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第17話 寂しい配信
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今日は盗撮男から始まって色々とあった。このまま寝たい気持ちはあるけど、引越の準備からしばらくの間、パソコンでの配信が出来ていない。
待っている常連のリスナーのことを考えたら、引越完了の報告だけじゃなく今後もしばらく配信できないことは伝えておくべきだろう。
パソコンを立ち上げてから配信の準備をする。
過去に作った適当なサムネイルを設定して、配信ボタンを押そうとしたところで手を止めた。
安全は確保できているだろか?
確認しよう。
窓は鍵をかけてカーテンまでしている。部屋のドアに鍵はないけど、鞄を置いたので開いても突っかかるようになっていて、配信中にいきなり侵入されることはないだろう。十秒あれば強制終了できるので身バレの心配はしなくて良い。
うん。準備は完了だ。
最後にアームの位置を調整してマイクを口元に持っていくと配信開始ボタンを押した。
BGMを流しながら同接数をじーっと眺める。まだ0だけど不安はない。配信開始して五分ぐらいは誰も来ないこともよくあるからね。
でも今日はちょっと様子が違った。十分経過しても同接は0のまま。いつもならメメさんが真っ先に来るんだけど、何かあったのかな。いつもと違う時間だからお風呂に入っているとか? 寝るには早い時間だし、可能性としてはありそう。ちょうど舞依さんもお風呂に入っているしね。
今日は時間が悪そうだから、明日の夕方にもう一度配信しようか。
配信を終了しようとマウスを動かしていると、同接の数字が0から1に変わった。
「こんにちは~」
コメントが書かれるまで誰が来たのかわからない。常連かもしれないし、たまたま画面を開いただけの初見かもしれないので、数字が0になるかコメントが書き込まれるまで話し続ける必要がある。
「今日は天気よかったけど肌寒かったね。夏はまだ遠そうだ」
無難な話題で反応を伺うが反応はない。
こんなことならSNSで事前に告知して待機部屋作っておくべきだった、なんて反省しつつも口は止めない。
早く常連さんが来てくれないかなと思いつつも話を続けていると、ついにコメントが書き込まれた。
[キラキラJD:やっほー! 今日もイケボだね。ってか配信久々!?]
正直なところ心底ほっとした。配信しなかったせいで見限られてしまったかもと不安になっていたこともあって、いつもよりコメントがキラキラと輝いているように見える。
「引越と新生活で忙しくてできなかったんだ。ごめんね」
[キラキラJD:気にしてないよ! ムリせずにマイペースで配信を続けて!]
VTuber業界は甘やかしてくれる人が多いから、大変なことがあったときは、すごく助かる。
我が家に帰ってきた安心感があった。
[キラキラJD:そういえば、今日はメメいないの?]
「うん。珍しく来てないんだよね」
[キラキラJD:それは残念だなぁ]
これでコメントが止まってしまった。
いつもは連続で書き込んでくれるんだけど……ああ、そうか。キラキラJDさんがいるときは、メメさんもいるから二人で盛り上がってたんだ。俺と一対一は初めてなはず。
助けを求めるように同接の数字を見るけど、1から変化はなし。
ワカメさんも来ないみたいだ。
全員が揃ってから言おうと思っていたけど、会話が続かないので女子高生――陽葵さんに絡まれた話やお昼がサンドイッチだけだったことなどを話していく。
まばらだけどキラキラJDさんもコメントを返してくれるので、いつもより寂しいけどなんとか配信は成り立っている。気がつけば同接は10になっていた。
この中にワカメさんやメメさんはいるのだろうか。
「でね。ちょっと学校でトラブルがあって、今まで通り配信できるようになるのはもう少し先になりそうなんだ」
[キラキラJD:トラブル!? それって大丈夫なの?]
「俺はね」
[キラキラJD:ってことは友達とか?]
「友達ってよりも……学校の知り合いかな?」
[キラキラJD:知り合いのトラブルと聖夜君に何が関係あるの?]
「トラブル解決の一部を引き受けたんだよ」
[キラキラJD:へー……知り合いって女子でしょ。しかもカワイイ]
たったこれだけけの情報で、なんでわかったの!?
