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第1章――3 【 修業の日々/吸血鬼の悦楽 】
第23話 武器屋と店主
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冒険者ライセンスを入手したあと、僕とリリスはこのままギルド近くにある武器屋に足を運んでいた。
「ねぇ、本当にいいの?」
「いいって言ってるでしょう。冒険者になったんだからギルドのクエストも受けられる。今後のことを踏まえて、装備を買っておいた方が色々と都合がいいでしょう」
「それはそうなんだろうけど、でもやっぱりリリスに買ってもらうのはちょっと、ただでさえ宿とか食事代とか色々掛けちゃってるのに。これ以上面倒見てもらうのは流石に申し訳ないというか、あまり甘えるのはよくない気がするんだけど」
「はぁ。前にも言わなかったっけ? 私たちは旅のパートナー。つまりは一蓮托生。変に遠慮する必要なんてないのよ」
「でも、僕、現状凄まじい勢いでリリスのヒモへと成り下がっていってるんだけど」
「それじゃあ装備代は私への貸しってことにしておきなさい。そっちの方が私も色々と都合がいいわ」
「……そういうことなら、うん。分かった。それじゃあ、一生懸命働いてこの恩を返すよ!」
「ふふ。期待してるわよ」
そんなやり取りを経て、いざ武器屋へ。
扉を開き店内に入ると、呼び鈴の音に気付いた一人の店員らしき男性がすぐさまこっちに振り向いた。
「いらしゃ~い! ……あ~らぁ? 見ない顔のお二人様ね。もしかしなくてもこのお店には初めて来るのかしら?」
「「クセ強」」
身体を軟体動物のようにくねらせながら僕たちの元へ寄って来たのは、一人の男性……いや、オネェさんだった。見た目と言動だけで判断してはいけないとは言うし、確証を得ている訳ではないから断言はできないけれど、たぶん、そっち系の人で間違いないと思う。
そんな気になる僕たちの元に寄って来た店員さんの容姿はというと、僕より頭二つ分ほど高いかなりの長身だった。
顔つきは精悍な造りをしているが、輪郭が細く肌の艶とハリは女性の艶肌と匹敵するほどに潤いがあって絶妙に男らしくない。睫毛はカールをしているからか毛先までピンと立っていてさらに二重だ。瞳の色がエメラルドグリーンと特徴的だが、それよりも目を惹くのは髪だ。男性とはとても思えないほどに艶やかしい紫の長髪を後ろで三つ編みにして束ねる姿はおとぎ話によく出てくる愛らしい少女を彷彿とさせる。しかし、外見はどこをどう見ても男性だ。
女性と男性、決して相容れない二つの要素が絶妙に折り合って一つの美として成立している魔性の光景を間近に見た僕とリリスは、入口でしばらく茫然と眼前の店員さんを見つめていた。
「あら? 何か私の顔に変なもの付いてるかしら?」
「ああいえ! なにも付いてないです!」
「……そう。それより、お二人はこのお店にご来店されるのは初めてよね?」
「はい」
「それじゃあ改めて、ようこそ武器屋『プラトゥス』へ! 私はこの店のオーナーのエフィンよ」
「初めまして。僕はセンリっていいます」
「私はリリス」
「センリくんにリリスちゃんね。よろしくぅ~!」
「「よ、よろしく(お願いします)」」
僕とリリスの片手を掴んで強制的に握手を交わしてくるエフィンさん。動きと言動からやはりそっちの気の強さが拭えず、どう対応したもんかとにぎこちない笑みを浮かべる僕たちを、エフィンさんはおもむろにすんすん、と鼻を動かすと、
「……いきなりこんな不躾な質問をするのも失礼だと思うけど、ちょぉっと気になったからさせてもらうわね。お二人はどういった関係なのかしら?」
「僕とリリスは旅のパートナーです」
「あ~ら! それは素敵な関係ね!」
