××男と異常女共

シイタ

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ストーカー女のストーカー

2-6

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 あの時のを僕は今でも覚えている。あのような失敗はもう繰り返さない。
 僕はカップに入ったコーヒーを飲んで一息ついて、あるテーブルに視線を向ける。
 今日はなんてラッキーな日なのか、そう思わずにはいられない。
 初めにこの店に入った時は彼女がいないことにがっかりしながら、いつもの席に着いたが、僕が席に着きコーヒーを飲んでいる最中に彼女はやって来た。店員としてではなくお客として。
 僕は初めて見る彼女の私服姿に心を躍らせながら、密かに彼女のことを見て堪能していた。
 そして、もう一度決意する。
 今度こそ彼女を自分のにしてみせる、と。

 彼女がいつもの店員の姿ではなく私服の姿で現れたのは、彼女に向けて僕が新たな一歩を踏み出すための運命ではないだろうか、いやそうに違いない。

 僕はそう結論づけて彼女に声をかけることを決め席から立ち上がろうとした瞬間、店のドアが開き新しいお客が入ってきた。
 なんてタイミングの悪い。まるでリレーのスタートダッシュを邪魔されたかのような不快感が残り、幸先が心配になってくる。
 僕はその原因を作ったお客を恨めしそうに睨む。そのお客は目立つ金髪に、あの時の怖そうな先輩の目つきと似かよう鋭い目つきをしていた。その目つきを見るだけで苦い記憶を思い出しそうになり、僕は目を逸らした。

 ちっ、嫌な目つきしやがって。

 口には出さずに悪態を吐いて、頭を切り替える。
 あんな金髪に構っている暇はない、この機会を逃すわけにいかない。
 僕は改めてもう一度彼女に声をかけるために、立ち上がろうと彼女のことを見て、固まった。なぜなら、彼女が自分のカップを持って、先に席を立ち上がったからだ。
 もしかして、彼女から僕のところに来てくれるのか、そうだそうに違いない。
 僕はそう思い立ち上がることを止め、彼女が僕のテーブルに、僕の前の席に座ることを心待ちにした。
 彼女が僕の方にゆっくりと歩いてくる。ゆっくりとゆっくりと、あと数歩。

 だが、彼女は僕のテーブルを通り過ぎてしまった。

 なぜ?

 僕は驚きを隠すことを忘れながら、通り過ぎてしまった彼女に目を向けた。
 もしかしたら何かを間違えたのかもしれない。何をどう間違えたのかは知らないが、そうとしか思えなかった。
 しかし、そんな儚い期待もすぐさま散ってしまう。彼女は僕のところではない違うテーブルの、違う男の前の席に座り、今まで僕が見たこともないような笑顔でその男に話しかけていた。
 僕の第一歩を邪魔した、あの金髪で目つきが悪い男にだ。

 …………ふざけるな。
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