憧れの異世界で極楽至上のハーレムを

ゆのや@1作品書籍化!!(予定)

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第1章――5 【 VS殺人鬼/吸血鬼の憤怒 】

第44話 稽古

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「――くっそ!」
「いい動きだ。……だが」

 息つく暇もなく繰り出される剣撃を必死に捌きながら攻撃へ転じられる瞬間を窺い続ける。けれど一瞬こちらが五月雨のような連撃に対処が間に合わず反応が遅れた隙を突かれ、鋭い一撃が僕の木剣を高く空中へと弾き飛ばした。

「勝負あり、だな」
「……参りました」

 ガラ空きになった僕の喉元に、対峙する青年の木剣が突きつけられる。がっくりと項垂れながら白旗を上げると、青年はゆっくりと木剣を降ろした。

「今日も一本も取れなかった」
「いや、以前よりも確実に動きが良くなってるよ」
「ボコボコにしておいてよく言いますね」
「本当さ。こちらが加減できないほど迫るものがあった。やはりキミの成長速度には目を瞠るものがある」

 朝。ベルクトさんに剣の稽古をつけてもらっている僕は、今日も彼から一本も取ることができず悔しさに肩を落とした。

 僕とベルクトさんは落ちた木剣を拾いつつ、稽古で掻いた汗を洗おうと近くの給水場所へと移動した。

「けれど、今日はすこし剣に迷いがあったな。何かあったのか?」
「すごい。剣の動きでそんなことも分かるんですか?」
「長年剣を握っているとな。剣の太刀筋や動きでなんとなく相手の考えが分かるんだよ」

 水で顔を洗いつつ、僕とベルクトさんは穏やかな会話を続けた。

「悩みと言えば悩みなんですけど、実は今、武器を買おうと思ってて。それで、自分がどんな戦闘スタイルしたいのか迷ってて」
「? センリはたしか、長剣を武器にしているだったよな? 稽古で使っているも木剣と同じくらいの長さの」
「はい」
「魔物討伐も長剣を使っているなら、わざわざ戦闘スタイルを一新する必要もないと思うが」
「そうなんですけどね。でも、お店で色々触ってみたら、このままでいいのか分からなくなってきちゃって」
「はは。要するに目移りしてしまったということか」
「端的に言うとそうです」

 ベルクトさんの指摘に僕は苦笑いを浮かべて肯定した。

 それからベンチに移動しつつ、引き続き相談する。

「何か、その中で自分に合いそうなものはあったのか?」
「いくつか」
「一番しっくりきたのは?」
細剣さいけんです。前に一度、女の剣士の人とクエストを一緒にやって、その時に僕の戦闘のスタイルに合ってそうだなと」
「細剣か。センリの戦闘のスタイルは相手の動きを読んで反撃する、カウンタースタイルだったか」
「はい。リリス……僕の剣の師匠がお前は非力だから一撃じゃなくて細かく相手を削って戦うスタイルにした方がいいって」
「たしかに、センリの一撃にはあまり重みを感じないな」
「そうなんですよ。だからこのままでスタイルでいくなら、剣の重みを軽くしてより動きと手数を増やせそうな短剣か細剣にしようかなって」
「短剣は……今のセンリには少し勇気がいる選択だな。センリの動体視力は中々のものだが、しかしまだそれに身体の連動が上手くいってないように見える」
「うっ。自分でも自覚してます」

 ベルクトさんに稽古をつけてもらって気付いた自分の弱点。それが体力不足だ。

 一戦の間に息継ぎできる暇があるならまだしも、先程のベルクトさんとの試合のように後手に回った上に防戦を強いられると身体の動きが思考に付いて行かなくなってしまうのだ。

 銅剣ならまだしも木剣であの様なんだから、まだまだ体力と集中力の向上が必要だ。

「そういうことなら細剣はいいんじゃないか。長剣よりも軽くてセンリの戦闘スタイルによく合いそうだ」
「やっぱり細剣の方がいいですかね」
「俺はあくまでアドバイスをしただけで、決めるのはセンリ自身だ」
「そうですよね」
「じっくり悩んで決めればいい。キミにはまだ、選択できる時間があるんだから」
「ありがとうございます。そうしてみます」

 ベルクトさんのおかげでほんのわずかに道が開けたような気がして、僕は彼に感謝を伝える。

「それにしても、この町はいいな。長閑で自然が豊かで、水も澄んでいる」
「ですね。だからこそ、早く皆が平和に暮らせるようになればいいんですけど」
「? この町に何か起きたのか?」
「知らないんですか。最近、この町で殺人鬼が現われたんですよ」
「殺人鬼?」

 話が変わるも、僕の言葉にベルクトさんが困惑するように眉根を寄せた。その反応に戸惑いながら、僕はこの町に今起きている状況を彼に説明した。

「……はい。何週間か前に、町の人が襲われて、それから衛兵まで。今、ギルドの町の治安維持協会が警備チームを作って犯人を捜してるんです」
「そうだったのか」

 まるで知らなかった、という反応だ。

 既に町の全域に治安維持協会から民間人の活動自粛命令が出されているし、知らないはずはないと思うんだけど……。

「どうりで人の気配が少ないと思った。前はこの時間帯でも、ちらほらと人の姿が見えていたが」
「夜明けまでは活動を制限するように指示が出てますから。それに町のどこかに殺人鬼がいるって知ったら、いくら警備チームが動いてくれているかといっても外に出るのは怖いですよ」
「まさかこの町にそんな危険な奴がいるとはな」
「ベルクトさん。本当に何も知らなかったんですか?」

 そう問うと、ベルクトさんは「あぁ」と複雑そうに頷いた。

「その……実をいうと、あまり体調がよくなくてな」
「え?」

 驚愕する僕に、ベルクトさんは慌てて言った。

「こっち来てからはかなり良くなったんだ。それこそキミと稽古できるくらいにはな」
「なんだ。てっきり無茶させてしまっているかと」

 その言葉を聞いてほっと安堵するも、

「でも、無理させてしまっているかもしれないですよね」
「いや、むしろ感謝してくらいだ。この時間は俺にとって数少ない憩いの時間になっている。それに、キミと剣を交わしていると、ここにある感情を忘れられる」

 そう言ったベルクトさんが手で押さえたのは、心臓だった。いや、胸か。或いは、心かもしれない。

「とにかく、だ。こっちに来てからは以前より身体の調子が良いんだ。だからセンリは余計な心配をしてくれる必要はない。それに俺は流浪人だ。自分がどうなろうが、その責任は全て自分にある」
「……本当に、そうなのかな」
「何か言ったか?」
「いえ、何でもないです」

 ふるふると首を振る僕に、ベルクトさんは「そうか」と不思議そうに小首を傾げる。

 それからはまたベルクトさんと剣の話をしたり、アドバイスをもらったりとして時間は過ぎていった。

 吹く風は心地よく。流れる時間は登りゆく朝日のように穏やかに。けれど、

「(自分がどうなろうが、か……)」

 さっきのベルクトさんの言葉が、いやに頭にこびりついて離れなかった。

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