裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
7 / 47

俺に付いてこい

しおりを挟む
 少女は十分経過しても動かない。立ったまま寝てしまったんじゃないかと、ハラディンが心配するほどだ。

 状況が変わるまでじっと待っていると、落ち葉が僅かに揺れた。

 ネズミが顔を出す。小さい体を左右に動かして危険がないと確認してから、巣穴から体を完全に出した。

 エサを求めて走り出そうとするネズミだが、気配を完全に消していた少女に掴まれてしまう。

 ハラディンが一瞬見失ってしまうほどの速さである。

 無力な魔物付きの少女という評価が一変するには充分な光景であった。

 宝物のように両手でネズミをもつとハラディンに駆け寄る。

「とれた」

 何度も騙された経験を持つ少女は、瞳が不安で揺れていた。

 もしハラディンに小動物一匹では足りない、大物を捕まえろと言われてしまえば、体力が落ちている今の体では不可能である。立っているだけでも辛い状態であるため、追加のオーダーが来たら諦めて一人で生き残る道を探すしかない。

「どうしてネズミがいると分かった?」

「なんとなく」

「勘か……」

 失望されたと勘違いした少女から力が抜けた。

 ネズミが逃げ出してしまう。

「ごめんなさい」

 今度こそはと期待したけど、やはり上手くはいかなかった。

 一人で生き抜くには、この世界は厳しすぎる。

 狩りの技術があれば食事は確保できるかもしれないが、安全な町に住めないのであれば生き延びるのは難しい。遠くない未来、魔物に寝込みを襲われて食い殺されるだろう。

 大人にすらなれず人生が終わる。

 その事実が重くのしかかり、少女は目から涙がこぼれ落ちていた。

「お、おい。急に泣いてどうした?」

 一人で傭兵団を全滅させた恐ろしい男が、泣いた姿を見ただけで慌てている。

 ギャップを感じた少女は悲しいのに笑ってしまった。

「なんなんだ……」

 表情がコロコロと変わって理解が追いつかない。

 ハラディンは頭をかきながら呆れてしまう。

「さようなら」

 同行するのを諦めた少女は、くるりと回って背を向ける。

 アピールは失敗したと思い込み、静かに立ち去ろうとしているのだ。

 必死になって食らいつこうとしないのは、過去に何度も酷い扱いをされてきたため諦め癖が付いているからだえある。

 どうせ今回もダメ。

 そういった負の感情が心の中を埋め尽くしていた。

「待て」

 少女の肩に手をおく。肌が冷たい。寒さによって震えているように感じる。

 話す前に体を暖めさせる方が先だ。

 急いで外套を脱いだハラディンは、何も言わず少女にかぶせる。サイズが大きすぎるため膝丈まで隠れ、ワンピースのような見た目になった。

「俺に付いてこい」

 何が起こっているのか分からず、ぼーっとしている少女の手を掴むと歩き出した。

 目的地は虐殺をおこなった家だ。

 中に入ると二階に上がり、誰もいなかった部屋に連れ込んだ。

「体が目的?」

「違うッ!!」

 服を脱ごうとした少女の手を止めた。

「夜の森で長話するわけにも行かないから、安全な場所に移動しただけだ。決して、やましい気持ちがあるわけじゃない。安心しろ」

「わかった」

 少女の手が服から離れるとベッドの上に座った。疲れて立ち続けられないのだ。強い眠気にも襲われていて、目が半開きになる。

「話は明日にする。今は寝るんだ」

「うん」

 限界を迎えた少女は何も考えられず返事すると、気絶するようにして眠った。

* * *

 翌朝、少女が目を覚ますとハラディンの姿はなかった。

 昨日もらった外套を鼻に付けると、他人のにおいがした。魔物付きは人間よりも五感がすぐれていることもあって、健康状態すらわかるほどの情報が手に入る。

 恐ろしくも優しい男は、大病を患ってないとわかり安堵した。

「どこにいる?」

 目を閉じて頭部についた犬耳に手を当てて音を拾う。

 下から足音が聞こえた。数は一つ。空気の振動具合からハラディンと同等の体格だとわかった。

 自分を捕まえた傭兵である可能性も考えて、少女は足音を立てずに一階へ向かう。

 静かに階段を降りていると、肉の焼ける匂いがしてきた。とたんに空腹を思い出す。少女の腹から小さな音が鳴った。

 鼻をヒクヒクと動かして場所を特定すると、階段を飛び降りて殺戮現場だった宴会場に入る。

 床に血の跡は残っているが、死体は綺麗になくなっていた。刀によって壊れかけたテーブルは一応使えるようになっていて、肉や葉野菜の入った皿が二つある。カゴにはパンがいくつも入っていた。

「起きたのか?」

 部屋に入ってきた少女に気づき、ハラディンが聞いた。

「いっぱい寝た」

「よかったな。腹減っただろ。倉庫にあった食料を調理したから一緒に食べるぞ」

「……いいの?」

 少女にとって食事とは警戒が薄れて隙を見せてしまう危険な行為である。隠れて食べるのが当たり前であり、他人と共にするとは憧れて夢見たこともあるが自分には関係がないと諦めていた。

 だからこそ、まさかハラディンから提案されるトは思ってもみなかったので、頭が真っ白になって動きが止まってしまった。

「嫌って感じではなさそうだが……何を考えているか分からない女だな」

 小さくため息を吐くと、少女の手を取ってテーブルの前にまで移動させると椅子に座らせる。それでも動く気配がなかったので、カゴにあるパンを小さくちぎって口にねじ込んだ。

「うぅん? おいひい」

 飲み込みながら少女が笑った。

 邪な気持ちが一切ない純粋な感情を向けられ、ハラディンは自然とつられて笑顔を作ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...