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ない。それがすべて
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動かないハラディンを見た少女は、カゴからパンを取ると口にねじ込んだ。
食べさせてくれるのを待っていると、勘違いしての行動である。
「美味しい?」
悪気もなくやられたのであれば文句なんて言えない。
ハラディンは力なく笑うと椅子に座る。
「あとは自分たちで食べるぞ」
フォークを持つとサラダに突き刺して食べる。塩を振りかけただけなので質素な味ではあるが、そこら辺に生えている雑草を茹でて食べるよりかはマシだ。人間らしい文化的な食事と言えるだろう。
食うに困る生活を続けているハラディンにとってはご馳走のように感じられた。
「美味しい」
少女も人目を気にして生きてきたため、まともな食事をしたことがない。
自然と涙が流れてしまうほどの感動を覚えていた。
「…………」
そんな少女をハラディンは黙ってみている。
自然と手助けしてあげたいと思ってしまった。少しだけ深く関わりすぎてしまったのだ。今後どうするべきなのか手を止めて悩んでいる。
そんな心情に気づかない少女は空腹を満たすために、パンや肉まで腹に収めていく。口にいっぱに入れているため頬は膨らんでいてリスのような見た目だ。
故郷で魔物と戦争をしていた時、同じ部隊にいた少年も同じような食べ方をしていたと思い出し、ハラディンはふと懐かしさと親しみを感じて我に返る。
「君は何をしたい?」
「んんぅっ」
急いで答えようとした少女は、口の中に入った食べ物を喉に詰まらせてしまった。
胸を叩きながらコップを持つと一気に流し込む。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
咳き込んでしまったので、ハラディンは席から立つと背中をさする。
実の両親にすら汚らしいと言われ遠ざけられていた少女にとって、価値観が崩壊するほどの感動を覚える。
この人とずっと一緒にいたい。
そう思うには十分な出来事であった
「大丈夫か?」
「はい」
魔物の血が混ざったことで人間よりも鋭くなった直感が、この人なら信じてもいいと教えてくれる。我慢することはない。
少女は本当の願いを伝えようと決心していた。
「安心して住める場所で生きたい」
「他には?」
「ない。それがすべて」
推定で十歳ちょっとの少女が求めるものではなかった。
人によっては当然のようにもっているものを求めているのだ。
返事に困ったハラディンは窓から外を見る。
この森には危険な動物や魔物が潜んでいる。安全とは言えないだろう。だからといって人間が住む村や町に行っても、魔物付きは迫害されるだけ。殺しても罪に問われることさえないのだから、森よりも危険な場所となる。
安心して暮らせる場所なんて存在しないのだ。
少女の願いは叶わない。
冷酷な事実を伝えなければいけないため、ハラディンはため息を吐く。
ふと、外に投げ捨てた死体が目に入った。
二階で戦わされていた魔物付きだ。年齢は三十近い。平均五歳で死ぬという魔物付きにしては、非常に珍しい大人だ。ここまで成長できたこと自体が奇跡とも言えるだろう。
一人なら運が良かったで終わらせることもできるが、二人もいたら話は変わる。
大人になるまで成長できる環境があった可能性があるのだ。
窓から視線を離して振り返ったハラディンは少女を見た。
「大人の魔物付きがどこからきたか知ってるか?」
「遠くから」
「それ以外のことは?」
「知らない」
大人の魔物付きがどこに住んでいたのか。それが気になる。ハラディンは窓を開けると外に飛び出し、死体を漁る。
持ち物なんてほとんどないが、靴の中から一枚の小さい羊皮紙が出てきた。
道や川が描かれている。地図だ。山の麓には村のような絵が描かれていて丸印がつけられていた。
地域は特定できないが、山頂にドラゴンが描かれているのでヒントにはなりそうである。
「成人した魔物付きの男、地図、村……」
それぞれの点を繋げてハラディンは仮説を思い浮かぶ。
「まさか、魔物付きだけが住む土地があるのか?」
もし本当に存在するのであれば、少女が望んでいる安心して住める場所だ。