エフィンさんの言葉にどういう意味かと小首を傾げる僕。彼は僕ににこっと笑ったあと、リリスに視線を移して、
「アナタ、この子のことを気に入っているのね」
「へぇ。よく分かったわね」
「ふふ。特殊能力、って訳でもないけど、私はちょぉっぴり相手の本質を見抜ける才能があるの。ま、分かりやすく言うなら直感ってやつね。私はほんの少し、それを匂いとして感知できるのよ」
なるほど。だからさっき僕たちを嗅ぐような行動に出たのか。
エフィンさんの説明にリリスは「なるほどね」と感服した風に吐息を落とし、
「つまりはその嗅覚ってやつで私の素性が解ったのかしら?」
「触れたくなければこの話はここでお終いにするわよ?」
「べつに隠してもなければ気にしてないわ。貴方の察しの通り、私は魔族。吸血鬼よ」
「ふふ。やっぱり。どうりでアナタから特別な匂いがすると思ったわ」
二人の会話に微妙についていけていない僕。それに気付いたエフィンさんが慌てて僕に説明してくれた。
「ごめんなさいね。魔族と人間がペアで旅をしているなんて滅多に目にしない珍しい光景だからついテンションが上がちゃった」
そういえばカルラも珍しいって言ってたな。
ふとカルラとの会話を思い出した僕は、エフィンさんにおずおずと訊ねた。
「あの、そんなに珍しいものなんですか、人間と魔族が一緒に旅をしてるのって」
「うーん。人間と魔族が、というより、人間と吸血鬼が、の方が正しいわね。吸血鬼が特定の相手と行動するはかなり異例なのよ。定期的に血を摂取しないと禁断症状を発症しちゃうっていう理由もあるんだけど、それ以上に吸血鬼は自由な人たちが多いのよ」
「くすっ。たしかに。リリスって自由奔放だよね」
「何かに縛られるのが嫌いなのよ」
的を射たエフィンさんの指摘に僕はその通りだと堪らず吹いてしまって、リリスはとうと拗ねた風にそっぽを向いていた。
「だから吸血鬼が特定の相手、それも女性の吸血鬼が男の人とペアで行動するのはよほど相手を気に入っている証拠なのよ。センリくん。貴方、いったいどんな手を使ってリリスちゃんを口説き落としたのかしら」
「そんな口説くなんて大層なことしてません! 僕はただ困ってたリリスを助けただけで……」
「困った程度ならリリスちゃんから貴方に対するこれほど強い信頼の匂いは出ないはずだと思うのよねぇ」
「今分かったわ。そこのオカマ! アンタは私の天敵ね!」
「あらやだぁ! 照れちゃって可愛いぃぃ~!」
「ちょ、リリス! 初対面の人になんて失礼なことを!」
やがて何かに堪え切れなくなったのか頬を朱に染めるリリスがエフィンさんの口を無理矢理封じようと両頬を抓った。口を慎みなさい! と悪役令嬢しか言わないような台詞を吐くリリスに戦々恐々としながら僕は怒り心頭中のリリスを必死に宥める。
「すいませんエフィンさん。僕のパートナーがとても失礼な真似を」
「気にしてないわよ。それにデリカシーのないことしちゃったのは私の方だから。それに、吸血鬼に頬を抓んでもらえるなんて経験も貴重だからむしろ興奮しちゃった。きゃっ」
「……この変態め」
「リリスっ! 思っても口にしちゃダメだよ!」
たしかに僕も若干引くレベルの発言だったけど、オネェだけじゃなくまさかの性癖も普通じゃなかったことに動揺してるけども、それでもそういうのはそっと胸に仕舞っておくものがマナーだ。
初めてみるリリスの汚物でも見るかのような視線に慌ててふためいていると、ようやく少し興奮の熱が収まったエフィンさんが一息吐いてから僕たちに問いかけた。
「さてと、お互い初顔合わせの挨拶はこれで十分かしらね」
「すいません。色々と衝撃が強すぎて挨拶の余韻がまだ終わってないので、もうちょっとだけ落ち着く時間もらってもいいですか」
「あらそう。えぇ。もちろんいいわよ」
異世界に来てここまで衝撃を受けたのは初めてかもしれない。それが建物や魔物ではなく、普通の人というのが皮肉にも思えて。
