裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
2 / 47

ぼばえ……

しおりを挟む
「俺の家はこっちだ。ついてこい」

 門番の男が歩き出したのでハラディンも続く。

 森に囲まれた村は小さい。すぐに目的地の家が見えてきた。

 木で作られた家は色あせており、建ててから長い年月が経過していることを感じさせる。屋根の一部は修復したような跡があって、木の板が何枚か重ねられていた。

 近づくと壁に隙間があるとわかる。
 この地域は温暖な気候なので寒さで震えるようなことはないが、虫やネズミは簡単に侵入してしまうだろう。

 お世辞にも快適とはいえない家ではあるが、門番の男はドアを開けると自慢げな顔をしながらハラディンを見た。

「ちょっと汚いが中は広いぞ。入ってくれ」

 家へ踏み入ると、ほこり臭い空気が歓迎してくれたが、何日も体を洗っていない自分の方が汚いので気にならない。

 部屋の中心にテーブルと椅子が四脚ほど置かれており、奥には粗末な石造りの台所があった。

 門番の男は刀を壁に立てかけてから、台所にある鉄鍋を持つとテーブルに置く。さらに欠けたお椀と木製のスープも持ってきた。

 ハラディンは鉄鍋を覗く。
 肉と薬草がたっぷりと入っていた。

 あまり美味そうに見えないが、空腹で倒れそうなハラディンにとってはご馳走に感じられた。

「冷めてはいるが腹は膨れる」

 礼を言うのすら忘れて、椅子に座るとスプーンを手に取り鉄鍋から肉を取り出す。

 筋があって固そうではあるが、塩や森で取れた香草が入っているので匂いは良い。さらに食欲を刺激されて口の中に唾液が広がる。

 最初の一口は、しっかりと味わって食べよう。

 そんなことを思いながらハラディンは口を開いた瞬間、ガチャガチャと金属音をさせながら一人の男が家に入ってきた。金属鎧を身につけており腰には片手剣と大ぶりのナイフがぶら下がっている。

「今月の上納分を回収しに来た」

 門番の男性は怯えた様子だが、ハラディンは厄介事には関わりたくないと無視している。

 それが気にいらなかったのか、男はテーブルを蹴って鉄鍋ごとひっくり返した。床にスープがこぼれてしまう。

「てめぇ、どこのもんだ?」

 さらに持っていたスプーンを叩かれてしまうと肉までも床に落ちてしまった。

 有り金を差し出してようやく食事にありつけたのに、すべてを無駄にされてしまったのだ。

 その怒りは理性を瞬時に消し飛ばすほどである。

 今後のことなんて考えられない。

 静かに立ち上がるとハラディンは男を見た。

「数日ぶりの食事だったんだ。それを邪魔しやがったな」

「だ、だから何だって言うんだ? 俺は泣く子も黙るクノハ傭兵団にいるんだぞ!」

 戦場で鍛え上げられた直感が、強者の雰囲気を感じ取った。

 傭兵の男は二歩後ろに下がりながら大ぶりのナイフを抜く。

 謝罪や補償でなく抵抗が選ばれた。

 その事実がハラディンの怒りをさらに高める。

「傭兵ごときが調子になるな」

 ナイフに対抗するべくスプーンを前に出した。

「ぷっ。それで戦うつもりか?」

 食器で戦おうとする姿を見て、傭兵の男は嗤っていた。

 一瞬でもハラディンが強いと思ってしまったことを後悔している。もう怯えはない。戦えば勝てるという根拠のない自信があった。

「俺にケンカを売ったこと、後悔しながら死ね!」

 大ぶりのナイフが突き出された。

 ハラディンは生物の魂から由来する見えない力――霊力でスプーンの強度を高めると上に弾いた。

 あり得ない出来事に傭兵の男は腕を上げたまま、口を開けて驚いている。

「飯の恨みだ。簡単に許されると思うなよ。死んで償え」

 がら空きの胸に白く変色したスプーンを突き刺すと、鉄を簡単に貫いて骨をすり抜け、心臓にまで到達する。

 すぐさまハラディンは後ろに下がると、傭兵の男は口から大量の血を吐き出した。

 床が真っ赤に染まる。

「ぼばえ……」

 恨むような目をしながら腕を伸ばして、傭兵の男が足を一歩前に出した。

 力が抜けてうつ伏せに倒れる。

「殺してしまった……」

 絶望したような声を出したのは、村の門番をしていた男である。

 ガタガタと体を震わせており顔色が悪い。

 これから災厄が訪れることを確信しているような振る舞いだ。

「クノハ傭兵のヤツらが復讐に来る! どうしてくれるんだッ!」

 この村は辺境の地にあるため、国の騎士や冒険者が訪れることはない。税の徴収すら忘れられているほどだ。

 平和な日常が続き自給自足の生活をしていたのだが、数ヶ月前から傭兵団に支配されていた。

 食料を無償で差し出したことで村人の食べられる量が減り、ときおり拠点からやってくる傭兵に暴力を振るわれているが死ぬことはなかった。辛いが生き続けることはできていたのである。

 絶望しないギリギリのラインでだったのだが、ハラディンが傭兵の男を殺したことで危ういバランスは崩れてしまった。

 二度と逆らう気が起きないよう、必ず制裁が来る。

 もしかしたら村は滅びてしまうかもしれない。

 運命はボロボロの服をまとった男にあった。

「飯をくれれば、全員殺してやる」

「相手は数十人もいるんだぞ?」

「俺は数千の魔物に囲まれても生き延びたことがある。その程度なら寝てても勝てるぞ」

 先ほど見せた短い戦闘は、ハラディンの言葉に真実味を持たせるには十分だった。冗談や嘘だと笑い飛ばせない。

 普段は使わない頭を必死に回転させて門番の男はどちらに付くか考えるが、時間をかけることは難しそうだ。

 外から傭兵団にいる男の声が聞こえてきたのだ。

 家に入られてしまえば弁解しても制裁は必死。であれば、目の前にいるみすぼらしいが、確かな実力を持つ男に頼るしか生き残る道はない。

「好きなだけ飯を食わせてやるから、外にいる傭兵もまとめて倒してくれ!」

「約束は守れよ?」

「もちろんだ」

 門番の男は、うなずきながら肯定した。

 ハラディンはフッと笑ってから壁に立てかけられた刀を取ると外へ出る。傭兵との第二ラウンドが始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...