××男と異常女共

シイタ

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Ignorance is bliss.

6-12

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◯空いた予定◯ Sight : キリヤ

 放課後、学校の図書室。
 俺はいつも座る場所に席を取り、静かに手に持つ本を読んでいる。
 図書室の中は、俺のように本を読んでいる人や問題集を開いて勉強をしている人がまばらにいるぐらい。
 聞こえてくる音は、ぺらりと本のページが開かれる音やカリカリとペンを動かす音、たまに窓の外から聞こえてくる運動部の掛け声ぐらいで静かなものだ。

 チラリと図書室に設置されている時計を確かめる。時間は放課後になってから、すでに一時間が経過していた。
 次にポケットにあるスマホを取り出して、何か通知などが来ていないかを机の下で確認するが、スマホには何の通知も来ていない。
 はぁー、と俺は一つため息を吐いた。
 待つに待っても来ない後輩に呆れ返ったからだ。
 今日は三影と放課後の図書室で会い、彼女の趣味である『人間観察』の話を聞く日である。
 しかし、彼女は一時間経ってもこの場に来ず、連絡一つも寄越してこない。
 三影にしては珍しいことだ。彼女なら遅れるにしても会えなくなるにしても、何かしらの連絡をしてくるものなのに。
 何かあったのかもしれない。何もないのかもしれない。判らないが、心配はしない。してもしょうがないからだ。
 三影が今どこで何をしてるのか俺は知らない。知ってるのは三影自身だけだろう。彼女には自分の行動を知らせる相手が、ほとんどいないのだから。
 そのほとんどの中にいる俺が知らないのだから、本当にどうしようもない。
 まぁ、そんなに深刻になることはないと思う。どうせ趣味に没頭しすぎて、手が離せないとかそんな感じだ。
 そう結論づけた俺は、本を閉じて学校を出ることを決める。
 これで三影が盛大な遅刻をしただけだったなら、後日謝罪の言葉でも聞けるだろう。その時は何かお返しでもしてもらおう。
 念のためLINKで『帰る』という一言を送り、俺は席を立った。

 学校を出て、予定がなくなった時間をどうするか歩きながら考える。
 寄り道せずに真っ直ぐ家に帰るのもいいが、家にはあの幽霊女ユウノがいる。
 別に何かあるという訳ではないが、何もないという訳でもない。
 ただ遊んでとせがまれるのが面倒なのだ。
 断れば駄々をこねてきて煩いし、付き合えば気まぐれで自分勝手な行動が疲れるを呼ぶ。
 やっぱり図書室で時間を潰せばよかったかもしれないと、今更になって思ってしまう。

 さぁ、どうするか……。


 ――ジリリリリリリリン……ジリリリリリリリリン……

 しばらく目的もないまま足を進めていると、ポケットにあるスマホが震え着信音が鳴り出した。
 
「はい、もしもし」

『やっほー、キリヤお兄ちゃん?  キリナだけど、ちゃんと覚えてる?』

「ああ、覚えてるけど。何の用?」

『それは良かった。キリヤお兄ちゃんてば全然家に帰って来ないし電話もしてきてくれないから、こっちのことなんて忘れちゃってるのかと思ったよ。安心安心」

「……年明けにはちゃんと帰っただろ」

『どれだけ前のこと言ってんの。それに今年は少しぐらいこっちに顔出すか声だけでも聞かせてねって言ったのに、電話の一本もくれないんだから。忘れられたと思われても、キリヤお兄ちゃんは文句なんて言えないし、言わせないんだから』

「へいへい、悪ぅござんした」

『解ればよろしい。許してしんぜよう。聖女様のように優しい私に感謝してよね』

「はいはい、聖女マザー・キリナには世界中の人間が敬愛の心を持っていますよ」

『私はキリヤお兄ちゃんの愛情だけあれば幸せなんだけどなー』

「…………あー、あー……悪い、いきなり電波が悪く――」

『私はキリヤお兄ちゃんの愛情だけあれば幸せなんだけどなー!』

「えー、なんだってー」

『私はキリヤお兄ちゃんの愛情だけあれば幸せなんだけどなー!!!』

 プツッ………………。
 ――ジリリリリリリリン……ジリリリリリリリン……

「はい」

『なんでいきなり切るのー!』

「いや、何故か電波が悪すぎるみたいなんだよ。俺は全然悪くない」

『そんないきなり電波が悪くなることなんてあるわけないじゃん』

「実際にあるんだからしょうがないだろ。本当になんでだろうな。不思議なこともあるもんだ。……それより、何の用で電話したんだ?」

『さぁ、何の用だったかなー』

「……何が不満なのか知らんけど、思い出せないなら切るぞ」

『……キリヤお兄ちゃんってひねくれ者だよね。そんなんじゃ女の子にモテないよ』

「別にモテたいとも思ってないから構わねぇよ。それと……」

『ん?』

「お兄ちゃんって呼ぶなって言ってるだろうが」

『……にひひ、いーやー。だってキリヤお兄ちゃんはキリヤお兄ちゃんだもん。今更変えられないよ』

「ずっと止めろって言ってきたと思うんだが」

『聞こえない聞こえなーい、電波が悪いのかなー。そんなことより、今週の休日は空けておいてね。私泊まりでそっちに遊びに行くから』

「はぁ?」

『よろしくねー』

 プツッ………………。

 一方的に電話を切られたことを不快に感じながら、最後にキリナが言ってた言葉を思い出す。
 『休日に』『泊まりで』『遊びに行くから』。
 何処に? という疑問は出さなくても分かる。俺の住んでいるアパートの他ないだろう。
 別に泊まりに来るのは構わない。今週の休日は特に予定も何もなかった筈だし、同じ部屋に女子と二人っきりで寝泊まりと言っても、相手がキリナだったら問題もない。
 ただ、気がかりなこともいくつかある。
 それは、部屋うちには大体の生活必需品は俺一人用しかないということ。布団や毛布も俺の分しかない。そこら辺のことは彼女も重々承知してると思うがどうするのか。
 それと、先ほど二人っきりと言ったが明確に言えば二人っきりとは言えない。あの部屋にはいたずら好きな幽霊女がいるのだ。
 休日に見知らぬ女が部屋に泊まりに来れば、ユウノあいつが何もしないで大人しくしている訳がない。

「……」

 それを考えた上で、俺はこれからの予定を決定した。
 
「とりあえず、ゲーセン行くか」
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