「……センリ。私、お店変えたいかも」
「あはは。いい人そうではあるから、とりあえずどんな物があるか確かめてみようよ」
こんなにもリリスのげんなりとした顔を見るのは、一緒に旅をして初めてかもしれない。
リリスを慰めるその一方で、僕たちのやり取りを見ていたエフィンさんはというと、まるでお宝でも見つけたように瞳をキラキラと輝かせていて、
「ンンンッ! 私の直勘が告げている! この二人は絶対に逃がしちゃいけないと!」
と、推しカプとの出会いに大興奮していたのだった。
*****
武器屋『プラトゥス』
シエルレントで最も品揃えが豊富で品質が優れている武器屋として有名で、冒険初心者から上級者まで幅広い層がこの武器屋を愛用している。
工房販売一体のこの武器屋には絶対に欠かせない人物が二人いる。
まずはオーナーのエフィン。
彼は少々癖はあるが接客と対応力は接客業界の中でもトップクラスと名高く、顧客の求めるものを正確に見繕う鋭い慧眼は他業界各所から羨望と畏怖を集めている。ちなみに、この町ではエフィンのことを彼の性格から『オネェの星読み』という異名を付けられている。(尚本人は気に入っている模様)
そして二人目は鍛冶職人のカンストン。
彼は六名いる『プラトゥス』専属の武器製造の一人で、武器などの製造に長けているドワーフ族だ。
『プラトゥス』の武器は全てこの店の専属鍛冶職人が作製したものを販売しており、どれも一級品と冒険者の間でも高い評価を得ているが、中でもカンストンの造った武器は一線を画していると有名だ。
拘り抜かれた上質な素材と一切の妥協がない彼の手によって造り出された武器は全て素材本来以上の輝きと切れ味を持って生まれ、冒険者の中では彼の武器を持つのが夢とまで言われるほどだ。
ただし、彼もまたエフィンと同等の曲者で、自分が気に入った素材でなければ造らないという気難しい……やや独特な拘りを持っている。その為、彼の親友で良き理解者でもあるエフィンは毎度頭を抱えるとか。
武器以外、装飾品なんかは気軽に制作してくれるので、カンストンの武器を買うのが夢の冒険者は資金が集まるまでは比較的安価で買える彼が趣味で作っている装飾品を身に付けて満足するのが一般的らしい。ちなみに、今カンストンが一番武器の素材にしてみたいのは龍だとか。
そんな曲者二人が中心となって経営されている『プラトゥス』は、只今絶賛新人冒険者キャンペーンセール中で、アカツキ・センリはエフィンにとって絶対に逃がしてはならないキャンペーン対象者だ。
彼には何か大きな可能性を感じると、エフィンのこれまでの経験……いや、女としての直感がそう自分自身に訴えていた。
隣にいる吸血鬼の女性含め、絶対に顧客として捕まえたい。ここで二人を商売敵に逃がしたら一生後悔する気がする。そんな直感がした。
『疼く! 疼いちゃうわああああ! 特にこの坊や! 無限の可能性を感じるッ‼』
ズキュゥゥゥンッ‼ と久々に覚えた高揚感に、エフィンは人知れず、ぺろっ、と舌を舐めずりした。
「う~ん。センリはやっぱり、オーソドックスに剣がいいと思うのよね」
店内に飾られた多種多様な武器を眺めながら、僕とリリスは武器を選んでいる真っ最中だった。
「やっぱり武器にも使い手の適正はあるものなの?」
「もちろんあるわよ。剣をしばらく使ってみて、肌に合わず弓に変える人なんかよくいるわ」
「そうね。自分の戦闘スタイルっていうのは、経験を積まなきゃ案外分からないものよ。リリスちゃんの言う通り、ウチのお店をご愛好してくれる冒険者の中にも剣のリーチがイマイチ掴めなくて、範囲攻撃ができる大剣に変えたら大活躍し始めた冒険者なんかいたわ」
「ふむふむ」
「だから、初心者なんかはまず剣を使うことが多いわ。それをベースに自分がどんな役割と攻撃が得意なのか知って、そこから武器を変える。むやみやたらに色んな武器に手を出すより、それが最も効率的で経費に優しいわ」
