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ゴミ女の深夜バイト
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そして夜中、未来の言う通りに邪魔者はやって来た。俺は未来に言われた通りにことを進めて、邪魔者をやり過ごそうとした。結果、未来に伝えられた作戦は成功しなかった。
途中までは上手くいっていて、あとは邪魔者から離れて別れるだけだったのだが、邪魔者は姶良のゴミ箱の中身も見たいと言い出したのだ。
作戦失敗。それゆえに、俺は渡されたスタンガンを使う羽目になった。
「……物騒なもんだ」
後ろから人を襲い、スタンガンを初めて使った俺の感想は、これだけだ。
人が倒れていても、その人を足蹴にしても、たとえ死んでいたとしても、何も感じない。
だって、どうでもいいし。
俺はスタンガンをポケットに仕舞うと、姶良を見る。
「先に指定の場所行っといて。俺も後から行くから」
姶良は黙って従い、俺を置いてゴミ箱を運んで行く。姶良が見えなくなったところで、俺は行動を開始した。
まず、自分が運んでいたゴミ箱を横に倒し、中に入っていた大量のアダルト雑誌を道の真ん中に全て出す。すっからかんの空っぽになったゴミ箱。そのゴミ箱に、次に入れるのは目の前で倒れている雑誌記者の男である。
本当は姶良に手伝ってもらいたかったのだが、道端に出したアダルト雑誌を見せるのもどうかと思い、先に行かせたのだ。それに姶良の場合、例え大量のアダルト雑誌だとしても、ゴミをゴミ箱にと言って道端に残して行くことを嫌がるに決まっている。
小さいわりに力がある姶良を抑えるのは大変である。そんな面倒になるのは、御免被った。
「……重い」
俺は、なんとか男を空のゴミ箱に入れ終えた。
あんな小さな身体でこんな疲れることをいつもやる姶良に、俺は関心を持ちながら重くなったゴミ箱を指定の場所まで運んで行く。
指定の場所に着くと、そこには前と同じで黒いバンが止まっていて、無造作な黒髪に無精髭の大神と姶良が何やら話し込んでいた。
姶良のゴミ箱はもう車に積んでいるようで、俺は大神にゴミ箱を渡して後ろに積んでもらう。正直、大神が軽々とゴミ箱を持ち上げて車に積んだ時は驚いた。
俺がひ弱なだけなのか、この人がおかしいだけなのか。
深くは考えることはせず後部座席のドアを開けると、そこには白い髪に白い包帯を巻いた未来が座っていた。未来は、「お疲れさま」と労いの言葉をかけてくる。
俺は無言で車に乗り、アパートに着くまでの時間を未来とのくだらない会話で潰す。
今日のバイトはいつもと違うイレギュラーがあったが、最後は変わらない車の中であった。
***
「いってらっしゃーい」
いつもと変わらないユウノの声を聞きながら家を出て、俺はドアの鍵を閉めた。
「……おはよう」
階段を降りていると、挨拶の言葉が投げかけられる。誰が投げかけてきたのかは、声を聞いただけで簡単に判断できた。
「おはよう」
俺はアパートの前で、さっそくゴミ拾いをしていた姶良に挨拶を返した。
姶良が俺の隣を歩いて、二人で学校へ向かって歩いて行く。途中、姶良がゴミ拾いをする度に足を止めなければならないといういつものことが起こるが、今日は落ちているゴミがいつもより少ないおかげで、進むペースが早く遅刻を心配する必要はなさそうだ。
俺はふと気になったことを、姶良に聞くことにした。
「そういえば、昨日の雑誌記者に何聞かれてたんだ、お前?」
「……雑誌記者?」
「河川敷でなんか話してただろ?」
「……?」
姶良は思い出せないといった感じで首を傾げる。つい昨日のことなのに、どれだけ記憶力が悪いのか。それとも、単に興味があることしか覚えていないのか。
「お前って昨日、自分が何してたかちゃんと覚えてんのか?」
