ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナーが推しと付き合うまで

わんた

文字の大きさ
28 / 43

第28話 舞依:狙われた聖夜くん

しおりを挟む
 優希くんの声を聞きながらベッドでウトウトしていると通知が来た。キラキラJDこと笹木先輩だ。

 あの一件からお互いに距離を取って連絡すらしてなかった。用事すらないはずなのに……。

 嫌な予感がしつつ内容を確認する。

 どうやら聖夜くんのコラボ配信が決まったみたい。予定では一週間後。情報提供は助かるけど、もう友達じゃないんだから連絡しないでよねと思いながら読み進める。

 気になるお相手が、すごい問題VTuberだった。

 笹木先輩からの情報によるとメーベル・クロツェルさんは異性とのコラボをすることで有名らしい。これ自体は特に問題だとは思わなかったんだけど、続く文章を読んでスクロールする指が止まってしまう。

「え……うそ……っ。オフで会って配信する……?」

 一瞬にして二人のライブ配信が終わった後、ラブホテルに入るシーンをイメージしてしまった。

 私は声が好きなだけで彼が誰と付き合おうが気にしないと思っていたのに、ドス黒い感情が噴水のように出てきて止まらない。私にこんな負の側面があるなんて知らなかった。

 私は優希くんの声が好きなの?
 それとも人としても好きなの?

 恋人が欲しいなんて思ったことがないからか、自分の感情がわからない。
 
 ただ一つ明確なのはメーベルさんと出会うのを阻止したいという気持ち。

『そんな情報を私に渡して何をしたいんですか?』

 長い入力中のメッセージを見つめながら返事を待つ。

『コラボ阻止しない?』
『それはダメです』

 仕事にしたいかもと思うぐらい真剣に考えているんだから。家族であり重度の優希くんボイスマニアとしては応援するしかない。たとえドス黒い感情が止まらなくなったとしても邪魔をするなんて選択はできなかった。

『聖夜くんがメーベルと寝てもいいの?』
『推しは偶像なんですよね。なんでそんな気にするんですか』

 会えないからこそのVTuber。それが佐々木先輩の考えだというのは、この前の会話で知っている。

 だったら配信を続ける限り誰と付き合い、寝ようが関係ないのではないか。

 なぜ聞いてくるか気になっていた。

『女に汚されてほしくない。男は男同士がいいと思うんだ』

 救いようのない発言だった。

 私だけじゃなく優希くんにも身勝手な妄想を押し付けている。

 もはや家族の敵だ。

 返事をやめようと思ったけど続くメッセージで考えが揺らぐ。

『これはあまり広がってない情報なんだけど、メーベルとオフで会った男性VTuberの一部は引退しているんだよね。写真をばら撒かれたくなかったら活動停止しろってね』
『写真? どいうこと?』
『行為をする前に嫌がっている写真を何枚か撮っているらしく、相手の態度が気に入らなかったら脅しに使うみたい』

 無茶苦茶な話だった。リスクも大きい。

 そんなことして、メーベルさんにとって何の利益があるんだろう。

『なんでそんなことしているの?』
『自分が上じゃないと嫌なんだって』
『それだけの理由で?』
『人間って感情で動く生き物だからね。それだけで十分じゃない?』

 妄想を押し付けてくる笹木先輩が言うと説得力があった。

 彼女もまた他人が理解できない理由、感情で動くタイプだ。共通する点は多いので私より理解度は高いのだろう。

 教えてもらったことが正しいという前提で話を進めても良さそう。

『なんで笹木先輩は知っているんですか?』
『本人から聞いたんだよ』

 誰からなんて質問しなくてわかった。メーベルさんからだろう。

 VTuberと知り合いなんだという驚きはあったけど、事情を詳しく知っている理由はわかった。

『それでもう一回聞くけど、今回のコラボ阻止しない?』
『オフするとは限りませんよ。賢明な聖夜くんなら断るかと思います』
『最初はね。でも二回目、三回目となれば変わってくるよ』

 信頼関係が築けた、もしくはメーベルさんのおかげで数字が伸びたのといった恩を与えることができれば、確かに直接出会う可能性は出てくる。笹木先輩の言っていることをいつもの妄想だと無視するわけにはいかなさそう。

『かもしれませんね。で、方法はあるんですか』
『メーベルの素性を教える……と言いたいところだけど、リスナーでしかない私たちの声は届かないと思う。嫉妬していると勘違いされたら最悪だよね。だからメーベルを尾行してコラボする前に取り押さえるのはどうかな? ついでに聖夜くんの顔も見れるよ』

 最後に餌をぶら下げて賛同を得ようとしているみたいだけど、一緒に住んでいる私には意味がない。それよりも笹木先輩に聖夜くんの正体を知られるわけにはいかないのだ。

『少しでも失敗したら聖夜くんが食べられちゃう。それはダメ』
『過保護だねぇ。どうするの?』
『メーベルさんの悪事をしていたと証拠を集め、聖夜くんに送ればわかってくれるよ』
『さっきも書いたけど私は難しいと思うよ』
『やってみないとわからない。私がなんとかするから証拠だけお願い』
『わかった。とりあえずやってみますか』

 正体を知っているとは言えない代わりに、無防備な優希くんに女の恐ろしさを教えてあげる。

 警戒心が上がれば、何度コラボしてもオフで会おうなんて思わないでしょう。

 そう。これは優希くんのためなんだ。

 嫉妬して他の女と出会うのを邪魔するわけじゃない。

 私の理性と本能がガッチリと握手をした。もう迷いはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...