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第27話 コラボ配信の内容
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翌日になって通話の時間を迎えた。
食事やお風呂、歯磨きはすべて終わっていて椅子に座って待機している。デスクの中心にはスマホを置いていて、相手から通話がくるのを待っている状態だ。
ディスプレイの時計が22:01になった。通話が来る気配はない。
忘れているとは思えないから用事があって遅れているのかも。チャットで連絡してみようか。
ブルル。
手を伸ばしかけたらスマホが震えた。画面にはメーベル・クロツェルの名がある。ピンク髪のアイコンも表示されているので本人からなのは間違いない。どうやら少しだけ遅れただけで約束は覚えていてくれたようだ。
ほっと安心しながら無線のイヤホンマイクをつけると、スマホを持って通話ボタンを押す。
「ごめん! ちょっと遅れちゃった!」
「気にしてないよ。時間を取ってくれてありがとう」
「うぁぁぁぁっっ! ナマ聖夜くんだ!」
最初が謝罪だったので真面目な人だなって思っていたんだけど、次の反応で急降下してしまった。じゅるりと涎を流している姿がイメージできてしまうほど、なんというか生々しくてすごい声だった。
配信じゃ絶対に出てこないだろう裏の姿である。
個別の通話すると、こんなことも経験できるんだと新しい発見があった。
「メーベルさんと話せて嬉しいよ」
「私も! 聖夜くんと通話したってV仲間に自慢するんだから!」
「それって自慢になるの? 俺のことなんて知らないんじゃないかな」
自他共に認める底辺VTuberだ。自慢したところで伝わらないだろう。
恥をかくだけだと思うんだけど。
「そんなことないよ! 実は聖夜くんって一部女V界隈で人気なんだよっ!」
「本当ですか? 誰にも言われたことない……」
「リスナーが嫉妬するからねぇ。サブ垢も危険だから、みんなコメントはしないけど熱心なファンも多いんだよ。ま、一部例外はいるけどね」
同接数のわりにコメントする人が決まっている理由が分かった。
正体はバレたくないけど声は聞きたい人……女性VTuberがいたんだ。
「そんなにいるんですか? 俺の声が好きと言ってくれる女性VTuber」
「私が知っている限りで五人はいるよ。でもみんな、ユニコーンリスナーが多いからコラボは厳しいかなぁ。私だけだよ。できそうなの」
もう少し話を詳しく聞いてみると、メーベルさんたちもリスナーには苦労しているみたいだ。人気ではないからこそ一人一人丁寧に接してしまい、ガチ恋されてしまうことも珍しくないとのこと。
男性VTuberの投稿に、いいね! をしただけでお気持ちDMを送る人もいるらしく、異性への接触は厳禁となっているらしい。
ファンのくせに彼女たちの活動を制限してどうするんだよ。
「好きなことをするためにVTuberをやっているのに、自分のリスナーに縛られたら意味ないよね」
スマホ越しから乾いた笑いが聞こえた。きっとメーベルさんも苦労してきたんだろう。
「その点、私は異性とコラボしまくってユニコーンを殺しているだから! 安心していいよ! 何ならオフコラボだって行けるんだから」
オフコラボは直接会って配信することを言う。
個人で活動している俺たちにとって、それはどちらかの家に行くことにもつながる。
恋人が欲しい! なんて思っている人たちにとっては魅力的なお誘いなのかもしれないけど、全く嬉しくはない。むしろ迷惑だなと感じてしまった。
「俺はオンラインでのコラボがいいな」
「やっぱそーなるかぁ。初めてだし、そうだよね。でも何回かコラボしたらオフも検討してね」
「わかりました」
「やったーーっ!!」
仲良くなれば直接会うぐらいはいいかと思って返事をした。
俺は男だし、細かいことは気にしなくても大丈夫だろう。
「それでコラボの内容どうする? 流行のゲームがいい?」
「クラフト系のゲームをしながら雑談はどうかな」
メーベルさんがコラボ配信するときによくやるゲームだ。まったりと素材を集めながらお互いの事を知っていくスタイルで、俺たちにはぴったりな配信だと思っていた。
「私のアーカイブを見て考えてくれたの?」
「初めてのコラボ相手だからね。勉強させてもらったよ」
「嬉し~~~!」
飛び跳ねるような声、というのを初めて聞いた。トーンが一つか二つ上がっていて本当に嬉しそうにしているから、なんだか俺も同じような気になるから不思議だ。
苦労してようやく見つけた相手は少し変わっているけど、いい人そうでよかった。
「だったらさ。クラフトゲームするときは新婚設定で家を作るのはどうかな?」
「いくらユニコーンを殺したといっても流石にやり過ぎだと思うけど……」
「だよね。嬉しくてちょっと変なこと言っちゃった」
経験豊富なだけあって俺の危機感は正確に伝わったようだ。
「それじゃ設定はなくして、普通に一緒に住む家を作るのはどう? 新婚とか言わなければリスナーも怒らないと思うよ」
共同で物を作るのは楽しみ方の一つだ。俺もやってみたいと思っていたので、変な設定がないのであれば楽しめそうだ。
「うん。いいよ!」
「やったー! それじゃ決定だね」
この後、配信日だけを決めるとコラボで話すことはなくなった。
すぐに通話を切ろうと思ったんだけど、メーベルさんが関係ない話をしてきて深夜まで付き合うことになってしまう。