「なるほど」
こうしてリリスから説明を聞くと、改めて彼女の経験の豊富さを実感させられる。
「リリスってやっぱりすごく頼りになるね!」
「ふふん。そうでしょ。もっと私を頼ってくれていいのよ!」
尊敬の眼差しを向けられて分かりやすく上機嫌になるリリス。そんな僕たちをエフィンさんは生温かい目で見守っていた。
「それじゃあ、本日お買い求めになるのは剣、それと剣士用の防具でいいかしら」
「はい」
肯定した後、本格的に僕の装備選びが始まった。
「ちなみに、リリスはどんな武器が得意なの?」
「私? 私は基本的に何でも使えるわよ。ま、一番好きなのは大剣ね。あの特に何も気にせずに周りをぶった切れる爽快感を味わったら二度と他の武器を使えないわ! センリも大剣にする⁉」
「僕の腕力じゃ絶対に持てないと思うから遠慮するよ」
「ぶっすぅ。身体強化掛けてあげるから使えばいいのにぃ」
そんな閑談を挟みつつ、僕とリリスはこのお店のオーナーであるエフィンさん直々に剣を選んでもうらことに。
「それじゃあまずはこの片手剣なんてどうかしら。持ってみて」
「分かりました――うわっ」
エフィンさら最初に渡されたのはゲームなんかで剣士が初期装備として使う剣と見た目がそっくりな剣だった。
いかにも初心者向けの剣。だが、それを持った瞬間に身体が一気に前方に傾いた。
「な、なにこれ重いぃ……」
「あらあら。これは……」
「……センリ。貴方」
片手剣を両手で握り締め、辛うじてぎりぎり持てている僕を見た二人は、ありえない光景でも見たかのように頬を引き攣らせていて、やがて声を揃えて僕に言った。
「「凄まじく貧弱ね⁉」」
どうやら僕の冒険者としての道のりは、武器を買うよりまず、身体を鍛える所から始めた方が先らしい。
「ねぇ、本当にいいの?」
「いいって言ってるでしょう。冒険者になったんだからギルドのクエストも受けられる。今後のことを踏まえて、装備を買っておいた方が色々と都合がいいでしょう」
「それはそうなんだろうけど、でもやっぱりリリスに買ってもらうのはちょっと、ただでさえ宿とか食事代とか色々掛けちゃってるのに。これ以上面倒見てもらうのは流石に申し訳ないというか、あまり甘えるのはよくない気がするんだけど」
「はぁ。前にも言わなかったっけ? 私たちは旅のパートナー。つまりは一蓮托生。変に遠慮する必要なんてないのよ」
「でも、僕、現状凄まじい勢いでリリスのヒモへと成り下がっていってるんだけど」
「それじゃあ装備代は私への貸しってことにしておきなさい。そっちの方が私も色々と都合がいいわ」
「……そういうことなら、うん。分かった。それじゃあ、一生懸命働いてこの恩を返すよ!」
「ふふ。期待してるわよ」
そんなやり取りを経て、いざ武器屋へ。
扉を開き店内に入ると、呼び鈴の音に気付いた一人の店員らしき男性がすぐさまこっちに振り向いた。
「いらしゃ~い! ……あ~らぁ? 見ない顔のお二人様ね。もしかしなくてもこのお店には初めて来るのかしら?」
「「クセ強」」
身体を軟体動物のようにくねらせながら僕たちの元へ寄って来たのは、一人の男性……いや、オネェさんだった。見た目と言動だけで判断してはいけないとは言うし、確証を得ている訳ではないから断言はできないけれど、たぶん、そっち系の人で間違いないと思う。
そんな気になる僕たちの元に寄って来た店員さんの容姿はというと、僕より頭二つ分ほど高いかなりの長身だった。
顔つきは精悍な造りをしているが、輪郭が細く肌の艶とハリは女性の艶肌と匹敵するほどに潤いがあって絶妙に男らしくない。睫毛はカールをしているからか毛先までピンと立っていてさらに二重だ。瞳の色がエメラルドグリーンと特徴的だが、それよりも目を惹くのは髪だ。男性とはとても思えないほどに艶やかしい紫の長髪を後ろで三つ編みにして束ねる姿はおとぎ話によく出てくる愛らしい少女を彷彿とさせる。しかし、外見はどこをどう見ても男性だ。
