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あれが魔物……っ!!
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「見捨てるべきだと思うぞ」
魔物付きに助けられたとわかれば、お礼どころか殺しに来る可能性すらある。無視して先に進むのが最善であるのは間違いない。そんなことはメーデゥですらわかっているのだが、どうしても無視できない。首を横に振る。
「どうして助けることにこだわるんだ?」
「私は本当の化け物になりたくない」
物心ついた頃から周囲に虐待されてきた。いつか体だけではなく心までも魔物になってしまうのではないか。そういった恐怖心をメーデゥはずっと抱いていた。
魔物になった悪夢を何度も見てしまうほどである。
だからこそ、正しい行いをしたいと思ってしまうのだ。
獲物だとしても子供を殺そうとしたら手は止まるし、むやみに人を陥れたいとは思わない。他人を裏切ることもできず、ましては死にそうな人を見捨てるなんて無理だ。
もしそんなことをしたら、悪夢に出てきた魔物になってしまうと恐怖に似た思い込みをしていた。
「……わかったよ。助けよう」
意見を変える気がなさそうなメーデゥを見て、損得は関係ないと思い直して背負い袋を地面に置いた。
「これも良い訓練になるだろう。先に行って戦ってこい。ヤバそうだったらサポートしてやる」
「うん。任せて」
犬耳を動かして音がする方に向かう。
草むらをかき分け、数十メートル進むと開けた場所に出た。
二足歩行する狼――ワーウルフが一体いる。手には血で濡れた剣があり、地面には護衛らしき男が一人倒れている。全身は柔軟性のある灰色の毛で覆われていて攻撃が通りにくい。素人が剣を振っただけでは傷をつけられないだろう。
「助けが来たのか!?」
声を出したのはワーウルフに追い詰められている男だ。革鎧を身につけており手にはバトルアックスがある。メーデゥは生き残りの護衛だと判断した。
彼の背後には怯えている太った中年男性がいる。
追い詰められていることもあって、二人ともメーデゥが魔物付きだとは気づいていない。
「ガルルルッッッッ」
新しい敵に警戒したワーウルフがうなり声を上げた。
口を広げると、威嚇するように尖った歯が見せつける。
「あれが魔物……っ!!」
実物を初めて見たメーデゥは、恨みのこもった目をした。
魔物の血を経由して魂の一部が混じってしまったからこそ、見た目が変わってしまい人間として扱われてこなかったのだ。
辛い人生を歩むことになった原因が目の前にいる。絶対に許せない。
殺意が高まり、剣を両手で持ちながら叫ぶ。
「私が魔物を根絶させるっ!!」
ワーウルフは標的をメーデゥに変えた。
その隙に襲われていた二人の男は離れて隠れる。
「グァァァァアアアッッ!!」
雄叫びを上げながら血がべったりと付いた剣を振り回す。
霊力によって基礎能力が向上したメーデゥは動きをしっかりと見ながら回避し、両手持ちした剣で反撃するが、体毛によって刃が刺さらず受け流されてしまい、薄く斬るだけで終わった。
技量は完全にメーデゥの方が上だ。ワーウルフの動きは単調なので読みやすい。
だが、引き分けてしまった。
思っていたのとは違う結果になり、思考が僅かに止まる。
その隙を狙ったワーウルフの左腕が伸びてきた。長く鋭い爪が付いていて、当たれば少女の柔らかい体は容易に傷ついてしまうだろう。
反射的に腕を動かし剣で爪を弾くと、メーデゥは数回バックステップして距離を取る。
命のやりとりをしているのに一瞬でも気を抜いてしまったことを後悔しながらも、同じ失敗はしないと心に誓う。
離れたことによりワーウルフは様子を見ることにしたようだ。
今のメーデゥでは体毛の突破は難しい。敵の全身を見ながら弱点を探す。
足から体、頭と視線は動き……。
(狙いは決めた!)
