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第52話 ご立腹のユミ
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ダンジョンから密猟され、逃げ出したと思われるインセクトイーターは、二匹だけだったようだ。
「なんで来ちゃったの!」
珍しく眉を釣り上げてユミが怒っている。
安全の確認が終わると、クロちゃんに説教を始めたようだ。
これは長くなりそうだ。俺じゃ助けられないので素材の処理をしようかな。
俺はミスラムをナイフにして岩の鎧の剥ぎ取りをしている。肉との間に刃を滑り込ませ、筋を切ってから手で引き離すと、バリッと音がして取れた。
意外と気持ちがいい。
一匹目の処理が終わったのでユミを見ると、クロちゃんの説教は続いているようだった。
「心配なのは分かったけど、約束を破っちゃダメでしょ! クロちゃんが勝手に動いたら、マスターに迷惑をかけてしまうの。それは、理解できるよね?」
山奥にいるから自由にさせているけど、街中でクロちゃんを放し飼いにはできない。
檻に入れて管理しなきゃいけないうえに、問題を起こしたら俺の責任が問われる。損害賠償は当然のこと、最悪の場合は錬金術師の免許だって取り上げられるだろう。
そしてクロちゃんは素材行きだ。
誰もが不幸になる。
ユミはそういった最悪の未来を避けるべく、お説教をしているのだろう。なんて優しい子なんだ。俺の育て方は間違っていなかったと確認した。
クロちゃんは前足を必死に動かして、説明しているようだが許される気配はない。
「私が心配だからこっそりついてきたってのは分かったけど、独断を許す理由にはならないの。反省しないなら悲しいけどマスターに頼んで素材にしてもらう……」
禁断の一言を発すると、クロちゃんは足を伸ばして体を地面に付けた。
まるで五体投地のようだ。
最敬礼しているのと同時に、謝罪をしているつもりなのだろう。
それでもユミは許さず、二度と命令に反するような行動をするなと言い続けている。
いたたまれない姿を見て可哀想になってきた。
「十分に反省しているみたいだし、その辺で許してあげて」
「ですが……」
「別行動するのは初めてだったんだから失敗するのは仕方がない。今回のことでクロちゃんも学んだろうし、次に活かそう」
「マスターがそう言うのでしたら……わかりました」
渋々といった感じだけど、ユミは納得してくれた。
五体投地を続けているクロちゃんを抱きしめる。
「次約束破ったら、もっとすごいお説教になるからね」
返事の代わりにクロちゃんはギュッと、ユミを抱きしめた。
俺からすると捕食される寸前にも見えるけど、愛情表現をしているだけだよね。
じろっと俺を見る8個の目から感情は読み取れない。
言葉が通じない以上、考えなんてわからないのだ。
十分にお互いの愛情を確かめ合ったのだろう。クロちゃんは離れて地面に降りた。
「マスター、剥ぎ取りは終わりましたか?」
「一匹しか終わってないよ」
「残りは私がやりますので、死体はクロちゃんに上げてもいいですか?」
「いいけど……食べるの?」
「はい。ご馳走らしいです」
ペット扱いされているけど、魔物には変わりない。あんな大きい死体もペロッと食べてしまうのか。
「岩の鎧以外は素材にならないから、死体は好きにしていいよ」
「マスター、ありがとうございます!」
許可を出すとユミは剥ぎ取り処理を始めた。俺より手際が良く、数分で終わらせてしまう。
残った死体に向けてクロちゃんはお尻から糸を出し、インセクトイーターの体をグルグルに巻いた。二匹とも白い糸に隠れて姿が見えない。
糸を巧みに使って背中に乗せると、クロちゃんは一人で先に帰ってしまった。
山小屋を警備しに行ったんだろう。
残ったのは剥ぎ取り終わった岩の鎧だ。一つで数十キロありそうで、俺じゃ持てない。
残りはミスラムに乗っけて運ぶことにした。
* * *
昼前には、山小屋に戻ってこられた。
畑の雑草は中途半端に抜けている状態だ。自生していた大根も転がったまま。耕すどころではない。