先ほどまで不可能だと思っていたが、僅かではあるものの可能性が見えてきたのである。
「何があった?」
外に出てきた少女がハラディンの背後から声をかけた。
「可能性は低いが、安心して住める地が存在するかもしれない」
「本当?」
「わからん。そんな場所はない可能性の方が高い。しかし、希望はある」
振り返り少女を見た。
「どうする?」
「探す。協力してくれる?」
少女は即答だったが、ハラディンは黙ってしまった。
狩りの技術があれば移動しながら食料は確保できるかもしれない。少なくとも一人でいるよりかはマシだ。戦闘では足手まといになることを差し引いても同行してもらう価値はある。
だが、魔物付きの住む村が見つかるとは限らない。結局見つからず、死ぬまでずっと連れて歩くかもしれないのだ。
魔物付きを未来永劫守り続ける覚悟が必要となるため決心がつかない。
即答は出来なかった。
「一人で探す」
答えがないことで拒否されたと思った少女は一歩後ろに下がる。
悲しむことはなく、精一杯の笑みを浮かべて口を開いた。
「ありがとう。嬉しかった」
出てきたのは感謝の言葉だ。
戦う力を持たない彼女は、数日生き残れれば良い方である。ハラディンと別れれば間違いなく死ぬ。それがわかっていて言ったのだ。
ちょっとだけの希望と多大なる絶望を抱えた少女は、背を向けて歩き出す。
その姿が別れた戦友に似ていて、ハラディンは助けてあげたいと思ってしまった。
大切なのは助けを拒否しないことで、自信の有無なんて関係ない。
ドラゴン族と戦い故郷を滅ぼされたが、死ぬことが許されなかったハラディンは、戦友の代わりに少女を助けると決める。
「待て。早まるな」
少女は呼び止めてくれたことに僅かな期待感を持つ。
静かに振り返った。
「狩りは得意だというのはわかった。野草の知識はあるか?」
「うん。全部食べて試した」
「俺の命令は守れるか?」
「死ねと言わない限り」
「貧乏で過酷な旅でも良いのか?」
「それは今と変わらない」
ふっとハラディンは笑った。
確かに今よりも悪い状況にはならないと思ったからである。
「俺と一緒に魔物付きが住む村を探すか?」
「うん!」
出会ってから初めて少女は本心から喜んだ。
無邪気で純粋なものであり、ハラディンは自分の決断が間違っていなかったと感じる。
「良いだろう。お前の依頼、このハラディンが受けた」
「私はメーデゥ。最後まで宜しく」
食べさせてくれるのを待っていると、勘違いしての行動である。
「美味しい?」
悪気もなくやられたのであれば文句なんて言えない。
ハラディンは力なく笑うと椅子に座る。
「あとは自分たちで食べるぞ」
フォークを持つとサラダに突き刺して食べる。塩を振りかけただけなので質素な味ではあるが、そこら辺に生えている雑草を茹でて食べるよりかはマシだ。人間らしい文化的な食事と言えるだろう。
食うに困る生活を続けているハラディンにとってはご馳走のように感じられた。
「美味しい」
少女も人目を気にして生きてきたため、まともな食事をしたことがない。
自然と涙が流れてしまうほどの感動を覚えていた。
「…………」
そんな少女をハラディンは黙ってみている。
自然と手助けしてあげたいと思ってしまった。少しだけ深く関わりすぎてしまったのだ。今後どうするべきなのか手を止めて悩んでいる。
そんな心情に気づかない少女は空腹を満たすために、パンや肉まで腹に収めていく。口にいっぱに入れているため頬は膨らんでいてリスのような見た目だ。
故郷で魔物と戦争をしていた時、同じ部隊にいた少年も同じような食べ方をしていたと思い出し、ハラディンはふと懐かしさと親しみを感じて我に返る。
「君は何をしたい?」
「んんぅっ」
急いで答えようとした少女は、口の中に入った食べ物を喉に詰まらせてしまった。
胸を叩きながらコップを持つと一気に流し込む。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
咳き込んでしまったので、ハラディンは席から立つと背中をさする。
実の両親にすら汚らしいと言われ遠ざけられていた少女にとって、価値観が崩壊するほどの感動を覚える。
この人とずっと一緒にいたい。
そう思うには十分な出来事であった
「大丈夫か?」
「はい」
魔物の血が混ざったことで人間よりも鋭くなった直感が、この人なら信じてもいいと教えてくれる。我慢することはない。