女性と男性、決して相容れない二つの要素が絶妙に折り合って一つの美として成立している魔性の光景を間近に見た僕とリリスは、入口でしばらく茫然と眼前の店員さんを見つめていた。
「あら? 何か私の顔に変なもの付いてるかしら?」
「ああいえ! なにも付いてないです!」
「……そう。それより、お二人はこのお店にご来店されるのは初めてよね?」
「はい」
「それじゃあ改めて、ようこそ武器屋『プラトゥス』へ! 私はこの店のオーナーのエフィンよ」
「初めまして。僕はセンリっていいます」
「私はリリス」
「センリくんにリリスちゃんね。よろしくぅ~!」
「「よ、よろしく(お願いします)」」
僕とリリスの片手を掴んで強制的に握手を交わしてくるエフィンさん。動きと言動からやはりそっちの気の強さが拭えず、どう対応したもんかとにぎこちない笑みを浮かべる僕たちを、エフィンさんはおもむろにすんすん、と鼻を動かすと、
「……いきなりこんな不躾な質問をするのも失礼だと思うけど、ちょぉっと気になったからさせてもらうわね。お二人はどういった関係なのかしら?」
「僕とリリスは旅のパートナーです」
「あ~ら! それは素敵な関係ね!」
エフィンさんの言葉にどういう意味かと小首を傾げる僕。彼は僕ににこっと笑ったあと、リリスに視線を移して、
「アナタ、この子のことを気に入っているのね」
「へぇ。よく分かったわね」
「ふふ。特殊能力、って訳でもないけど、私はちょぉっぴり相手の本質を見抜ける才能があるの。ま、分かりやすく言うなら直感ってやつね。私はほんの少し、それを匂いとして感知できるのよ」
なるほど。だからさっき僕たちを嗅ぐような行動に出たのか。
エフィンさんの説明にリリスは「なるほどね」と感服した風に吐息を落とし、
「つまりはその嗅覚ってやつで私の素性が解ったのかしら?」
「触れたくなければこの話はここでお終いにするわよ?」
「べつに隠してもなければ気にしてないわ。貴方の察しの通り、私は魔族。吸血鬼よ」
「ふふ。やっぱり。どうりでアナタから特別な匂いがすると思ったわ」
二人の会話に微妙についていけていない僕。それに気付いたエフィンさんが慌てて僕に説明してくれた。
「ごめんなさいね。魔族と人間がペアで旅をしているなんて滅多に目にしない珍しい光景だからついテンションが上がちゃった」
そういえばカルラも珍しいって言ってたな。
ふとカルラとの会話を思い出した僕は、エフィンさんにおずおずと訊ねた。
「あの、そんなに珍しいものなんですか、人間と魔族が一緒に旅をしてるのって」
「うーん。人間と魔族が、というより、人間と吸血鬼が、の方が正しいわね。吸血鬼が特定の相手と行動するはかなり異例なのよ。定期的に血を摂取しないと禁断症状を発症しちゃうっていう理由もあるんだけど、それ以上に吸血鬼は自由な人たちが多いのよ」
「くすっ。たしかに。リリスって自由奔放だよね」
「何かに縛られるのが嫌いなのよ」
的を射たエフィンさんの指摘に僕はその通りだと堪らず吹いてしまって、リリスはとうと拗ねた風にそっぽを向いていた。
「だから吸血鬼が特定の相手、それも女性の吸血鬼が男の人とペアで行動するのはよほど相手を気に入っている証拠なのよ。センリくん。貴方、いったいどんな手を使ってリリスちゃんを口説き落としたのかしら」
「そんな口説くなんて大層なことしてません! 僕はただ困ってたリリスを助けただけで……」
「困った程度ならリリスちゃんから貴方に対するこれほど強い信頼の匂いは出ないはずだと思うのよねぇ」
「今分かったわ。そこのオカマ! アンタは私の天敵ね!」
「あらやだぁ! 照れちゃって可愛いぃぃ~!」
「ちょ、リリス! 初対面の人になんて失礼なことを!」