しかもお腹も減ってきたので、作業を再開する気分にもならなかった。
「マスター、ご飯にします?」
「うん」
「新鮮な大根もあるので、お味噌汁とおにぎりにしますね」
ユミは畑に転がっている大根を拾って、山小屋に行ってしまった。
少し待ち時間ができてしまった。手に入れた素材の下準備でもしようかな。
残った俺は腰に付けたマジックバッグから、片口ハンマーを取り出して先の尖った方を下に向け、岩の鎧を叩く。硬い感触がして軽くヒビが入った。数度叩くとパキンと音が鳴って割れる。うん、良い調子だ。
まだ大きいので何度も叩きつけ、手のひらサイズにまで砕いた。
この状態で金属や革と一緒に錬金術スキルで合成すると、頑丈度が上がるのだ。
数が多いのでカン、カンと乾いた音を響かせながら作業を進めていくと、額から汗が流れて顎を伝って地面に落ちる。
陽差しが強く、帽子をかぶっているのに汗が止まらない。
それでも作業を止めず、腕で拭ってから岩の鎧を叩いた。
またカンと乾いた音が響き渡る。耳を澄ませて聞いていると心地よく思えるから不思議だ。人がいないので集中できる。
「ふんふん~♪」
気分がよくなって歌を口ずさんでいると、ふと、視線を感じた。
手を止めて顔を上げる。数メートル離れた場所で、クロちゃんが俺を見ていた。
反省しているのか、ユミに指定された位置から動こうとしていない。
「さっきは災難だったね」
声をかけると、ぺこりと頭を下げられた。
言葉が通じているようだ。これなら、改めて注意しても大丈夫だろう。
「俺やユミの命令がない限り、人間には危害を加えたらダメだよ」
何度も頭を前後に動かしてくれた。
理解した、と思っていいだろう。
仮に分かってなかったとしても、ここにいるのは身内ばかりだ。
クロちゃんに襲われても返り討ちにできるだろう。最悪、噛まれたとしても、毒が全身に回って死ぬまでに一時間ぐらいは猶予がある。すぐに気づけば、解毒ポーションを飲ませることも可能だ。
ただ寝込みを襲われるとどうしようもないので、戸締まりやドアの鍵は必ずかけるように伝えておこう。
事故は怖いからね。
「なんで来ちゃったの!」
珍しく眉を釣り上げてユミが怒っている。
安全の確認が終わると、クロちゃんに説教を始めたようだ。
これは長くなりそうだ。俺じゃ助けられないので素材の処理をしようかな。
俺はミスラムをナイフにして岩の鎧の剥ぎ取りをしている。肉との間に刃を滑り込ませ、筋を切ってから手で引き離すと、バリッと音がして取れた。
意外と気持ちがいい。
一匹目の処理が終わったのでユミを見ると、クロちゃんの説教は続いているようだった。
「心配なのは分かったけど、約束を破っちゃダメでしょ! クロちゃんが勝手に動いたら、マスターに迷惑をかけてしまうの。それは、理解できるよね?」
山奥にいるから自由にさせているけど、街中でクロちゃんを放し飼いにはできない。
檻に入れて管理しなきゃいけないうえに、問題を起こしたら俺の責任が問われる。損害賠償は当然のこと、最悪の場合は錬金術師の免許だって取り上げられるだろう。
そしてクロちゃんは素材行きだ。
誰もが不幸になる。
ユミはそういった最悪の未来を避けるべく、お説教をしているのだろう。なんて優しい子なんだ。俺の育て方は間違っていなかったと確認した。
クロちゃんは前足を必死に動かして、説明しているようだが許される気配はない。
「私が心配だからこっそりついてきたってのは分かったけど、独断を許す理由にはならないの。反省しないなら悲しいけどマスターに頼んで素材にしてもらう……」
禁断の一言を発すると、クロちゃんは足を伸ばして体を地面に付けた。
まるで五体投地のようだ。
最敬礼しているのと同時に、謝罪をしているつもりなのだろう。
それでもユミは許さず、二度と命令に反するような行動をするなと言い続けている。
いたたまれない姿を見て可哀想になってきた。
「十分に反省しているみたいだし、その辺で許してあげて」
「ですが……」