メーデゥが走り出した。ワーウルフが振り下ろしてきた剣を横に小さく飛んで回避すると突きを放つ。ワーウルフの片目に刺さった。すぐ引き抜くと後ろに下がる。
痛みによって暴れまわっているので追撃はしない。
「グアガガアアアアア!!」
手で潰された目を押さえながらワーウルフが走ると、途中で跳躍する。口を大きく開いて噛みつこうとしているが、攻撃を見切られている相手に当たるはずがない。誰もいない場所に着地をするだけに終わる。
片目になって死角が増えてしまったため、メーデゥ姿を見失ってしまう。
探すために振り返ると、目の前に切っ先が迫ってくる。突然のことで動けず、残っていた目も潰されてしまった。
何も見えず、また痛みによってワーウルフは動けない。
ゆっくりと狙いを定めながら力を溜めたメーデゥは、半開きになっている口に剣をねじ込む。首を突き抜けた。
悲鳴すら上げられず、ワーウルフは息絶えて地面に倒れる。
「私だけで勝てた……っ!」
一人で魔物を倒せたことで、ようやく強くなった実感が湧いてきた。
理不尽と立ち向かえる力が手に入ったと、乏しい表情からでも伝わってくるほどの感動している。
ワーウルフに襲われていた二人の男は、立ったまま動かないメーデゥから離れる。
魔物付きだわかって、今のうちに逃げ出そうとしているのだ。
「どこに行くつもりだ?」
声をかけられて二人の肩はビクンとはねる。
後ろを向くと、刀を抜いたハラディンが立っていた。
目は鋭く殺気が放たれており二人の男は気圧されてしまう。
「まさか、礼をせずに去るつもりじゃないよな?」
「もちろんです! ちょっと用を足しにいこうかと……」
太っている中年男は手をもみながら言い訳をした。
ハラディンは僅かに苛立ちを感じ、問い詰める。
「それは俺たちと話すことより優先されることか?」
「とんでもございません! 助けていただいたお礼もしたいので、あちらで話し合いましょう!」
太っている中年男が指指した場所には、ロバと大量の荷物があった。
冒険者の集まりだと思っていたが、実は違いそうだ。ハラディンの警戒度はさらに高まっていく。
魔物付きに助けられたとわかれば、お礼どころか殺しに来る可能性すらある。無視して先に進むのが最善であるのは間違いない。そんなことはメーデゥですらわかっているのだが、どうしても無視できない。首を横に振る。
「どうして助けることにこだわるんだ?」
「私は本当の化け物になりたくない」
物心ついた頃から周囲に虐待されてきた。いつか体だけではなく心までも魔物になってしまうのではないか。そういった恐怖心をメーデゥはずっと抱いていた。
魔物になった悪夢を何度も見てしまうほどである。
だからこそ、正しい行いをしたいと思ってしまうのだ。
獲物だとしても子供を殺そうとしたら手は止まるし、むやみに人を陥れたいとは思わない。他人を裏切ることもできず、ましては死にそうな人を見捨てるなんて無理だ。
もしそんなことをしたら、悪夢に出てきた魔物になってしまうと恐怖に似た思い込みをしていた。
「……わかったよ。助けよう」
意見を変える気がなさそうなメーデゥを見て、損得は関係ないと思い直して背負い袋を地面に置いた。
「これも良い訓練になるだろう。先に行って戦ってこい。ヤバそうだったらサポートしてやる」
「うん。任せて」
犬耳を動かして音がする方に向かう。
草むらをかき分け、数十メートル進むと開けた場所に出た。
二足歩行する狼――ワーウルフが一体いる。手には血で濡れた剣があり、地面には護衛らしき男が一人倒れている。全身は柔軟性のある灰色の毛で覆われていて攻撃が通りにくい。素人が剣を振っただけでは傷をつけられないだろう。
「助けが来たのか!?」
声を出したのはワーウルフに追い詰められている男だ。革鎧を身につけており手にはバトルアックスがある。メーデゥは生き残りの護衛だと判断した。
彼の背後には怯えている太った中年男性がいる。