やがて何かに堪え切れなくなったのか頬を朱に染めるリリスがエフィンさんの口を無理矢理封じようと両頬を抓った。口を慎みなさい! と悪役令嬢しか言わないような台詞を吐くリリスに戦々恐々としながら僕は怒り心頭中のリリスを必死に宥める。
「すいませんエフィンさん。僕のパートナーがとても失礼な真似を」
「気にしてないわよ。それにデリカシーのないことしちゃったのは私の方だから。それに、吸血鬼に頬を抓んでもらえるなんて経験も貴重だからむしろ興奮しちゃった。きゃっ」
「……この変態め」
「リリスっ! 思っても口にしちゃダメだよ!」
たしかに僕も若干引くレベルの発言だったけど、オネェだけじゃなくまさかの性癖も普通じゃなかったことに動揺してるけども、それでもそういうのはそっと胸に仕舞っておくものがマナーだ。
初めてみるリリスの汚物でも見るかのような視線に慌ててふためいていると、ようやく少し興奮の熱が収まったエフィンさんが一息吐いてから僕たちに問いかけた。
「さてと、お互い初顔合わせの挨拶はこれで十分かしらね」
「すいません。色々と衝撃が強すぎて挨拶の余韻がまだ終わってないので、もうちょっとだけ落ち着く時間もらってもいいですか」
「あらそう。えぇ。もちろんいいわよ」
異世界に来てここまで衝撃を受けたのは初めてかもしれない。それが建物や魔物ではなく、普通の人というのが皮肉にも思えて。
「……センリ。私、お店変えたいかも」
「あはは。いい人そうではあるから、とりあえずどんな物があるか確かめてみようよ」
こんなにもリリスのげんなりとした顔を見るのは、一緒に旅をして初めてかもしれない。
リリスを慰めるその一方で、僕たちのやり取りを見ていたエフィンさんはというと、まるでお宝でも見つけたように瞳をキラキラと輝かせていて、
「ンンンッ! 私の直勘が告げている! この二人は絶対に逃がしちゃいけないと!」
と、推しカプとの出会いに大興奮していたのだった。
*****
武器屋『プラトゥス』
シエルレントで最も品揃えが豊富で品質が優れている武器屋として有名で、冒険初心者から上級者まで幅広い層がこの武器屋を愛用している。
工房販売一体のこの武器屋には絶対に欠かせない人物が二人いる。
まずはオーナーのエフィン。
彼は少々癖はあるが接客と対応力は接客業界の中でもトップクラスと名高く、顧客の求めるものを正確に見繕う鋭い慧眼は他業界各所から羨望と畏怖を集めている。ちなみに、この町ではエフィンのことを彼の性格から『オネェの星読み』という異名を付けられている。(尚本人は気に入っている模様)
そして二人目は鍛冶職人のカンストン。
彼は六名いる『プラトゥス』専属の武器製造の一人で、武器などの製造に長けているドワーフ族だ。
『プラトゥス』の武器は全てこの店の専属鍛冶職人が作製したものを販売しており、どれも一級品と冒険者の間でも高い評価を得ているが、中でもカンストンの造った武器は一線を画していると有名だ。
拘り抜かれた上質な素材と一切の妥協がない彼の手によって造り出された武器は全て素材本来以上の輝きと切れ味を持って生まれ、冒険者の中では彼の武器を持つのが夢とまで言われるほどだ。
ただし、彼もまたエフィンと同等の曲者で、自分が気に入った素材でなければ造らないという気難しい……やや独特な拘りを持っている。その為、彼の親友で良き理解者でもあるエフィンは毎度頭を抱えるとか。
武器以外、装飾品なんかは気軽に制作してくれるので、カンストンの武器を買うのが夢の冒険者は資金が集まるまでは比較的安価で買える彼が趣味で作っている装飾品を身に付けて満足するのが一般的らしい。ちなみに、今カンストンが一番武器の素材にしてみたいのは龍だとか。
そんな曲者二人が中心となって経営されている『プラトゥス』は、只今絶賛新人冒険者キャンペーンセール中で、アカツキ・センリはエフィンにとって絶対に逃がしてはならないキャンペーン対象者だ。
