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<Chapter1>開幕
<1-1>ギルド所属希望!!
しおりを挟む巨大な『大神樹』を取り囲むように存在する空中浮遊都市『ノルグガンド』
そこに住む人々は皆、魔法を用い、日々の暮らしを豊かにし、平和を脅かす魔物と戦っていた。
その第1~第20番まである島で、最も文明が栄えている島・・・第1番島となる「スヴェルニア」に今日、一人の少年が足を踏み入れた。
「ついに来たぞ・・・・・1番島!!」
二つの大きな碑が織りなす青い空間から出て、中央広場へと降り立った少年は、今までに見たことのない活気のある景色を見て、感動のあまりそう叫んだ・・・
・・・が、あまりに声が大きかったために周囲の人々を「何だ?」と振り返らせてしまう。
「す、すいません!」
我に返った少年がすぐさま謝り、その場で一礼すると周りの人々はまた何事もなかったように歩き始める。
ふう・・・危なかった~~
自身の行いに反省した僕・・・ことルース=ウォルフレットは額に浮かんだ汗をぬぐった。
でも・・・やっぱりすごいな・・・
再び顔を上げた僕の目に入りこんで来るのは、中央広場を中心として伸びる八本のメインストリートを挟むように建てられた中世風の色とりどりの建物と、そこを行き交う様々な種族の人々、そして街の奥に見える天高くそびえたつ大きな木だった。
「綺麗だなぁ・・・・って、あ・・・・」
今までに住んでいた素朴な街だけの島では、見ることの出来ない光景。
そんな風景にまた見とれそうになってしまうが、ここへ来た理由を思い出す。
「こうしている場合じゃなかった!・・・えっと、とりあえず地図は・・・あ、あった」
背中にからった茶色のバッグパックを探り、目的の場所が書かれている地図を取り出す。
「こっからだと・・・こっちか」
そして、目的の場所がある北の商業区へと、僕は街中を進んでいった。
*****
商業区となっている道の一角にある店の前で僕は、足を止め深呼吸をする。
慌てるな・・・まずは最初が肝心なんだ。
最初に上手くアピールすればきっと評価は高まるはず・・・イメージよし。心の準備よし。
頭の中で謎理論の整理を終えた僕は、一気に店へと踏み込み、そして・・・
「頼もーーーーっ!」
と店内に言い放った。
当然、店内にいた人達は僕の方を一斉に見る。
しかし、振り返った人々は僕の想像とは全く異なっていた。
ビールを片手に丸テーブルを囲うガラの悪そうな人達のグループが複数・・・
・・・ってこれって世にいう荒くれ者じゃないのか!?
そこまで気づいた瞬間、新たに周りの人が僕をただ見ているのではなく、睨み付けてきていることに気づいた。
もしかしてかなりやばいんじゃないのか、この状況は・・・
数秒立つごとに周りからの視線の圧力が増していく。
そしてその度に、僕の背筋も凍り付いていく。
入る店間違えたっけ・・・でも、地図にはここって書かれてるよな・・・うん。書かれてる。
身体からカチコチと音がしそうなほどのぎこちなさで手元の地図を見るが、示す場所はここの一点のみ。
え・・・じゃあ、なんだ?僕はこれからここで働くことになるのか?
最悪の中の最悪の出だしに、最悪のメンバー、先の事を考えるごとに僕の頭は何も考えられなくなっていく。
な・・・なにか、間違いはないのか?こんな不条理な状態を維持するなんてキツすぎる。
どこかに間違いがないか、頭を巡らせると、一つの可能性に気が付いた。
そういえば・・・この地図が間違ってたりして・・・
そうだ!それしかない!
もしかしたら、隣の店が合っているという落ちに違いない!
周りからの圧力でカチンコチンに凍ってしまった身体を何とか動かし、カウンターの奥にいる、一際強い目力を発する、がたいの良すぎるスキンヘッドのおじさん・・・恐らくこの店の店主である人の前へと訪ねに向かう。
「えっと!?この地図に書かれている店の『イングラムカフェ』って近くにありませんか・・・」
上ずった声で始まり、次第に小さくなっていく声を聞き届けたオーナーは目の圧力が人を殺せてしまいそうなほどに強めてこう言った。
「ここがその『イングラムカフェ』だが?・・・何か?」
・・・・
思考がもはや完全に停止する。
どうやら僕の問いには一番の最悪解が選ばれたらしい・・・
もうこのまま塵にでもなってしまおう・・・・
そう考え始めた僕に対し、オーナーは再び口を開いた。
「・・・お前、ギルドに入りに来たのか?」
オーナーが口にしたのは僕がこの店へと訪れた理由そのものだった。
「は!はい!そうです!!」
「そうか・・・」
僕の声を聞いたオーナーは近くにあった空のグラスを手に取り、
「野郎共!入団希望者だ・・・宴だ!!」
そう言った。
すると、さっきまでこちらを睨み付けていた客が一斉に飛び跳ね、こう言った。
「「「よっしゃーーーーっ!!」」」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
オーナーのその一言を聞いた客の全員が叫び、喜び、店内を暴れ始める。
「旦那!つまり今日はおごりってことでいいんっすよね?」
「ああ、めでたい事だ。ならば、祝うしかないだろう」
周りのあまりの変わりっぷりに、僕は衝撃を受ける。
「すまないな。驚かせて・・・だが、あの位の圧力に耐えられなかったら、ギルドやっていけないからな。ここでは、ああやって来る人を試すのがしきたりなんだ」
オーナーのその言葉を聞いて、僕はホッと胸をなでおろした。
意外といい人たちなのかも知れない・・・それに、ここなら楽しくやっていけそうな気もしてきた・・・
僕はそう考えを改めた。
「俺は、この店のマスターをやっているイングラム=アンダーソンっていうんだ」
「ぼ、僕はルース=ウォルフレットって言います!」
「ほう・・・いい名前だ。これからよろしくな」
そう言って、イングラムさんは僕の前へと手を出してくる。
「・・・っ!はいっ!よろしくお願いします!!」
その好意を全身で受け止めるように、僕は力強く握手した。
「じゃあ、裏で契約書類を調べてくるから、待ってな」
そうして、イングラムさんは調べにカフェの奥へと入っていた。
今日から、始まるんだ・・・僕の第一歩が!
そう心で言うと、不思議と全身から力が湧いてくるような気がした。
その気持ちを僕は右手でしっかりと握りしめた。
*****
10分後・・・・
「うわっ!?」
突如として、店から金髪の一人の少年が放り出される。
「悪いな。子供の話に付き合っている暇はないんだ。今度はしっかり書類を持ってこい・・・」
そう言って、その店の店主は戸を閉めた。
その顔には怒りが浮かんでいた。
そしてその店とは『イングラムカフェ』であり、僕は路地裏へと放り出されていた。
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