少女は本当の願いを伝えようと決心していた。
「安心して住める場所で生きたい」
「他には?」
「ない。それがすべて」
推定で十歳ちょっとの少女が求めるものではなかった。
人によっては当然のようにもっているものを求めているのだ。
返事に困ったハラディンは窓から外を見る。
この森には危険な動物や魔物が潜んでいる。安全とは言えないだろう。だからといって人間が住む村や町に行っても、魔物付きは迫害されるだけ。殺しても罪に問われることさえないのだから、森よりも危険な場所となる。
安心して暮らせる場所なんて存在しないのだ。
少女の願いは叶わない。
冷酷な事実を伝えなければいけないため、ハラディンはため息を吐く。
ふと、外に投げ捨てた死体が目に入った。
二階で戦わされていた魔物付きだ。年齢は三十近い。平均五歳で死ぬという魔物付きにしては、非常に珍しい大人だ。ここまで成長できたこと自体が奇跡とも言えるだろう。
一人なら運が良かったで終わらせることもできるが、二人もいたら話は変わる。
大人になるまで成長できる環境があった可能性があるのだ。
窓から視線を離して振り返ったハラディンは少女を見た。
「大人の魔物付きがどこからきたか知ってるか?」
「遠くから」
「それ以外のことは?」
「知らない」
大人の魔物付きがどこに住んでいたのか。それが気になる。ハラディンは窓を開けると外に飛び出し、死体を漁る。
持ち物なんてほとんどないが、靴の中から一枚の小さい羊皮紙が出てきた。
道や川が描かれている。地図だ。山の麓には村のような絵が描かれていて丸印がつけられていた。
地域は特定できないが、山頂にドラゴンが描かれているのでヒントにはなりそうである。
「成人した魔物付きの男、地図、村……」
それぞれの点を繋げてハラディンは仮説を思い浮かぶ。
「まさか、魔物付きだけが住む土地があるのか?」
もし本当に存在するのであれば、少女が望んでいる安心して住める場所だ。
先ほどまで不可能だと思っていたが、僅かではあるものの可能性が見えてきたのである。
「何があった?」
外に出てきた少女がハラディンの背後から声をかけた。
「可能性は低いが、安心して住める地が存在するかもしれない」
「本当?」
「わからん。そんな場所はない可能性の方が高い。しかし、希望はある」
振り返り少女を見た。
「どうする?」
「探す。協力してくれる?」
少女は即答だったが、ハラディンは黙ってしまった。
狩りの技術があれば移動しながら食料は確保できるかもしれない。少なくとも一人でいるよりかはマシだ。戦闘では足手まといになることを差し引いても同行してもらう価値はある。
だが、魔物付きの住む村が見つかるとは限らない。結局見つからず、死ぬまでずっと連れて歩くかもしれないのだ。
魔物付きを未来永劫守り続ける覚悟が必要となるため決心がつかない。
即答は出来なかった。
「一人で探す」
答えがないことで拒否されたと思った少女は一歩後ろに下がる。
悲しむことはなく、精一杯の笑みを浮かべて口を開いた。
「ありがとう。嬉しかった」
出てきたのは感謝の言葉だ。
戦う力を持たない彼女は、数日生き残れれば良い方である。ハラディンと別れれば間違いなく死ぬ。それがわかっていて言ったのだ。
ちょっとだけの希望と多大なる絶望を抱えた少女は、背を向けて歩き出す。
その姿が別れた戦友に似ていて、ハラディンは助けてあげたいと思ってしまった。
大切なのは助けを拒否しないことで、自信の有無なんて関係ない。
ドラゴン族と戦い故郷を滅ぼされたが、死ぬことが許されなかったハラディンは、戦友の代わりに少女を助けると決める。
「待て。早まるな」
少女は呼び止めてくれたことに僅かな期待感を持つ。
静かに振り返った。
「狩りは得意だというのはわかった。野草の知識はあるか?」
「うん。全部食べて試した」
「俺の命令は守れるか?」
「死ねと言わない限り」
「貧乏で過酷な旅でも良いのか?」
「それは今と変わらない」
ふっとハラディンは笑った。
確かに今よりも悪い状況にはならないと思ったからである。
「俺と一緒に魔物付きが住む村を探すか?」
「うん!」
出会ってから初めて少女は本心から喜んだ。
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