これで全く覚えていないと言われれば、この年から重度の認知症を疑わなければいけないレベルである。そんなことあるわけないと分かっていながら、俺は姶良の答えを待った。
「……昨日は朝起きてご飯食べて、学校に登校して、授業受けて、バイトして終わり……」
簡潔に昨日のしたことをまとめる姶良。一応は覚えているようだが、簡略化しすぎている。しかも、俺と未来に会ったという出来事が入っていない。
こいつには、そこまで重要な出来事じゃなかったということか。
話が終わったと思っていると、「……それで」と姶良が続きを話し始めた。
「昨日拾ったゴミが、朝に空き缶三つとポリ袋、吸い殻が二本。……昼は学校で紙パックのジュースと丸まったティッシュ、ノートの切れ端、使えなくなった消しゴムと輪ゴム。……学校が終わった後は、ボロボロのチラシと空っぽのタバコ箱、漫画雑誌、ゴミが入ったポリ袋二つ、空のペットボトルが四本、お菓子の袋、黒ずんだ人形、片っぽしかなかったスリッパ。夜のバイトで二〇代ぐらいの女性が一人。……以上」
「……」
俺は呆気にとられていた。まさか、捨てたもしくは拾ったゴミを全て覚えているとは、思いもしなかったから。
普通、自分が捨てたゴミをいちいちこと細かく覚えている奴はいないだろう。まず、覚える意味がない、覚える必要性がない。
ならば何故姶良はそんなことを覚えているのか、素直に聞いてみる。
「……人間になるために、必要なことだと思ったから」
「……そうか」
俺はその答えを聞いて納得する。
姶良が何故ゴミを拾い捨て続けるのか、俺は前にその理由を聞いたことがあるから、今の言葉の意味を理解できた。姶良の子供の頃の話を知っているから、彼女の無駄だと思える努力をバカにはしない。
そして、姶良があの雑誌記者を覚えていない理由が、自分で捨てたゴミではないからという至極単純な理由であることを、俺は理解した。
学校に着いた俺達は、それぞれ自分の教室に向かい別れる。
教室に入るとクラスメイトの誰かが、登校時に大量のアダルト雑誌が道端に落ちていたと騒いでいた。
その話に興味がない俺は、授業が始まるまでの僅かな時間を、昼ではない昼寝に費やすことにした。
ゴミ女と深夜バイト (終わり)
途中までは上手くいっていて、あとは邪魔者から離れて別れるだけだったのだが、邪魔者は姶良のゴミ箱の中身も見たいと言い出したのだ。
作戦失敗。それゆえに、俺は渡されたスタンガンを使う羽目になった。
「……物騒なもんだ」
後ろから人を襲い、スタンガンを初めて使った俺の感想は、これだけだ。
人が倒れていても、その人を足蹴にしても、たとえ死んでいたとしても、何も感じない。
だって、どうでもいいし。
俺はスタンガンをポケットに仕舞うと、姶良を見る。
「先に指定の場所行っといて。俺も後から行くから」
姶良は黙って従い、俺を置いてゴミ箱を運んで行く。姶良が見えなくなったところで、俺は行動を開始した。
まず、自分が運んでいたゴミ箱を横に倒し、中に入っていた大量のアダルト雑誌を道の真ん中に全て出す。すっからかんの空っぽになったゴミ箱。そのゴミ箱に、次に入れるのは目の前で倒れている雑誌記者の男である。
本当は姶良に手伝ってもらいたかったのだが、道端に出したアダルト雑誌を見せるのもどうかと思い、先に行かせたのだ。それに姶良の場合、例え大量のアダルト雑誌だとしても、ゴミをゴミ箱にと言って道端に残して行くことを嫌がるに決まっている。
小さいわりに力がある姶良を抑えるのは大変である。そんな面倒になるのは、御免被った。
「……重い」
俺は、なんとか男を空のゴミ箱に入れ終えた。
あんな小さな身体でこんな疲れることをいつもやる姶良に、俺は関心を持ちながら重くなったゴミ箱を指定の場所まで運んで行く。
指定の場所に着くと、そこには前と同じで黒いバンが止まっていて、無造作な黒髪に無精髭の大神と姶良が何やら話し込んでいた。
姶良のゴミ箱はもう車に積んでいるようで、俺は大神にゴミ箱を渡して後ろに積んでもらう。正直、大神が軽々とゴミ箱を持ち上げて車に積んだ時は驚いた。
