする技術はないらしく、発動こそできるものの行先は完全にランダムらしい。つまりは緊急脱出用として空間転移を使った訳だ。
「それで、空間転移を使う前にいた場所は、クゥエスって場所だったんじゃない?」
「その通りよ。まぁ、正確にはクゥエス近辺の森でだけど」
「詳細な場所はいいよ。とにかく、リリスが転移する前にいた最後の場所はクゥエスって所だったのが分かればいい」
あとは簡単な話だ。
「リリスはクゥエスって場所にいて、変な人に絡まれて瀕死の重傷を負わせられた。そしてその人から逃げる為に空間転移を使ったけど、行先が完全にランダムな空間転移は何故かこの世界のどこかではなく、僕がいた地球に繋がってしまった」
「あぁ、なるほど。そういうことね」
説明の途中でリリスが僕と同じ思考に辿り着いたらしく、納得と吐息をこぼす。僕はそれに相槌を打って、
「そういうこと。で、僕は逃げて転移してきたリリスとあの裏路地で遭って、そしてリリスと一緒にこっちの世界に転移してしまった」
もっともリリスの場合は帰還した、というのが正確だろうけど。
とにもかくにも、僕はリリスと一緒に異世界転移してしまったという訳だ。
最悪な仮説付きで。
「ご、ごめんなさい! まさかセンリが異世界の住人だったなんて知らなくて……」
「それは仕方ないと思うよ。だって僕らの会話、終始話が食い違ってるようだったから」
ここまで来ればその食い違いにも色々と合点がいく。
僕がクゥエスという地名を知らなないのも。リリスが自らを魔族の吸血鬼と名乗っていたことも。僕が魔法を見て驚いたことも。
リリスにとってはきっと、僕の言葉の全てが無理解だったろう。名の知れた大陸を知らないと断言し、魔法など存在しないと言い張り、あまつさえリリスが吸血鬼だと信じようともしなかった。
それはお互いが異世界の住人同士だったからこそ起きた食い違いだ。僕らはこの答えに辿り着くまで、ずっとお互いの素性を知らずに会話していたのだ。……アン〇ャッシュのコントみたいに。
まぁ、本来ならそれも絶対にありえないんだけど。
「ちなみにリリス。空間転移でもう一度異世界……僕が元いた世界に帰れたりする?」
一通り情報を整理して……いやまだこの事実を受け入れられてはいないんだけど、まずは何よりも確かめたいことがあった。それがこの質問。もしかしたら、なんて一縷の望みをかけてリリスに聞いてみたけど、
「ごめんなさい。それはほぼ不可能に近いと思うわ。一度センリの住む世界に転移したから、その時に座標事体は魔法に刻まれたはずだけど、最初に説明した通り、私は空間転移を発動できても行先を決められるほど正確な魔力操作はできないわ」
「だよねぇ」
リリスから返ってきた答えは、案の定、僕が予想した通りの答えだった。
「そもそも空間転移は魔力消費が尋常じゃないの。私は魔族だから魔力は多い方なんだけど、それでも空間転移を一回使っただけで数日は魔法が使えなくなるくらいは魔力を消費しちゃうの」
「空間転移ってそんなに大技だったんだ⁉」
「えぇ。ぶっちゃけ、今の私の魔力は空よ」
「つまり、リリスはしばらく魔法使えないってことか」
「魔族としてはなんとも情けない話だけどね」
仮にリリスがまた空間転移を使えるようになったとしても、行先がランダムだから地球に帰れる確証もない。
「そもそも、異世界に転移すること事体がイレギュラーなのよ。私が生きて聞いてきた限りで、空間転移で異世界に渡った、なんて話は聞いたことがないわ」
「つまりリリスの他に前例がないってことか」
「うん」
奇跡か偶然か。リリスは自分でも予想できない空間転移を体験しまったらしい。確かに、リリスがイレギュラーと言うのも頷ける。
「要するに、僕は現状、すぐには地球に戻れないってことか」
それはあくまで楽観的な結論だ。空間転移という魔法の性質を知れば知っていくほど、状況は限りなく詰みに近しい。
「ええと、その、ごめんなさい!」
「…………」
ことここに至ってようやくリリスも僕の現状の深刻さを理解したのか。常に凛とした印象を受ける彼女の顔が初めて曇った。
