裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

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調子に乗ったらダメってこと?

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 初手の攻撃は蹴りだ。栄養不足により細くなったメーデゥの足が股間を狙っている。

 半身になって避けたハラディンは軸足を払い、転倒させる。そのまま覆い被さろうとしたが、横に転がって回避されてしまった。

「ハラディンはどこ? 回答しだいでは許さない」

 眉はつり上がり、歯をむき出しにして威嚇している。

 尻尾の毛は逆立っていて激怒していた。

「俺がそのハラディンだ!」

「嘘。そんな綺麗な顔をしてない」

 興奮していて冷静さを欠いたメーデゥは簡単に信じない。

 言葉だけで誤解を解くのは難しそうだ。

 ヒゲを剃って髪を短くしただけで別人扱いされるとは思わなかった。ハラディンは困ってしまう。

 持ち物を見せても奪い取ったと言われてしまえば終わりである。証明のしようがない。声でわかって欲しいところではあるが、怒りと恐怖による思考の鈍化によってハラディンだと気づけない。もっとインパクトの大きい証明方法が求められている。

「ではこれでどうだ?」

 刀を抜くと真っ白な霊力をまとわせた。

「言葉は嘘をつくが、魂の波動と色は真実しか語らない。これで俺だと信じてくれ」

 一度、体内にまで入ってきた霊力だ。見間違えるはずがない。メーデゥは本当にハラディンだと気づいて警戒を解いた。

 首をかしげながら近づくと顔をペシペシと軽く叩き、さらには匂いを嗅いで入念な確認をする。

「本当にハラディンだ」

「わかってくれたか」

 ようやく落ち着いた。

 これでようやく話ができる。床に置いている背負い袋を持ち上げた。

「ここには二人分の食料や野営の道具が入っている。旅に出るぞ」

「向かう先は?」

「南だ」

 成人した魔物付きの着ていた服は、南部地方特有の生地を使っていた。またドラゴン族も南部に多く生息しているため、行き先を南と決めたのだ。

 本当に魔物付きが安心して住める村があるかはわからないが、あてもなく大陸中を歩き回るよりかはマシだろう。

「わかった」

 ざっくりした方針に文句を言うことなくメーデゥは背負い袋を持とうとしたが、ハラディンに拒否されてしまった。

「これは俺が持つ。お前はこれだ」

 片手剣を投げ渡された。少女にとっては大きい。筋力は問題ないとしても両手で振るわないとバランスが悪くなってしまうサイズだ。

 明らかに見た目と不釣り合いなのだが、メーデゥは嬉しそうにしながら刀身を頬ずりしていた。

「傭兵団から奪い取った中古品だが、気にいったか?」

「うん。これで敵を殺せる」

 霊力が手に入ったことで弱者ではなくなった。

 理不尽が襲いかかってくるのであれば返り討ちにできる。そのための力の象徴が渡された武器であるため、メーデゥは愛情をたっぷりと込めて抱きしめていた。

「霊力を扱えるようになったばかりの新人は力を過信して死にやすい。気をつけろよ」

「調子に乗ったらダメってこと?」

「ああ。その理解であっている。生き残りたいのであれば冷静に相手の強さを見極めろ」

「がんばるね」

 心配されて嬉しかったのか、メーデゥは微笑んだ。

 一瞬だけ見蕩れてしまったが、あまり他人に踏み込んではいけないと意識を切り替える。

「せいぜい長生きするんだな」

 あえて冷たい言葉を放つとハラディンは荷物を身につけて外へ出る。

 周囲に村人の気配はない。

 この場から去れば、報酬を払わなくて済むと喜ばれて、一年もすれば命懸けで戦った男がいたことをすら忘れられるだろう。

 誰の記憶にも残らないことに寂しさは感じない。お互い様だからだ。

 しばらくすれば、ハラディンも過去に出会った人間や村は忘れてしまう。

 何事にも執着せず独りで放浪することがハラディンの生き方であったのだが、横にいる少女の存在が彼を変えつつあった。

「剣は重くないか?」

「うん。鍛えているから問題ない」

 武器を背負って歩いているが、メーデゥの足取りは軽い。

 何もできず変態に売られて死ぬだけだった未来に希望が見えてきたのだから当然だろう。

「それより霊力の使いかたを教えて?」

「良いだろう。武器にまとわせる方法は歩きながら教えてやるから、平行して筋力をつけて剣術の基礎も学ぶんだぞ」

「霊力以外も必要?」

「もちろんだ。霊力だけじゃ勝てない相手も大勢いる。地味で退屈だが他のこともやってもらわなければ困るんだ。嫌ならここでお別れだ。どうする?」

 ハラディンは立ち止まって答えを待つ。

 答えはどっちでも良かった。離れていくのであれば一人旅が再開されるだけで何も変わらない。むしろ身軽になれて良いと思える。

 しかしそのような未来が選ばれることはなかった。

「従うから見捨てないで」

 少女の小さな手で服を掴んだ。もう一人で生きていくなんて嫌だという気持ちが伝わってくる。

「指示に従うなら約束は守る」

「ありがとう」

 ほっとした顔をするとメーデゥは離れて歩き出した。一方的に与えてばかりでは捨てられてしまうかもしれないという恐怖心もあり、移動がてら獲物を探し始めたのだ。

 役に立つことを証明し続けようとする少女と、すべてを奪われた男の旅は始まったばかりである。
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