××男と異常女共

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ゴミ女の深夜バイト

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◯『河川敷』◯ Sight : キリヤ

 目が覚めて、目を開けた。見えるのは、机と椅子が規則的に置かれている教室内の風景。
 俺は机に突っ伏していた身体を起こして、椅子の背もたれにもたれながら固まった身体を伸ばした。
 ポケットからスマホを取り出すと、時刻は午後五時を少し過ぎたぐらい。
 教室内には自分以外に人は存在せず、閑散とした雰囲気が漂っている。他の生徒はとっくに家に帰ったか、寄り道して遊んでいるか、部活動に勤しんでいることだろう。それか、俺みたいに居眠りでもして学校に残っているかだ。

 ……そろそろ帰ろ。

 居眠りのおかげで頭がスッキリしたことを確認し、髪を掻き乱してから机の横に掛けてある鞄を持って教室を出た。
 
「なんだ八切、まだ学校にいたのか?」

 教室から出てすぐ左を見ると、俺よりも少し身長が高く背中が覆うほど黒髪を長く伸ばした女の先生――小山内おさない幼子ようこが立っていた。

「ええ、まあ」

「教室で何かしていたのか?」

「別に何も。ただ居眠りしてただけです」

「本当かい? 実はやましいことでもしていたんじゃないのかい? ほらほら、誰にも言わないから先生に言ってご覧?」

「……」

 うざい。完全に人をおちょくってきている。
 俺は面倒なので何も返さずに立ち去ろうかと思っていると、それを察したのか小山内はあからさまに話題を変えてきた。
 
「そういえば、あの鍵は上手に使っているかい?」

「……しっかり役立ててますよ」

 小山内が言う、“あの鍵“とは俺がこの人に貰った屋上に出入りをするための鍵である。
 生徒指導担当である先生が、生徒にこんな非行に走りそうなアイテムを渡していいものなのかどうなのか。……ま、普通によくはないだろう。

「今更ですけど、本当にいいんすか? まだバレてないようですけど、予備でもなんでも鍵が失くなってたら問題になるんじゃないんですか?」

「大丈夫、大丈夫。心配しなくても、今も屋上の鍵は予備も合わせて二つとも職員室にしっかりあるから」

「……ならこの鍵は?」

「私が昔こっそり作ったものだ」

 なにやってるんだこの先生は……。

「……まぁ、別にいいですけど。そんで先生こそなにやってるんすか?」

「ただの校舎の見回りだよ。最近はめっきり見なくなったが、それでも完全になくなったわけじゃないからな。不純異性行為というものは」

「それ見たくて探してるんすか?」

「もちろん注意するために探しているんだよ。見つけた場合は、ギリギリスレスレのあと一歩という所のきわどい瞬間を見極めて、止めるさ」

「……見つけた瞬間には止めないんすね」

「あとちょっとで、のお預けがいちばん人を落胆させるからね。見つかったやつが悪いんだよ」

「……見つからなかったら、許すんすか?」

「許すもなにも、知らないことは怒れないし、注意もできないからね。世の中そんなもんさ」

「……そうですね。そんじゃ、さいなら」

「おう、気を付けて帰れよ。それと、これからも小さくて可愛い御五智のことをよろしく頼むぞー」

 小山内がそう言って手を振ってきたが、俺はなにも返さずに歩いて行く。
 ちなみに、小山内は別に姶良のクラス担当の先生というわけではない。ただの生徒指導担当で、体育の授業を受け持つ先生だ。
 生徒指導の先生が遅刻が多い生徒を気にかけるのは、なにも可笑しいことではない。だが、小山内が姶良を気にかける一番の理由が他にはあった。
 傍目から見れば、小山内は胸がデカくてカッコいい系の美人で、生徒からも尊敬の念や親しみを持たれている。(特に女子からのものが多い)
 そんな先生の好きなものがなんて、世間一般で言えば本当に残念なことなのだろうが、俺にとっては、どうでもいいことである。


 学校からの帰り道、俺は真っ直ぐ寄り道せずに帰ろうと決めていた。――にも関わらず、それを妨げるメッセージが俺のスマホに送られてきた。

『河川敷』

 たったこれだけのメッセージをLINKで送ってきたのは、『ミイラ女』こと木乃伊未来であった。
 一体全体どういう意味なのか、説明不足もいいところのメッセージを見ながら、とりあえず俺は頭に浮かんだ河川敷のところに行ってみることにした。
 正直なところは、知らんぷりを決めたいところである。だけど、行かないで後悔するよりは行って後悔する方がマシかもしれない。
 『後悔先に立たず』という言葉があるが俺は、

「先に立てばいいのに」

 と一人ぼやいた。そうすれば、後悔することを回避できるかもしれないから。

 ……やっぱダメだ。

 俺はすぐに頭を振って、自分の無駄な考えを切り捨てる。後悔が先に立ってもしょうがないことだ。結果は、変わらないのだから。

 思い付く河川敷の場所に来て見たが、いるのは子供づれの家族や散歩しているジジイやババア、暇を潰している学生ぐらいだ。ここにあの包帯ぐるぐる『ミイラ女』がいるのだろうか、と考えながら探してみる。

 ――見つけた。

 頭にリボンを揺らして、右手にトング、左手にビニール袋を持ったやつを。探していた人物とは違う、『ミイラ女』ではない女。『ゴミ女』こと御五智姶良が、変な男と何かを話しているところを俺は見つけた。
 姶良がここにいる理由は、考えなくても見れば分かる。どうせいつものゴミ拾いで、ここに行き着いただけであろう。
 だけど、話している変な男は知らないやつだ。
 ゴミを一生懸命拾う姶良に心でも打たれて、ナンパでも仕掛けているのだろうか。四〇代のオジさんがそんなことをしていれば一発逮捕の牢屋行きであろうに、ご苦労なことである。
 ……といった戯言を考え浮かべて見ていると、変な男が姶良から離れて行った。
 俺はその男と入れ替わりのように、姶良の方に歩いて行こうとする。しかし――
 
「八切くん」

 後ろからの声に足を止めて、俺は振り返った。
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