「別行動するのは初めてだったんだから失敗するのは仕方がない。今回のことでクロちゃんも学んだろうし、次に活かそう」
「マスターがそう言うのでしたら……わかりました」
渋々といった感じだけど、ユミは納得してくれた。
五体投地を続けているクロちゃんを抱きしめる。
「次約束破ったら、もっとすごいお説教になるからね」
返事の代わりにクロちゃんはギュッと、ユミを抱きしめた。
俺からすると捕食される寸前にも見えるけど、愛情表現をしているだけだよね。
じろっと俺を見る8個の目から感情は読み取れない。
言葉が通じない以上、考えなんてわからないのだ。
十分にお互いの愛情を確かめ合ったのだろう。クロちゃんは離れて地面に降りた。
「マスター、剥ぎ取りは終わりましたか?」
「一匹しか終わってないよ」
「残りは私がやりますので、死体はクロちゃんに上げてもいいですか?」
「いいけど……食べるの?」
「はい。ご馳走らしいです」
ペット扱いされているけど、魔物には変わりない。あんな大きい死体もペロッと食べてしまうのか。
「岩の鎧以外は素材にならないから、死体は好きにしていいよ」
「マスター、ありがとうございます!」
許可を出すとユミは剥ぎ取り処理を始めた。俺より手際が良く、数分で終わらせてしまう。
残った死体に向けてクロちゃんはお尻から糸を出し、インセクトイーターの体をグルグルに巻いた。二匹とも白い糸に隠れて姿が見えない。
糸を巧みに使って背中に乗せると、クロちゃんは一人で先に帰ってしまった。
山小屋を警備しに行ったんだろう。
残ったのは剥ぎ取り終わった岩の鎧だ。一つで数十キロありそうで、俺じゃ持てない。
残りはミスラムに乗っけて運ぶことにした。
* * *
昼前には、山小屋に戻ってこられた。
畑の雑草は中途半端に抜けている状態だ。自生していた大根も転がったまま。耕すどころではない。
しかもお腹も減ってきたので、作業を再開する気分にもならなかった。
「マスター、ご飯にします?」
「うん」
「新鮮な大根もあるので、お味噌汁とおにぎりにしますね」
ユミは畑に転がっている大根を拾って、山小屋に行ってしまった。
少し待ち時間ができてしまった。手に入れた素材の下準備でもしようかな。
残った俺は腰に付けたマジックバッグから、片口ハンマーを取り出して先の尖った方を下に向け、岩の鎧を叩く。硬い感触がして軽くヒビが入った。数度叩くとパキンと音が鳴って割れる。うん、良い調子だ。
まだ大きいので何度も叩きつけ、手のひらサイズにまで砕いた。
この状態で金属や革と一緒に錬金術スキルで合成すると、頑丈度が上がるのだ。
数が多いのでカン、カンと乾いた音を響かせながら作業を進めていくと、額から汗が流れて顎を伝って地面に落ちる。
陽差しが強く、帽子をかぶっているのに汗が止まらない。
それでも作業を止めず、腕で拭ってから岩の鎧を叩いた。
またカンと乾いた音が響き渡る。耳を澄ませて聞いていると心地よく思えるから不思議だ。人がいないので集中できる。
「ふんふん~♪」
気分がよくなって歌を口ずさんでいると、ふと、視線を感じた。
手を止めて顔を上げる。数メートル離れた場所で、クロちゃんが俺を見ていた。
反省しているのか、ユミに指定された位置から動こうとしていない。
「さっきは災難だったね」
声をかけると、ぺこりと頭を下げられた。
言葉が通じているようだ。これなら、改めて注意しても大丈夫だろう。
「俺やユミの命令がない限り、人間には危害を加えたらダメだよ」
何度も頭を前後に動かしてくれた。
理解した、と思っていいだろう。
仮に分かってなかったとしても、ここにいるのは身内ばかりだ。
クロちゃんに襲われても返り討ちにできるだろう。最悪、噛まれたとしても、毒が全身に回って死ぬまでに一時間ぐらいは猶予がある。すぐに気づけば、解毒ポーションを飲ませることも可能だ。
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事故は怖いからね。
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