彼には何か大きな可能性を感じると、エフィンのこれまでの経験……いや、女としての直感がそう自分自身に訴えていた。
隣にいる吸血鬼の女性含め、絶対に顧客として捕まえたい。ここで二人を商売敵に逃がしたら一生後悔する気がする。そんな直感がした。
『疼く! 疼いちゃうわああああ! 特にこの坊や! 無限の可能性を感じるッ‼』
ズキュゥゥゥンッ‼ と久々に覚えた高揚感に、エフィンは人知れず、ぺろっ、と舌を舐めずりした。
「う~ん。センリはやっぱり、オーソドックスに剣がいいと思うのよね」
店内に飾られた多種多様な武器を眺めながら、僕とリリスは武器を選んでいる真っ最中だった。
「やっぱり武器にも使い手の適正はあるものなの?」
「もちろんあるわよ。剣をしばらく使ってみて、肌に合わず弓に変える人なんかよくいるわ」
「そうね。自分の戦闘スタイルっていうのは、経験を積まなきゃ案外分からないものよ。リリスちゃんの言う通り、ウチのお店をご愛好してくれる冒険者の中にも剣のリーチがイマイチ掴めなくて、範囲攻撃ができる大剣に変えたら大活躍し始めた冒険者なんかいたわ」
「ふむふむ」
「だから、初心者なんかはまず剣を使うことが多いわ。それをベースに自分がどんな役割と攻撃が得意なのか知って、そこから武器を変える。むやみやたらに色んな武器に手を出すより、それが最も効率的で経費に優しいわ」
「なるほど」
こうしてリリスから説明を聞くと、改めて彼女の経験の豊富さを実感させられる。
「リリスってやっぱりすごく頼りになるね!」
「ふふん。そうでしょ。もっと私を頼ってくれていいのよ!」
尊敬の眼差しを向けられて分かりやすく上機嫌になるリリス。そんな僕たちをエフィンさんは生温かい目で見守っていた。
「それじゃあ、本日お買い求めになるのは剣、それと剣士用の防具でいいかしら」
「はい」
肯定した後、本格的に僕の装備選びが始まった。
「ちなみに、リリスはどんな武器が得意なの?」
「私? 私は基本的に何でも使えるわよ。ま、一番好きなのは大剣ね。あの特に何も気にせずに周りをぶった切れる爽快感を味わったら二度と他の武器を使えないわ! センリも大剣にする⁉」
「僕の腕力じゃ絶対に持てないと思うから遠慮するよ」
「ぶっすぅ。身体強化掛けてあげるから使えばいいのにぃ」
そんな閑談を挟みつつ、僕とリリスはこのお店のオーナーであるエフィンさん直々に剣を選んでもうらことに。
「それじゃあまずはこの片手剣なんてどうかしら。持ってみて」
「分かりました――うわっ」
エフィンさら最初に渡されたのはゲームなんかで剣士が初期装備として使う剣と見た目がそっくりな剣だった。
いかにも初心者向けの剣。だが、それを持った瞬間に身体が一気に前方に傾いた。
「な、なにこれ重いぃ……」
「あらあら。これは……」
「……センリ。貴方」
片手剣を両手で握り締め、辛うじてぎりぎり持てている僕を見た二人は、ありえない光景でも見たかのように頬を引き攣らせていて、やがて声を揃えて僕に言った。
「「凄まじく貧弱ね⁉」」
どうやら僕の冒険者としての道のりは、武器を買うよりまず、身体を鍛える所から始めた方が先らしい。
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前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
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カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
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