「センリが異世界の住人だったことを知らなかったとはいえ、私の軽率な行動で貴方を故郷に帰れなくしてしまった。それについては深く謝罪するわ」
「……リリス」
「弁明の余地もないけど、私を助けてくれた貴方にお礼をしたかったの。貴方が魔法を見たことがないって知って、それでとびきり凄い魔法を見せてあげたいと思ったの」
段々と語勢がなくなっていくリリスは、怒られた子どものように顔を俯かせていく。
自分の身勝手さに激しく悔悟するような姿は、僕が彼女に魅せられた表情とあまりにかけ離れていて。
どうしてか、彼女のそんな顔は見たくない自分がいた。
「ありがと、リリス」
「――ぇ」
唐突に感謝を伝えた僕に、リリスがバッと顔を上げるとそれを受け止め切れずに呆けた。
そして僕を見つめたまま唖然とするリリスに向かって言った。
「たしかに僕が元の世界に帰れないことはショックだよ。それに僕もまだ状況を呑み込み切れてない」
「――――」
「でも、リリスの魔法を見て感動したのは事実だ」
「……ぁ」
僕はリリスに微笑を浮べてそう告げた。
「僕ね、リリスの魔法を見た時、すごく胸が高鳴ったんだよ。だって、地球には魔法なんてもの、ファンタジーの世界にしか存在しなくて、現実はずっと地味でありふれた日常の連続だったから」
それがこの先も、僕が死ぬまでずっと続くと思っていた。
でも、違った。
「異世界も、魔法も、魔族も現実に実在してたんだよ! 僕はずっと、ファンタジーの世界に憧れてたんだ。絶対に手が届かない架空の世界だからこそ、好きで好きで堪らなかった」
抱いた憧憬は決して叶わないものだと思っていた。映像と紙の中にしか存在しない世界に渇望して、日々憂いていた。
――そうだ。
僕は、ずっと憧れたんだ。
つまらない日常を覆してくれる世界に。何の取柄もない僕を退屈な日常から引っ張り出してくれる手を。空想じゃなく、現実に起こる魔法を。
――あぁ。だからなんだ。
この胸が絶望よりも期待が勝っているのは。
「ありがとうリリス。僕に魔法を魅せてくれて」
「――――」
僕の想いを聞いたリリスは、しばらく目を見開いたまま硬直していて。
やがて、彼女の口唇から「ぷっ」と息を吹き出した音が洩れると、
「変なヤツね、センリは。強引に異世界に連れてこられたのに、それを咎めるどころか感謝するなんて」
「うん。僕も自分に呆れてる。でも、変えられない現実をいつまでも引き摺ってても仕方ないでしょ」
「だから受け入れて前に進むって?」
「楽観視するつもりはないし、現状かなりマズいなって自覚はちゃんとしてるよ。でも、それ以上に僕は今、わくわくしてるんだ」
少なくとも、この胸の高揚は嘘じゃない。
そして、不安も恐怖もちゃんとある。
もしかしたら憧れていた異世界生活は僕の想像よりもずっと過酷なのかもしれない。でも、この世界に降り立ったからには、やってみたいことは全部やってみたい。
きっかけは何であれ、僕はずっと憧れていた世界に来れたんだ。そんなの、全力で楽しまなきゃ損じゃないか。
「貴方。本当に変わってるわ」
「リリスには分からないかもね。でも、僕みたいなオクタなら誰もが一度は魔法を使える世界に行きたいと思うんだよ。だから異世界ものラノベは日々新作が絶えない訳だしね」
「そのラノベってものは知らないけど、でもセンリがいた世界には、センリみたいなヤツがたくさんいるのことだけは分かったわ」
「あはは。うん。それさえ分かってくれれば十分だよ」
僕とリリスは笑みを交わし合った。まだ僕らは出会って間もないのに、それなのにその笑みは、何度も苦楽を共にしてきた者同士が見せるような信頼の笑みで。
「……うん。やっぱり、気に入ったわ」
不思議な感覚に包まれていると不意に「センリ」とリリスに名前を呼ばれた。小首を傾げる僕の眼前に、リリスが右手を差し伸ばした。
「ねぇ、センリ。私と一緒に行かない?」
「ぇ」
リリスは僕を真っ直ぐに見つめて言った。
「貴方をこっちに連れてきた責任――いいえ。私、センリのことすごく気に入ったわ。まぁ、だから強引に貴方を一緒に連れてきたんだけど……コホンッ、とにかく。センリは異世界から来たばかりでこの世界のことは何も分からないでしょ?」
