××男と異常女共

シイタ

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Ignorance is bliss.

6-10

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「……?」

 千紗ちゃんの質問に、女の子は首を傾ける。
 質問の意味がよく分かっていないご様子だ。

「いつも八切あいつと一緒に登校して来るでしょ。それが何でなのかなと思って。言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど」

「……」

 なんだそう言うことか。
 私はそれを聞いて気を緩める。肩透かしであった。
 もしかしたら、千紗ちゃんがキリヤくんに目を付けたのかと思ったけど違うみたい。
 新たな恋敵ライバル登場!? とか考えて、ちょっと身構えてしまったよ。
 ま、そうなったとしても別にいいんだけどね。
 
「……お隣さん」

 少しのがあった後に女の子はそう答えた。
 それに千紗ちゃんは「それだけ?」と確かめるように聞く。
 女の子はまた少し間を空けると、口を開いて答えた。

「……同僚」

「同僚? なんの?」

「……バイトの」

「へぇ、御五智さんって八切くんと同じバイトしてるんだ。ねぇねぇ、なんのバイトしてるの? 千紗ちゃんみたいに飲食店とか? それともひみちゃんみたいに喫茶店のウェイトレスとか?」

 レナちゃんが興味津々で問いかける。
 私はそれを隣で聞いていて、明後日の方に目を向けて思い出していた。そういえば、バイトを辞めたってこと教えてなかったなぁ、と。
 だから今でもレナちゃんと千紗ちゃんは、私が喫茶店でバイトしてると思ってる。
 何故辞めたことを二人に教えなかったのかというと、バイトをしていると思われている状況の方が都合が良かったから。
 キリヤくんを追いかけるため、友達のお誘いを断る時の理由に「バイトがあるから」という言葉は実に便利である。「用事があるから無理」というよりも、ちゃんとした理由を話して断れば相手を不快にさせたり疑問を持たせずに済むからね。

 でも嘘はいつバレるか分からないし、そろそろ辞めたって言っとかないとなぁ。来週にでも言おうかな。

 一人そんなことを考えていると、女の子が口を開いて問いかけに応じていた。「……ゴミ拾いのバイト」と。

「「……」」

 キョトンとした顔になるお二人さん。
 きっと千紗ちゃんとレナちゃんは、今こう思っているだろう。
 バイトでもゴミ拾いしてるんだ、と。
 呆れるのも仕方のないことである。普通、今時の女子高生がゴミ拾いのバイトしているなんて誰も思わないだろうし、思いつきもしないだろうから。
 毎日のように道端に落ちているゴミを拾い続ける女の子。傍から見ても変わった子だなぁとは思っていただろうが、今日の会話でその認識は強くなったと思う。始めて彼女と会話する千紗ちゃんは特に。

 だけど、二人が思う女の子の認識はまだ『変わった子』であり『異常な子』ではない。
 それは彼女の本質を一端しか見れていないから。
 もしもそれを半分でも知ってしまったら、二人の認識は急激に変わることになるだろう。
 その時千紗ちゃんとレナちゃんは、きっと女の子を嫌悪し、不気味に思い、気味悪がる。
 だって二人は、『普通』の女子高生だから。『異常』を相容れない『普通』だから。
 そうなる可能性があるのは、私も同じである。
 
「それじゃあね。また今度遊ぼうね!」

「……」

 レナちゃんが別れの言葉を言いながら手を振って歩き出し、それに付いていく千紗ちゃん。
 私も後からに続くように足を踏み出すが二人の顔が前を向いた瞬間に止めて、女の子の方に軽く振り向く。
 
「何かいいことでもあった?」

「……」

 そう聞くと女の子は、黙って私のことを見てくる。
 なんでいきなりこんなことを聞くのかというと、女の子の目がいつもより少し輝いているように見えたからだ。
 普段の彼女はキリヤくんみたいに、感情をほとんど映さない死んだような目をしている。なのに今日は、その目に感情が見え隠れしていた。
 彼女の感情が映った目を見るのは、今までで初めてのことである。
 だから気になって、二人が離れた今の内に聞いたのだ。
 
「……あった」

 女の子は変わらない声音で答える。
 しかし、その目は嬉しそうに輝いていた。
 自分の良かったことを知ってもらいたい、自慢したい。そう思っているような目だ。
 だけど、女の子はそれ以上語らない。
 喋り慣れていないからか、今の言葉だけで十分だと思っているからか。解らないけど、彼女とは友達と言えるほど親しくなっていない私には、それだけで十分だった。
 
「そっか、そうなんだ。実は私もなんだよね。とっても良いことがあって気分がいいんだぁ」

 むふふと思わず思い出し笑いをしてしまう。
 女の子は「……そう」と興味なさげに応える。実際、興味なんてないのだろう。

「それじゃあまたね、姶良あいらちゃん♪」

 私はひらひらと手を振って、彼女と別れた。
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