俺がひ弱なだけなのか、この人がおかしいだけなのか。
深くは考えることはせず後部座席のドアを開けると、そこには白い髪に白い包帯を巻いた未来が座っていた。未来は、「お疲れさま」と労いの言葉をかけてくる。
俺は無言で車に乗り、アパートに着くまでの時間を未来とのくだらない会話で潰す。
今日のバイトはいつもと違うイレギュラーがあったが、最後は変わらない車の中であった。
***
「いってらっしゃーい」
いつもと変わらないユウノの声を聞きながら家を出て、俺はドアの鍵を閉めた。
「……おはよう」
階段を降りていると、挨拶の言葉が投げかけられる。誰が投げかけてきたのかは、声を聞いただけで簡単に判断できた。
「おはよう」
俺はアパートの前で、さっそくゴミ拾いをしていた姶良に挨拶を返した。
姶良が俺の隣を歩いて、二人で学校へ向かって歩いて行く。途中、姶良がゴミ拾いをする度に足を止めなければならないといういつものことが起こるが、今日は落ちているゴミがいつもより少ないおかげで、進むペースが早く遅刻を心配する必要はなさそうだ。
俺はふと気になったことを、姶良に聞くことにした。
「そういえば、昨日の雑誌記者に何聞かれてたんだ、お前?」
「……雑誌記者?」
「河川敷でなんか話してただろ?」
「……?」
姶良は思い出せないといった感じで首を傾げる。つい昨日のことなのに、どれだけ記憶力が悪いのか。それとも、単に興味があることしか覚えていないのか。
「お前って昨日、自分が何してたかちゃんと覚えてんのか?」
これで全く覚えていないと言われれば、この年から重度の認知症を疑わなければいけないレベルである。そんなことあるわけないと分かっていながら、俺は姶良の答えを待った。
「……昨日は朝起きてご飯食べて、学校に登校して、授業受けて、バイトして終わり……」
簡潔に昨日のしたことをまとめる姶良。一応は覚えているようだが、簡略化しすぎている。しかも、俺と未来に会ったという出来事が入っていない。
こいつには、そこまで重要な出来事じゃなかったということか。
話が終わったと思っていると、「……それで」と姶良が続きを話し始めた。
「昨日拾ったゴミが、朝に空き缶三つとポリ袋、吸い殻が二本。……昼は学校で紙パックのジュースと丸まったティッシュ、ノートの切れ端、使えなくなった消しゴムと輪ゴム。……学校が終わった後は、ボロボロのチラシと空っぽのタバコ箱、漫画雑誌、ゴミが入ったポリ袋二つ、空のペットボトルが四本、お菓子の袋、黒ずんだ人形、片っぽしかなかったスリッパ。夜のバイトで二〇代ぐらいの女性が一人。……以上」
「……」
俺は呆気にとられていた。まさか、捨てたもしくは拾ったゴミを全て覚えているとは、思いもしなかったから。
普通、自分が捨てたゴミをいちいちこと細かく覚えている奴はいないだろう。まず、覚える意味がない、覚える必要性がない。
ならば何故姶良はそんなことを覚えているのか、素直に聞いてみる。
「……人間になるために、必要なことだと思ったから」
「……そうか」
俺はその答えを聞いて納得する。
姶良が何故ゴミを拾い捨て続けるのか、俺は前にその理由を聞いたことがあるから、今の言葉の意味を理解できた。姶良の子供の頃の話を知っているから、彼女の無駄だと思える努力をバカにはしない。
そして、姶良があの雑誌記者を覚えていない理由が、自分で捨てたゴミではないからという至極単純な理由であることを、俺は理解した。
学校に着いた俺達は、それぞれ自分の教室に向かい別れる。
教室に入るとクラスメイトの誰かが、登校時に大量のアダルト雑誌が道端に落ちていたと騒いでいた。
その話に興味がない俺は、授業が始まるまでの僅かな時間を、昼ではない昼寝に費やすことにした。
ゴミ女と深夜バイト (終わり)
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