「うん」
「だから、しばらく一緒に行動しないって提案してるの。ガイドっていうほど詳しい道案内はできないけど、それでも一人でこの世界を渡り歩くよりかは私と一緒に行動した方が安全だと思うの」
「ええと、それは僕からしたら嬉しい提案でしないんだけど、でも、いいの?」
「もちろんよ。一人より二人の方が何かと心強いし、それにさっきも言ったけれど、私、貴方のことを気に入ってるから」
差し伸ばされた手の意味はつまり『これからしばらく一緒に旅をしよう』という申し出らしい。
その意味を理解した僕の返事は、考えるまでもなく決まっていた。
――あぁ。本当に始まるんだ。僕の異世界生活が。
「ねぇ、答えはどうなの?」
「そんなの、もちろん決まってるよ」
少し不安げな表情を浮かべるリリス答えを催促されて、僕はこの胸の高まりとともに答えを彼女に告げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「――ふふ。決まりね」
僕は、躊躇う素振りなくリリスから差し伸べられた手を握り返した。
そうして硬く握り合った手に、リリスは嬉しそうに微笑みを浮かべて。
「それじゃあ行きましょうか。私と貴方の新しい旅に」
「うん!」
「……可愛いわね。コイツ」
こうして、僕とリリスの異世界生活が幕を開けた。
「ずぅぅん」
「おーい。センリ? 大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないよぉ」
僕が異世界転移をしてしまった事実を理解してから数分後。果たしてすっかり意気消沈してしまった僕は、立つ気力も湧かなくなってその場にしゃがみ込んでいた。
リリスはそんな僕の頬を突きながら訊ねてきた。
「ねぇ、センリ。さっき異世界転移しちゃった、みたいなこと呟いてたけど、それってどういう意味?」
「どういう意味もなにもないよ。僕、リリスに異世界に転移させられたんだよ」
「ふむ。改めて聞いてもよく解らないわね。私にそんな、次元を跳躍するなんて芸当はできないわよ」
「それが出来ちゃったから僕は今途方に暮れてるんだよ」
僕ははぁ、と盛大に嘆息を落とす。それから、ここまでの状況を整理して導き出した一つの推論をリリスに語った。
「リリス。キミはひょっとして、あの裏路地で倒れる前に一度空間転移を使ったんじゃないかな?」
「えぇ。ちょっと厄介なヤツに巻き込まれて。ソイツから逃げる為に使ったわ」
リリスは空間転移を精密にコントールする技術はないらしく、発動こそできるものの行先は完全にランダムらしい。つまりは緊急脱出用として空間転移を使った訳だ。
「それで、空間転移を使う前にいた場所は、クゥエスって場所だったんじゃない?」
「その通りよ。まぁ、正確にはクゥエス近辺の森でだけど」
「詳細な場所はいいよ。とにかく、リリスが転移する前にいた最後の場所はクゥエスって所だったのが分かればいい」
あとは簡単な話だ。
「リリスはクゥエスって場所にいて、変な人に絡まれて瀕死の重傷を負わせられた。そしてその人から逃げる為に空間転移を使ったけど、行先が完全にランダムな空間転移は何故かこの世界のどこかではなく、僕がいた地球に繋がってしまった」
「あぁ、なるほど。そういうことね」
説明の途中でリリスが僕と同じ思考に辿り着いたらしく、納得と吐息をこぼす。僕はそれに相槌を打って、
「そういうこと。で、僕は逃げて転移してきたリリスとあの裏路地で遭って、そしてリリスと一緒にこっちの世界に転移してしまった」
もっともリリスの場合は帰還した、というのが正確だろうけど。
とにもかくにも、僕はリリスと一緒に異世界転移してしまったという訳だ。
最悪な仮説付きで。
「ご、ごめんなさい! まさかセンリが異世界の住人だったなんて知らなくて……」
「それは仕方ないと思うよ。だって僕らの会話、終始話が食い違ってるようだったから」
ここまで来ればその食い違いにも色々と合点がいく。
僕がクゥエスという地名を知らなないのも。リリスが自らを魔族の吸血鬼と名乗っていたことも。僕が魔法を見て驚いたことも。
