××男と異常女共

シイタ

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Ignorance is bliss.

6-1

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◯理想の果実◯ Sight : ???

 この世には、多くの果実がある。
 甘い果実、苦い果実、酸っぱい果実、渋い果実、香りのある果実、臭いのある果実、赤い果実、青い果実、黄い果実、緑の果実、 橙の果実、茶の果実、綺麗な果実、汚い果実、とげとげの果実、でこぼこな果実、ヘンテコな果実……。
 本当に多く、本当に様々で、本当に魅力のある果実が、この世にはたくさんある。

 そんな中で私が好きなのは、少し渋くて甘い果実。
 そして、その果実の味は絶妙で最高のものでなくては許せない。
 言うならば、『子供は卒業したが、大人にはなりきれていない』。
 そんな味を私は求めている。
 しかもそれだけではない。
 私は味だけではなく、美しさにも重点に置いている。
 へこみがなく、傷がなく、形が整っていて、ハリがあり、輝きがあるのものでなければならない。
 そんな果実を求めていた。
 
 私は理想と出会うために、育ち始めである多くの果実を観察し、その中から自分の理想になるかもしれないものを予想して、それに目星をつけることにした。
 目星をつけた果実は、熱心に、ひた向きに、精一杯、世話をする。
 もちろん、目星をつけていない果実のことも忘れないで。
 その世話の度合いは、明らかに違ってしまっていたけど。
 
 私は常々思っていた。
 理想に近い果実を育てるために、目星をつけたものをずっと近くで世話していきたいと。
 しかし、それはある事情からできなかった。
 だから、目星をつけた果実に“しるし”を付けて置くことにした。
 目星をつけた果実が成長した時、一目で分かるように。
 あとは果実が理想に近づく時期に、つけた“しるし”を目印にして摘み取りに行けばいい。
 そう思って私は、果実が理想のものになることを願い、その時を待った、待ち焦がれた――。
 

 そうやって、私は今まで自分の理想に近づいた果実を摘み取ってきた。
 だけど、どれも理想に近いというだけで、理想と呼べるものではなかった。
 でも、今回見つけた果実は今までとは全く違う。
 その果実は育ち始めからでも分かるほど、“異常”だった。
 この果実なら、私の求める理想の果実になるかもしれない。
 そう感じた私は、今まで以上に力を込めてその果実を育てた。
 時が来て、その理想になるかもしれない果実は私の元から離れていく。
 しかし抜かりはない、その果実にも私はきちんと目印である“しるし”をつけておいた。
 あとはいつもと同じように、果実が私の理想に実るまで待つだけ。
 理想の果実になっているように願うだけ。

 
 ――月日が経ち、収穫の時期が来た。
 
 ……あぁ、やっと、やっと、この時が来た。ずっと、ずっと、待っていた。今までにないくらい、待っていた。それはまるで、恋する乙女が運命の人を待つように。

 私はドキドキと高鳴る胸を押さえ、頭の中で育った果実を――想像する、思い描く、もの思う。

 あの子はちゃんと育ってくれたかしら。私の理想とする味に育ってくれたかしら。私の理想とする美しさに育ってくれたかしら。私の理想通りに育ってくれたかしら。

 はぁぁっ、溜まった興奮と溜まった息を吐いて心を落ち着かせると、私は椅子の背もたれに体を預けた。
 暗い部屋の中に唯一照らされている机の上を見ると、その机の上にあるのは一枚の白色の紙と一枚のクリーム色の紙。
 私は、それを見て呟く。

「……さぁ、実った果実を摘み取りに行きましょう」

 誰に言うわけでもなく発せられた言葉は、暗く静かな部屋に溶けるように消えていく。
 私は椅子を回転させて後ろを振り向くと、部屋の中を見渡した。
 私以外に誰もいない部屋、私にとって特別な部屋、私のためだけの部屋。
 そんな部屋の中にあるものを眺めて、私は――

 ――口角を釣り上げた。
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