追い詰められていることもあって、二人ともメーデゥが魔物付きだとは気づいていない。
「ガルルルッッッッ」
新しい敵に警戒したワーウルフがうなり声を上げた。
口を広げると、威嚇するように尖った歯が見せつける。
「あれが魔物……っ!!」
実物を初めて見たメーデゥは、恨みのこもった目をした。
魔物の血を経由して魂の一部が混じってしまったからこそ、見た目が変わってしまい人間として扱われてこなかったのだ。
辛い人生を歩むことになった原因が目の前にいる。絶対に許せない。
殺意が高まり、剣を両手で持ちながら叫ぶ。
「私が魔物を根絶させるっ!!」
ワーウルフは標的をメーデゥに変えた。
その隙に襲われていた二人の男は離れて隠れる。
「グァァァァアアアッッ!!」
雄叫びを上げながら血がべったりと付いた剣を振り回す。
霊力によって基礎能力が向上したメーデゥは動きをしっかりと見ながら回避し、両手持ちした剣で反撃するが、体毛によって刃が刺さらず受け流されてしまい、薄く斬るだけで終わった。
技量は完全にメーデゥの方が上だ。ワーウルフの動きは単調なので読みやすい。
だが、引き分けてしまった。
思っていたのとは違う結果になり、思考が僅かに止まる。
その隙を狙ったワーウルフの左腕が伸びてきた。長く鋭い爪が付いていて、当たれば少女の柔らかい体は容易に傷ついてしまうだろう。
反射的に腕を動かし剣で爪を弾くと、メーデゥは数回バックステップして距離を取る。
命のやりとりをしているのに一瞬でも気を抜いてしまったことを後悔しながらも、同じ失敗はしないと心に誓う。
離れたことによりワーウルフは様子を見ることにしたようだ。
今のメーデゥでは体毛の突破は難しい。敵の全身を見ながら弱点を探す。
足から体、頭と視線は動き……。
(狙いは決めた!)
メーデゥが走り出した。ワーウルフが振り下ろしてきた剣を横に小さく飛んで回避すると突きを放つ。ワーウルフの片目に刺さった。すぐ引き抜くと後ろに下がる。
痛みによって暴れまわっているので追撃はしない。
「グアガガアアアアア!!」
手で潰された目を押さえながらワーウルフが走ると、途中で跳躍する。口を大きく開いて噛みつこうとしているが、攻撃を見切られている相手に当たるはずがない。誰もいない場所に着地をするだけに終わる。
片目になって死角が増えてしまったため、メーデゥ姿を見失ってしまう。
探すために振り返ると、目の前に切っ先が迫ってくる。突然のことで動けず、残っていた目も潰されてしまった。
何も見えず、また痛みによってワーウルフは動けない。
ゆっくりと狙いを定めながら力を溜めたメーデゥは、半開きになっている口に剣をねじ込む。首を突き抜けた。
悲鳴すら上げられず、ワーウルフは息絶えて地面に倒れる。
「私だけで勝てた……っ!」
一人で魔物を倒せたことで、ようやく強くなった実感が湧いてきた。
理不尽と立ち向かえる力が手に入ったと、乏しい表情からでも伝わってくるほどの感動している。
ワーウルフに襲われていた二人の男は、立ったまま動かないメーデゥから離れる。
魔物付きだわかって、今のうちに逃げ出そうとしているのだ。
「どこに行くつもりだ?」
声をかけられて二人の肩はビクンとはねる。
後ろを向くと、刀を抜いたハラディンが立っていた。
目は鋭く殺気が放たれており二人の男は気圧されてしまう。
「まさか、礼をせずに去るつもりじゃないよな?」
「もちろんです! ちょっと用を足しにいこうかと……」
太っている中年男は手をもみながら言い訳をした。
ハラディンは僅かに苛立ちを感じ、問い詰める。
「それは俺たちと話すことより優先されることか?」
「とんでもございません! 助けていただいたお礼もしたいので、あちらで話し合いましょう!」
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