カンが鋭い。正解だと言ってあげたいところだけど、ヒントを与えたら舞依さんのことまでたどり着いちゃいそうな怖さがあるので、言わないでおこう。
動揺を隠しながら、いつも通りを装う。
「どうだろうね。秘密ってことで」
[キラキラJD:ふーん。それでもうわかったから]
「そっか。想像にお任せするよ」
心臓がバクバクしている。
引きつった笑顔をしていそうだ。
顔出し配信じゃなくて本当に良かった。
[キラキラJD:とりあえず配信が減っちゃうのはわかった。今回のこと私からメメとワカメに言っても良い?]
「良いけど連絡先知っているの?」
[キラキラJD:うん。ちょくちょく会っているからね]
オフ会をしたと言ってたけど、そこまで仲が進展しているとは思わなかった。
当人たちが連絡先を交換しているのであれば、配信者でしかない俺が口を出す権利はない。三人とも自称女性なんだし、男女トラブルに発展する心配は……ないかな。多分。
「そっか。じゃぁ報告はお任せするね」
[キラキラJD:まかせて! じゃぁメメに連絡してくるね。ばいばい~]
同接数が1減ってしまった。コメントを書き込んでくれる人はいない。
目的は達成しことだし、短いけど配信を終わりにしようか。
「夜も遅くなってきたし、俺もそろそろ配信終わりにするよ。みんな、高評価、チャンネル登録してね! それじゃまた!」
配信終了ボタンをおしてパソコンの電源を落とす。
「ふぅ……」
今日は久々に辛い配信だった。デビューしたての頃を思い出す。
誰も見てくれなくて寂しい配信を何度も続けていたなぁ。活動を始めて二週間ぐらいでメメさんがきて、そこから配信の楽しさがわかるようになったんだよね。その後に、ワカメさんやキラキラJDさんがきて同接数も少しずつだけど伸びてきた。
それで満足していたんだけど、今日みたいな寂しい日が続くことを考えたら、もっとリスナーを増やした方がいいのかもしれない。
現状維持は緩やかな衰退だと聞いたこともある。
人気VTuberとはまでは言わないけど、もう少し上を目指して良いのかもしれない。
舞依さんの問題が解決したら、俺は将来のことを考えようと決めた。
待っている常連のリスナーのことを考えたら、引越完了の報告だけじゃなく今後もしばらく配信できないことは伝えておくべきだろう。
パソコンを立ち上げてから配信の準備をする。
過去に作った適当なサムネイルを設定して、配信ボタンを押そうとしたところで手を止めた。
安全は確保できているだろか?
確認しよう。
窓は鍵をかけてカーテンまでしている。部屋のドアに鍵はないけど、鞄を置いたので開いても突っかかるようになっていて、配信中にいきなり侵入されることはないだろう。十秒あれば強制終了できるので身バレの心配はしなくて良い。
うん。準備は完了だ。
最後にアームの位置を調整してマイクを口元に持っていくと配信開始ボタンを押した。
BGMを流しながら同接数をじーっと眺める。まだ0だけど不安はない。配信開始して五分ぐらいは誰も来ないこともよくあるからね。
でも今日はちょっと様子が違った。十分経過しても同接は0のまま。いつもならメメさんが真っ先に来るんだけど、何かあったのかな。いつもと違う時間だからお風呂に入っているとか? 寝るには早い時間だし、可能性としてはありそう。ちょうど舞依さんもお風呂に入っているしね。
今日は時間が悪そうだから、明日の夕方にもう一度配信しようか。
配信を終了しようとマウスを動かしていると、同接の数字が0から1に変わった。
「こんにちは~」
コメントが書かれるまで誰が来たのかわからない。常連かもしれないし、たまたま画面を開いただけの初見かもしれないので、数字が0になるかコメントが書き込まれるまで話し続ける必要がある。
「今日は天気よかったけど肌寒かったね。夏はまだ遠そうだ」
無難な話題で反応を伺うが反応はない。
こんなことならSNSで事前に告知して待機部屋作っておくべきだった、なんて反省しつつも口は止めない。
早く常連さんが来てくれないかなと思いつつも話を続けていると、ついにコメントが書き込まれた。
[キラキラJD:やっほー! 今日もイケボだね。ってか配信久々!?]
