憧れの異世界で極楽至上のハーレムを

ゆのや@1作品書籍化!!(予定)

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第2章――1 『 輪舞祭/吸血鬼と変わらぬ日常 』

第73話 お祭り

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――輪舞祭一日目。

「おぉ! 祭り当日はやっぱり熱気が違うね!」

 異世界に来て初めて参加する祭りは熱気と歓声に包まれていて、普段とはがらりと変わった町の様子に僕は子どものようにはしゃいでいた。

 そんな興奮している僕の隣では、パートナーであるリリスが困った風に肩を竦めていた。

「はしゃぎすぎよ」
「だって異世界こっちに来て初めての祭りなんだもん! それにここまでおっきい祭りは初めて参加するから」

 日本で僕が体験したことがあるのは、近所の神社で開かれる縁日と花火大会くらい。

「リリスは?」
「私は何度も参加してるわよ。こういう祝い事の熱気に包まれた中で飲む酒も悪くないからね」
「あはは。リリスらしいね」

 祭りの楽しみ方がなんとも彼女らしくて思わず笑ってしまう僕。

「それならまずはお酒売ってる屋台でも探そうか」
「あらこんな昼間から飲んでいいの? いつもは小言吐くのに」
「今日はお祭りだから特別。普段は健康意識してください」
「くすっ。センリは私のお母さんかしら?」
「僕はただリリスに長生きして欲しいだけです」
「ふふ。安心しなさい。私はセンリより長生きだから」
「ほんと、魔族って色々とずるいよね」

 生まれつき人間よりあらゆる面が優れている魔族。人間の倍以上を生きる彼女たいちにとっては、僕ら人間の悩みなんて皆無に等しいのだろう。

 それでも、僕がリリスの隣にいる間は、健康のまま生きていて欲しいから。

「今日は好きなだけお酒を飲んでもいいけど、また明日からちゃんと飲みすぎたら叱るからね」
「えぇ。祭り期間中は飲み放題許してよ」
「……それだと健康面よりお財布がダメージエグいからダメ」

 リリスの言葉に別方面の心配が出てきた。顔を青ざめながらそう懇願すれば、リリスはくすくすと愉しそうに微笑んで、

「冗談よ。夜までは酔わないくらいに抑えてあげる」
「……どんだけ飲むつもりなの」

 リリスがどの程度の量で酔い始めるか把握している僕にとって、その宣言は全く安堵できるものではなかった。

 けどまぁ、今日はせっかくの祭りごとだ。

「お酒だけじゃなくて料理も楽しもうね」
「無論ね。美味い酒をより美味くさせるのは、食欲を掻き立てる料理だもの!」
「…………」
「? どうしたのセンリ。私のこと見つめながら笑ったりなんかして」
「ううん。なんでもない。やっぱり、リリスは笑顔は素敵だなと思って」
「なに急に? 私を褒めても何も出ないわよ」

 微笑む僕をリリスは不気味がって一歩身を引く。

 酷い反応だなぁ、と思いながらも、僕はそんなリリスの手を握ると、

「さ、二人で思う存分。お祭り楽しもっか!」
「――えぇ。二人で、楽しみましょう」

 異世界に来て初めての祭り。その記念すべき日は、大切な人の手を繋いでから始まっていく。

 *****

 リリスと輪舞祭を満期していると、

「あらっ! リリスとセンリ様じゃない!」
「さ、様?」

 ふと香ばしい香りに誘われて立ち寄った屋台にて、給仕服に身を包んだ黒髪の女性が僕とリリスを見て驚いたような声を上げた。

 そのうやうやしい呼び方に揃って小首を傾げる僕たちに、黒髪の女性はさも当然のように言った。

「お二人はこの町をあの魔人から救ってくれた〝英雄〟でしょう。そんな方々を呼び捨てなんてできませんよ」
「英雄だなんてそんな……あの、普通に接してくれていいですから。そっちの方が僕たちも気楽ですし」
「私はともかくこの子はちゃんと敬いなさーい。なんたってあの魔人にトドメを刺したのもこの子なんだから!」
「ちょっとリリス⁉ なんで拍車駆けるような真似するのさ⁉」

 完全にリリスの悪戯心が働いた僕へのからかいなのだが、周囲がそれを真に受けようとして大変だった。

 それから数分かけて説得するも『様』が外れることはなく(たぶんお店の人も狼狽する僕に段々面白くなってきたのだろう)、最終的に何故か僕が折れる羽目になった。

 がっくりと肩を落とす僕はお店の人たちはくすくすと笑われながら、隣に何食わぬ顔して立つリリスがそんな僕の脇腹を突いてきて、

「いいじゃない。英雄扱いなんて早々されるもんじゃないわよ」
「僕はそんな柄に見える?」
「……ふっ」
「その笑いが答えだよ!」

 声らえきれずに吹いたリリス。終始彼女の掌で弄ばれた僕はいよいよ半泣き状態になってしまった。

 こうなったのもリリスのせいだと彼女を睨んでいると、不意に視界の端に料理が盛られた容器が映って。

 振り返ると、黒髪の女性店員さんがにっこりと僕とリリスに笑顔を向けながら、

「はいっ。どうぞこれもらってください」
「えっ。いやいやちゃんとお金払います!」
「いいんです。これは私たちからのお礼なんですから」
「……お礼って」

 唖然あぜんとする僕に、女性店員さんは淡い微笑みを浮かべたまま続けた。

「本当に、センリ様とリリス様には感謝しています。命を賭してこの町を守っていただいたことに。だからこれは、私たちからのささやかなお返しなんです」
「…………」

 見つめてくる瞳が羨望と感謝を宿して揺れて、差し出された料理からはそんな彼女たちの想いが込められているのを感じた。

 僕がこれまでに体感したことない、胸の奥底がじんわりと熱くなってどうしようもない感情に硬直していると、

「たとえ自分が英雄でないと思っていても、その器ではないと卑下していても、こういう感謝の印は有難く受け取っておくのが礼儀ってものよ」
「……リリス」

 その言葉を体現するが如くリリスが女性店員から差し出された容器を受け取った。
「あら、とても美味しそうな料理ね。発泡酒ビールとよく合いそう」
「くすっ。えぇ。とてもよく合いますよ。ビールも差し上げますね」
「本当⁉ 有難くもらうわ!」

 センリも、と視線で促してくるリリスに、僕はこの胸に込み上がってくる熱を噛みしめながら手を伸ばして、

「ありがとうございます。すっごく味わって食べます」
「ふふっ。はい。ウチのヤキトリは絶品ですよ」

 受け取った容器の熱さは、女性店員たちの感謝が込められているような、そんな気がして。

 熱くなった目頭から小さな雫がこぼれそうになっていた少年を、眼前の女性店員と赤髪の吸血鬼は微笑ましげに口許を緩めたのだった。
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