VTuberって仕事柄、おしゃべりが好きな人多いよね。
食事やお風呂、歯磨きはすべて終わっていて椅子に座って待機している。デスクの中心にはスマホを置いていて、相手から通話がくるのを待っている状態だ。
ディスプレイの時計が22:01になった。通話が来る気配はない。
忘れているとは思えないから用事があって遅れているのかも。チャットで連絡してみようか。
ブルル。
手を伸ばしかけたらスマホが震えた。画面にはメーベル・クロツェルの名がある。ピンク髪のアイコンも表示されているので本人からなのは間違いない。どうやら少しだけ遅れただけで約束は覚えていてくれたようだ。
ほっと安心しながら無線のイヤホンマイクをつけると、スマホを持って通話ボタンを押す。
「ごめん! ちょっと遅れちゃった!」
「気にしてないよ。時間を取ってくれてありがとう」
「うぁぁぁぁっっ! ナマ聖夜くんだ!」
最初が謝罪だったので真面目な人だなって思っていたんだけど、次の反応で急降下してしまった。じゅるりと涎を流している姿がイメージできてしまうほど、なんというか生々しくてすごい声だった。
配信じゃ絶対に出てこないだろう裏の姿である。
個別の通話すると、こんなことも経験できるんだと新しい発見があった。
「メーベルさんと話せて嬉しいよ」
「私も! 聖夜くんと通話したってV仲間に自慢するんだから!」
「それって自慢になるの? 俺のことなんて知らないんじゃないかな」
自他共に認める底辺VTuberだ。自慢したところで伝わらないだろう。
恥をかくだけだと思うんだけど。
「そんなことないよ! 実は聖夜くんって一部女V界隈で人気なんだよっ!」
「本当ですか? 誰にも言われたことない……」
「リスナーが嫉妬するからねぇ。サブ垢も危険だから、みんなコメントはしないけど熱心なファンも多いんだよ。ま、一部例外はいるけどね」
同接数のわりにコメントする人が決まっている理由が分かった。
正体はバレたくないけど声は聞きたい人……女性VTuberがいたんだ。
「そんなにいるんですか? 俺の声が好きと言ってくれる女性VTuber」
「私が知っている限りで五人はいるよ。でもみんな、ユニコーンリスナーが多いからコラボは厳しいかなぁ。私だけだよ。できそうなの」
もう少し話を詳しく聞いてみると、メーベルさんたちもリスナーには苦労しているみたいだ。人気ではないからこそ一人一人丁寧に接してしまい、ガチ恋されてしまうことも珍しくないとのこと。
男性VTuberの投稿に、いいね! をしただけでお気持ちDMを送る人もいるらしく、異性への接触は厳禁となっているらしい。
ファンのくせに彼女たちの活動を制限してどうするんだよ。
「好きなことをするためにVTuberをやっているのに、自分のリスナーに縛られたら意味ないよね」
スマホ越しから乾いた笑いが聞こえた。きっとメーベルさんも苦労してきたんだろう。
「その点、私は異性とコラボしまくってユニコーンを殺しているだから! 安心していいよ! 何ならオフコラボだって行けるんだから」
オフコラボは直接会って配信することを言う。
個人で活動している俺たちにとって、それはどちらかの家に行くことにもつながる。
恋人が欲しい! なんて思っている人たちにとっては魅力的なお誘いなのかもしれないけど、全く嬉しくはない。むしろ迷惑だなと感じてしまった。
「俺はオンラインでのコラボがいいな」
「やっぱそーなるかぁ。初めてだし、そうだよね。でも何回かコラボしたらオフも検討してね」
「わかりました」
「やったーーっ!!」
仲良くなれば直接会うぐらいはいいかと思って返事をした。
俺は男だし、細かいことは気にしなくても大丈夫だろう。
「それでコラボの内容どうする? 流行のゲームがいい?」
「クラフト系のゲームをしながら雑談はどうかな」
メーベルさんがコラボ配信するときによくやるゲームだ。まったりと素材を集めながらお互いの事を知っていくスタイルで、俺たちにはぴったりな配信だと思っていた。
「私のアーカイブを見て考えてくれたの?」
「初めてのコラボ相手だからね。勉強させてもらったよ」
「嬉し~~~!」
飛び跳ねるような声、というのを初めて聞いた。トーンが一つか二つ上がっていて本当に嬉しそうにしているから、なんだか俺も同じような気になるから不思議だ。
苦労してようやく見つけた相手は少し変わっているけど、いい人そうでよかった。
「だったらさ。クラフトゲームするときは新婚設定で家を作るのはどうかな?」
「いくらユニコーンを殺したといっても流石にやり過ぎだと思うけど……」
「だよね。嬉しくてちょっと変なこと言っちゃった」
経験豊富なだけあって俺の危機感は正確に伝わったようだ。
「それじゃ設定はなくして、普通に一緒に住む家を作るのはどう? 新婚とか言わなければリスナーも怒らないと思うよ」
共同で物を作るのは楽しみ方の一つだ。俺もやってみたいと思っていたので、変な設定がないのであれば楽しめそうだ。
「うん。いいよ!」
「やったー! それじゃ決定だね」
この後、配信日だけを決めるとコラボで話すことはなくなった。
すぐに通話を切ろうと思ったんだけど、メーベルさんが関係ない話をしてきて深夜まで付き合うことになってしまう。
VTuberって仕事柄、おしゃべりが好きな人多いよね。
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