正直なところ心底ほっとした。配信しなかったせいで見限られてしまったかもと不安になっていたこともあって、いつもよりコメントがキラキラと輝いているように見える。
「引越と新生活で忙しくてできなかったんだ。ごめんね」
[キラキラJD:気にしてないよ! ムリせずにマイペースで配信を続けて!]
VTuber業界は甘やかしてくれる人が多いから、大変なことがあったときは、すごく助かる。
我が家に帰ってきた安心感があった。
[キラキラJD:そういえば、今日はメメいないの?]
「うん。珍しく来てないんだよね」
[キラキラJD:それは残念だなぁ]
これでコメントが止まってしまった。
いつもは連続で書き込んでくれるんだけど……ああ、そうか。キラキラJDさんがいるときは、メメさんもいるから二人で盛り上がってたんだ。俺と一対一は初めてなはず。
助けを求めるように同接の数字を見るけど、1から変化はなし。
ワカメさんも来ないみたいだ。
全員が揃ってから言おうと思っていたけど、会話が続かないので女子高生――陽葵さんに絡まれた話やお昼がサンドイッチだけだったことなどを話していく。
まばらだけどキラキラJDさんもコメントを返してくれるので、いつもより寂しいけどなんとか配信は成り立っている。気がつけば同接は10になっていた。
この中にワカメさんやメメさんはいるのだろうか。
「でね。ちょっと学校でトラブルがあって、今まで通り配信できるようになるのはもう少し先になりそうなんだ」
[キラキラJD:トラブル!? それって大丈夫なの?]
「俺はね」
[キラキラJD:ってことは友達とか?]
「友達ってよりも……学校の知り合いかな?」
[キラキラJD:知り合いのトラブルと聖夜君に何が関係あるの?]
「トラブル解決の一部を引き受けたんだよ」
[キラキラJD:へー……知り合いって女子でしょ。しかもカワイイ]
たったこれだけけの情報で、なんでわかったの!?
カンが鋭い。正解だと言ってあげたいところだけど、ヒントを与えたら舞依さんのことまでたどり着いちゃいそうな怖さがあるので、言わないでおこう。
動揺を隠しながら、いつも通りを装う。
「どうだろうね。秘密ってことで」
[キラキラJD:ふーん。それでもうわかったから]
「そっか。想像にお任せするよ」
心臓がバクバクしている。
引きつった笑顔をしていそうだ。
顔出し配信じゃなくて本当に良かった。
[キラキラJD:とりあえず配信が減っちゃうのはわかった。今回のこと私からメメとワカメに言っても良い?]
「良いけど連絡先知っているの?」
[キラキラJD:うん。ちょくちょく会っているからね]
オフ会をしたと言ってたけど、そこまで仲が進展しているとは思わなかった。
当人たちが連絡先を交換しているのであれば、配信者でしかない俺が口を出す権利はない。三人とも自称女性なんだし、男女トラブルに発展する心配は……ないかな。多分。
「そっか。じゃぁ報告はお任せするね」
[キラキラJD:まかせて! じゃぁメメに連絡してくるね。ばいばい~]
同接数が1減ってしまった。コメントを書き込んでくれる人はいない。
目的は達成しことだし、短いけど配信を終わりにしようか。
「夜も遅くなってきたし、俺もそろそろ配信終わりにするよ。みんな、高評価、チャンネル登録してね! それじゃまた!」
配信終了ボタンをおしてパソコンの電源を落とす。
「ふぅ……」
今日は久々に辛い配信だった。デビューしたての頃を思い出す。
誰も見てくれなくて寂しい配信を何度も続けていたなぁ。活動を始めて二週間ぐらいでメメさんがきて、そこから配信の楽しさがわかるようになったんだよね。その後に、ワカメさんやキラキラJDさんがきて同接数も少しずつだけど伸びてきた。
それで満足していたんだけど、今日みたいな寂しい日が続くことを考えたら、もっとリスナーを増やした方がいいのかもしれない。
現状維持は緩やかな衰退だと聞いたこともある。
人気VTuberとはまでは言わないけど、もう少し上を目指して良いのかもしれない。
舞依さんの問題が解決したら、俺は将来のことを考えようと決めた。
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