リリスにとってはきっと、僕の言葉の全てが無理解だったろう。名の知れた大陸を知らないと断言し、魔法など存在しないと言い張り、あまつさえリリスが吸血鬼だと信じようともしなかった。
それはお互いが異世界の住人同士だったからこそ起きた食い違いだ。僕らはこの答えに辿り着くまで、ずっとお互いの素性を知らずに会話していたのだ。……アン〇ャッシュのコントみたいに。
まぁ、本来ならそれも絶対にありえないんだけど。
「ちなみにリリス。空間転移でもう一度異世界……僕が元いた世界に帰れたりする?」
一通り情報を整理して……いやまだこの事実を受け入れられてはいないんだけど、まずは何よりも確かめたいことがあった。それがこの質問。もしかしたら、なんて一縷の望みをかけてリリスに聞いてみたけど、
「ごめんなさい。それはほぼ不可能に近いと思うわ。一度センリの住む世界に転移したから、その時に座標事体は魔法に刻まれたはずだけど、最初に説明した通り、私は空間転移を発動できても行先を決められるほど正確な魔力操作はできないわ」
「だよねぇ」
リリスから返ってきた答えは、案の定、僕が予想した通りの答えだった。
「そもそも空間転移は魔力消費が尋常じゃないの。私は魔族だから魔力は多い方なんだけど、それでも空間転移を一回使っただけで数日は魔法が使えなくなるくらいは魔力を消費しちゃうの」
「空間転移ってそんなに大技だったんだ⁉」
「えぇ。ぶっちゃけ、今の私の魔力は空よ」
「つまり、リリスはしばらく魔法使えないってことか」
「魔族としてはなんとも情けない話だけどね」
仮にリリスがまた空間転移を使えるようになったとしても、行先がランダムだから地球に帰れる確証もない。
「そもそも、異世界に転移すること事体がイレギュラーなのよ。私が生きて聞いてきた限りで、空間転移で異世界に渡った、なんて話は聞いたことがないわ」
「つまりリリスの他に前例がないってことか」
「うん」
奇跡か偶然か。リリスは自分でも予想できない空間転移を体験しまったらしい。確かに、リリスがイレギュラーと言うのも頷ける。
「要するに、僕は現状、すぐには地球に戻れないってことか」
それはあくまで楽観的な結論だ。空間転移という魔法の性質を知れば知っていくほど、状況は限りなく詰みに近しい。
「ええと、その、ごめんなさい!」
「…………」
ことここに至ってようやくリリスも僕の現状の深刻さを理解したのか。常に凛とした印象を受ける彼女の顔が初めて曇った。
「センリが異世界の住人だったことを知らなかったとはいえ、私の軽率な行動で貴方を故郷に帰れなくしてしまった。それについては深く謝罪するわ」
「……リリス」
「弁明の余地もないけど、私を助けてくれた貴方にお礼をしたかったの。貴方が魔法を見たことがないって知って、それでとびきり凄い魔法を見せてあげたいと思ったの」
段々と語勢がなくなっていくリリスは、怒られた子どものように顔を俯かせていく。
自分の身勝手さに激しく悔悟するような姿は、僕が彼女に魅せられた表情とあまりにかけ離れていて。
どうしてか、彼女のそんな顔は見たくない自分がいた。
「ありがと、リリス」
「――ぇ」
唐突に感謝を伝えた僕に、リリスがバッと顔を上げるとそれを受け止め切れずに呆けた。
そして僕を見つめたまま唖然とするリリスに向かって言った。
「たしかに僕が元の世界に帰れないことはショックだよ。それに僕もまだ状況を呑み込み切れてない」
「――――」
「でも、リリスの魔法を見て感動したのは事実だ」
「……ぁ」
僕はリリスに微笑を浮べてそう告げた。
「僕ね、リリスの魔法を見た時、すごく胸が高鳴ったんだよ。だって、地球には魔法なんてもの、ファンタジーの世界にしか存在しなくて、現実はずっと地味でありふれた日常の連続だったから」
それがこの先も、僕が死ぬまでずっと続くと思っていた。
でも、違った。
「異世界も、魔法も、魔族も現実に実在してたんだよ! 僕はずっと、ファンタジーの世界に憧れてたんだ。絶対に手が届かない架空の世界だからこそ、好きで好きで堪らなかった」
