ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナーが推しと付き合うまで

わんた

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第35話 静かな戦い

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 炎上の件が気になって仕方がないため、舞依さんたちの前でスマホを取り出し、自分でもSNSを確認していく。

 陽葵さんに見せてもらったとおり燃えている。火力はそこそこといった感じだ。

 DMで女性VTuberさんから話を聞いたときから、いつからなるだろうと予感があったので意外性はないけど、知り合いってこともあって心が痛くなる。

「トイレ行ってくるね~」

 立ち上がった陽葵さんは俺の隣を通り抜けて行ってしまった。

 目の前にいる舞依さんは俺を見ている。

「炎上を見ているの?」
「うん。俺も前に動画を見たことがある人だったから気になって」

 コラボ相手なんて言えるわけもなく、苦し紛れの嘘を言った。

「だから心配しているんだね」
「ちょっとだけ」
「そっかぁ。優しさは美徳だと思うけど深追いはダメ。擁護したら優希くんも炎上するよ。ぜーーーーったいに関わっちゃダメだから」

 味方になってあげたいと思っていることを見透かされてしまったように感じる。

 家族になったばっかりだというのに俺のことをよく知っている発言だ。

 根拠や証拠もなく手を出せば火傷するぐらいわかっているし、舞依さんの忠告は正しく、間違いではない。

 普通なら三回目のコラボ配信を中止するぐらいの問題なんだけど、周囲の目を気にしてやりたいことを止めるなんてことはしたくなかった。

 現実は思う通りに行かないからこそ、ネットの世界だけは素の声を出して好きなことをしていたい。

 心の奥底に眠っていた願望が初めて言葉になった。

 ああ、だから俺はメーベルさんを嫌いになれなかったんだろう。

 方向性が違うだけで何者にも縛られず自由に生きたいというスタンスは同じなのだから。

「普通はそうだよね」
「うん。わかってくれた?」
「言っている意味は理解しているよ」
「よかった」

 安心したようで息を吐いてからストローに口をつけた。ちゅーっと中に入っているジュースが吸い上げられていく。

 自然と視線がいってしまうと目があう。

「欲しいの?」
「ううん。大丈夫だよ」

 ストローを咥えたまま聞かれたので断った。

 冷静さを装いながらも心臓の鼓動は早くなっている。

 まさか女性と間接キスする機会が生まれるなんて思わなかった。人生最初で最後のチャンスを振ってしまったように思えるけど、今さら訂正なんてできないし、それどころじゃない。メーベルさんをどうやって――。

「本当に? 私は気にしないよ」
「っ!?」

 ストローから口を離した舞依さんは、こちらに向けてきた。

 からかっているような笑顔だ。これは俺の反応を楽しんでいるぞ!

 毅然とした態度で断るべきなんだけど誘惑には勝てない。一旦、炎上のことは忘れて口をつけようなんて思いながら、舞依さんが持っている紙コップを掴もうとする。

「ただいまーって、何しているの?」

 ビクンと体が動いて素早く手を引っ込めた。

「なんでもないよー」

 言い終わると、紙コップをテーブルに置いて陽葵さんとの会話を再開させた。

 先ほどの様子、つまりは俺がジュースをもらおうとしている姿は戻ってきた陽葵さんも目撃していたはず。トイレのある位置からして見えなかったことはないだろう。

 だというのに二人は何事もなかったかのように、話題は学校や流行の動画などを話している。

 あの光景は俺の願望が見せた夢か幻だったのだろうか。そう思い込もうとしていたら陽葵さんと目が合い、一瞬だけストローの方に視線が動く。

 見ていたよ。

 なんて言われたような気がしてプレッシャーがかかる。彼女なら面白おかしく噂話を学校に広めることなんて簡単にできてしまう。友達である舞依さんを貶めるようなことはしないだろうけど、警戒するにこしたことはない。

 チクチクと刺さるような視線を感じながら、およそ一時間ぐらい耐えているとようやく二人の話題が尽きて、おしゃべりを終えるようだ。

「暗くなってきたし、そろそろ帰らない」
「そうだね」

 俺も同意して席を立つと店を出る。

「それじゃーね」

 陽葵さんが手をちいさく振ってくれたので、俺と舞依さんは一緒に反対側の道を行こうとする。

「ねぇ。舞依と優希くんは一緒に帰るの? 同じ家だったっけ?」

 振り返ると陽葵さんは疑問を浮かべた顔をしていた。

 油断していた!

 家に帰ることばかり気にしていて、一緒に住んでいる事実を隠すの忘れていたのだ。

 頭が真っ白になって言い訳が思い浮かばない。

「もう少し話したいことがあったから、優希くんの自転車があるところまで付いていこうとしただけだよ」

 黙ったままの情けない俺とは違って舞依さんは納得できる説明をした。

 自然体なので嘘を言っているようには見えない。

「ふーん。そうなんだ。私も一緒にいていい?」
「もちろんだよ」

 迷いなく歩いてきた陽葵さんは俺の左型に立ち、舞依さんは逆側にポジションを変える。美少女二人に挟まれてしまった。嬉しいはずなのに本能が危機を感じている。

「近すぎない?」
「私はこれが普通だよ」

 腕を絡めてきた。服の上からでも柔らかい感触が伝わってきて心臓の鼓動が早まり、流れる血の速度が数段上がっていく。またふんわりとした甘い香りも漂ってきて現実じゃないみたいだ。

 汗も浮き出て緊張していると自覚する。

「私もだよ」

 今度は舞依さんが腕を絡めてきた。ピタリと吸い付くようにくっついている。顔を見ると緊張しているのか、口を閉じて耐えてるような表情をしていた。

「男に触る野嫌いじゃなかったっけ?」
「興味ない人に触るのが嫌なだけだよ」
「ってことは優希くんには特別なんだ」
「がっついてこないからね」
「ふ~~ん。まっ、そういうことにしておいてあげる」

 陽葵さんに腕を引っ張られたので俺と舞依さんも足が動いて前に進む。

 駐輪場は歩いて五分ぐらいの場所にある。

 三人が黙っているのには長く、会話するには短い距離を進む。

 こんなときは俺から話を切り出した方が良いんだろうけど、緊張のあまり地声を出してしまいそうで怖い。少しは仲良くなった陽葵さんに「変な声」なんて言われたら、ダメージは大きくしばらく引きずるだろう。

 メーベルさんの炎上も気になるので、リアルでトラブルは起こしたくない。

 気まずい空気を受け入れて沈黙を貫くことにした。
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