××男と異常女共

シイタ

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ストーカー女のストーカー

2-8

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 ××カフェ店は俺の家からは確かに遠い場所なのだが、電車に乗るだけで一〇分かそこらで着くぐらい近い場所でもあった。
 ××カフェ店は着いた駅から徒歩五分ぐらいの場所にあり、特に迷う事なく行きつく。
 木造を中心とした建築にモダンで落ち着いてる雰囲気をしたそのカフェ店は、外から中の様子を見ても人が全然来てない、売れてない店のようには見えなかった。

「人が来てない様子じゃないね。むしろいるような気がする」

「そうだな」

「じゃあ、なんでわざわざ無料券を家まで届けたのかな?」

「……入れば分かるだろ」

 そう言って、俺は目の前のカフェ店へ足を進め、ユウノも黙ってついてきた。
 カフェ店のドアを押して開くと、上部に設置されたベルが鳴り響く。と同時に店のウェイトレスが「いらっしゃいませ」と挨拶してくる。
 俺は何処かに座る前に店内を見渡して、自分を呼び出した相手を探してみた。

「おにいさん、あれおにいさんのお友だちじゃないの?」

「うん?」

 ユウノが言う場所を見てみると、そこにはこちらに手を振って笑顔でいる人物がいた。
 俺はその人物を見て心底嫌な気分になりながら、速やかにその人物が座る席から、最も遠い席に座ることを決める。

「あの人、手ふってるけど無視していいの?」

「いいんだよ」

 俺が席につくと隣にユウノが座り、すぐにウェイトレスがオススメのメニューを持ってきた。
 ユウノは幽霊だから飲食を必要としないため?俺の分のカフェオレだけを注文する。ユウノも自分のことながらそれを承知しているため、羨ましそうな顔ひとつせず大人しい。
 ウェイトレスは注文を聞くと、俺たちの席から離れていき、入れ替わりで先ほどの人物がやって来た。

「ひっどーい、キリヤくん。目合わせておきながら無視するなんて」

 そう言って、俺の前に座る『ストーカー女』こと空乃ひとみ。俺のポストにこの店の無料券を入れ、ここに呼び出した張本人が、こいつなのだろう。

「キリヤくんを思う私のハートにヒビが入ったらどうしてくれるの?」

「……そんなハート、そのまま砕け散れ」

「まっ、もともとキリヤくんに私のハートは射抜かれているから、多少の傷も許容範囲ドンと来いなんですけどね」

 あはは、と楽しそうに笑うひとみに、うざってーと心の中で思う俺。
 すると先ほどのウェイトレスが注文した飲み物を持ってきて、やにわにひとみに話しかけてきた。

「この人が待ち合わせしてた人なの? 空乃さん」
 
「うん、そうなの」

「へー、てっきり女子の友達と待ち合わせしてるのかと思ったけど、男子だったんだ。……空乃さんの彼氏さん?」

「――違う」

 ウェイトレスがひとみに聞いた質問に、俺が即答で答える。

 こいつの彼氏など、死んでもなるものか。

 俺は来たカフェオレを一口飲むと、間を置かない答えで唖然とした顔するウェイトレスに、ひとみがフォローを入れた。

「学校のお友達だよ。ちょっと相談事があって来てもらったの」

「そうなんだ。でもさっきまで向こうの席に座ってなかった? なんで移動してるの?」

「彼が私にここに座ったから、わざわざこっちまで移動しただけだよ」

 ひとみのその言葉にウェイトレスがまた唖然とした顔をした後、ひとみの耳元で囁くように喋る。
 
「……それって、空乃さん相談相手間違えてるんじゃないの?」

 俺に聞こえないように配慮して耳元で話しているんだろうが、残念丸聞こえだ。
 俺は聞こえてないふりをして、黙ってカフェオレを再度飲む。

 他人の評価など、どうでもいいことだ。

「ねぇ、おにいさん。このお姉さんが無料券をポストに入れた人なの?」

 隣に座るユウノが、俺の服をぐいぐいと引っ張りながら聞いてくる。
 俺は傍目でひとみたちの方を見るが、二人はユウノの声が聞こえていない見えていない認識していない様子だ。まぁ、幽霊だから当たり前だが。
 ここで俺がユウノの質問に応えようものなら、変な目で見られること間違いなし。俺はポケットからスマホを取り出して、メモアプリを開き、ユウノに見えるようテーブルの下で文字を打つ。

『ああ、多分な』

「やっぱりそうなんだ。おねえさんってここでバイトでもしてるのかな? 店員の人と仲良さそうだし」

『かもな。……それよりお前こいつのこと知ってるのか?』

「うん、でも知ってるって言っても、前におにいさんとおねえさんが、二人で話してるのを見かけただけだけどね。何かおかしかった?」

『……いや別に』

 俺が住む部屋で殺された幽霊であるユウノは、四六時中ずっと部屋にいるわけではなく、一人で出歩くことが度々ある。そのため、俺とひとみが出会ったのを見ていたとしても、皆目おかしいところはない。
 ただユウノは間違え、もとい勘違いしていることが一つある。
 それはーー

『ただ、俺とこいつは友達という関係じゃない』

 それを読んで、ユウノは首を傾げながら俺の顔を見て「違うの?」と聞いてきたが、俺は何も応えなかった。
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