抱いた憧憬は決して叶わないものだと思っていた。映像と紙の中にしか存在しない世界に渇望して、日々憂いていた。
――そうだ。
僕は、ずっと憧れたんだ。
つまらない日常を覆してくれる世界に。何の取柄もない僕を退屈な日常から引っ張り出してくれる手を。空想じゃなく、現実に起こる魔法を。
――あぁ。だからなんだ。
この胸が絶望よりも期待が勝っているのは。
「ありがとうリリス。僕に魔法を魅せてくれて」
「――――」
僕の想いを聞いたリリスは、しばらく目を見開いたまま硬直していて。
やがて、彼女の口唇から「ぷっ」と息を吹き出した音が洩れると、
「変なヤツね、センリは。強引に異世界に連れてこられたのに、それを咎めるどころか感謝するなんて」
「うん。僕も自分に呆れてる。でも、変えられない現実をいつまでも引き摺ってても仕方ないでしょ」
「だから受け入れて前に進むって?」
「楽観視するつもりはないし、現状かなりマズいなって自覚はちゃんとしてるよ。でも、それ以上に僕は今、わくわくしてるんだ」
少なくとも、この胸の高揚は嘘じゃない。
そして、不安も恐怖もちゃんとある。
もしかしたら憧れていた異世界生活は僕の想像よりもずっと過酷なのかもしれない。でも、この世界に降り立ったからには、やってみたいことは全部やってみたい。
きっかけは何であれ、僕はずっと憧れていた世界に来れたんだ。そんなの、全力で楽しまなきゃ損じゃないか。
「貴方。本当に変わってるわ」
「リリスには分からないかもね。でも、僕みたいなオクタなら誰もが一度は魔法を使える世界に行きたいと思うんだよ。だから異世界ものラノベは日々新作が絶えない訳だしね」
「そのラノベってものは知らないけど、でもセンリがいた世界には、センリみたいなヤツがたくさんいるのことだけは分かったわ」
「あはは。うん。それさえ分かってくれれば十分だよ」
僕とリリスは笑みを交わし合った。まだ僕らは出会って間もないのに、それなのにその笑みは、何度も苦楽を共にしてきた者同士が見せるような信頼の笑みで。
「……うん。やっぱり、気に入ったわ」
不思議な感覚に包まれていると不意に「センリ」とリリスに名前を呼ばれた。小首を傾げる僕の眼前に、リリスが右手を差し伸ばした。
「ねぇ、センリ。私と一緒に行かない?」
「ぇ」
リリスは僕を真っ直ぐに見つめて言った。
「貴方をこっちに連れてきた責任――いいえ。私、センリのことすごく気に入ったわ。まぁ、だから強引に貴方を一緒に連れてきたんだけど……コホンッ、とにかく。センリは異世界から来たばかりでこの世界のことは何も分からないでしょ?」
「うん」
「だから、しばらく一緒に行動しないって提案してるの。ガイドっていうほど詳しい道案内はできないけど、それでも一人でこの世界を渡り歩くよりかは私と一緒に行動した方が安全だと思うの」
「ええと、それは僕からしたら嬉しい提案でしないんだけど、でも、いいの?」
「もちろんよ。一人より二人の方が何かと心強いし、それにさっきも言ったけれど、私、貴方のことを気に入ってるから」
差し伸ばされた手の意味はつまり『これからしばらく一緒に旅をしよう』という申し出らしい。
その意味を理解した僕の返事は、考えるまでもなく決まっていた。
――あぁ。本当に始まるんだ。僕の異世界生活が。
「ねぇ、答えはどうなの?」
「そんなの、もちろん決まってるよ」
少し不安げな表情を浮かべるリリス答えを催促されて、僕はこの胸の高まりとともに答えを彼女に告げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「――ふふ。決まりね」
僕は、躊躇う素振りなくリリスから差し伸べられた手を握り返した。
そうして硬く握り合った手に、リリスは嬉しそうに微笑みを浮かべて。
「それじゃあ行きましょうか。私と貴方の新しい旅に」
「うん!」
「……可愛いわね。コイツ」
こうして、僕とリリスの異世界生活が幕を開けた。
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