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初めてだけどうれしい
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剣を振るっていると、次第に刀身が霊力に覆われる。才能の一言で片付けて良いだろうかと悩むほど、異例のはやださだ。
(俺ですら数日間はかかったのに、数十分で武器に霊力をまとわせるとは……天才と呼ばれる者のなかでも群を抜いている。戦神に溺愛された神子だと言われても信じてしまいそうだ)
彼が驚いている間にもメーデゥの急成長は止まらない。
刀身が青と黒の斑色になって色が変わった。さらには身につけている革製の鎧やガンドレットまでも霊力に覆われている。
武器だけでなく防具までも体の一部だと認識したのだ。
本人は気づいていないが、霊力の基礎をマスターしてしまったのである。
「もういい。剣をしまえ」
ハラディンがパンと大きく手を叩く。
振り上げている途中の剣がピタリと止まった。
全身の筋肉が悲鳴を上げそうな動きではあるが、メーデゥには余裕がある。表情は変わっていない。うっすらと汗は浮いているが、その程度の変化だ。
「できてた?」
「完璧だ。もう教えることはない」
「よかった」
小さい手を握り喜んでいる姿を見て、目の前にいる才能の塊が少女だというのを思い出す。
これからまだまだ成長するのだ。
伸びしろしかない。
十年、いや数年後ですら、どのぐらいの強さを手に入れているのか。ハラディンは予想すらできずにいる。鍛えているのが恐ろしくなってくるほどだが、彼女のためにも手を抜くわけにはいかない。
修行を次の段階へ進めると決めた。
「後は実践だな。魔物を探してみるか」
「いいの? 戦っても大丈夫?」
比較対象がハラディンしかいないので、高い才能を持っているのにメーデゥの自己評価は低い。何度も彼に褒められてきたが、それは未経験の割には良いというぐらいの認識である。
魔物と戦えるほどの実力があると思ってないため、実践をするという判断に驚いていた。
「そんなことはない。メーデゥの霊力操作は完璧だ。問題ない」
「そうなの?」
「もちろんだ。仮に勝てない相手が出てきてしまったら、俺が戦う。心配しなくていいぞ」
「わかった。がんばる」
「それでいい」
素直な態度だったので、ハラディンは思わず頭を撫でてしまった。
怯えるか、もしくは嫌がるかと懸念したが、予想とは反して気持ちよさそう目を閉じている。
「嫌じゃないか?」
「初めて。うれしい」
頭から離れてしまわないようにと、メーデゥはハラディンの手首を掴んだ。
甘えられている。
今後も長く続く関係なので悪くはない傾向なのだが、場所が問題である。
魔物の領域に入りかけている危険地帯というのを忘れてはいけない。いつ襲われるかわからないので、目を閉じて警戒を緩めてはいけないのだ。
「このままだと危険なんだが……」
「もう終わりにするの?」
上目づかいで悲しそうな顔をされてしまい、強くは言えなくなってしまった。しかたがなく、ハラディンは殺気がこもった霊力を周囲にばら撒くことで安全を確保し、頭をなで続ける。
「満足するまでこのままでいいぞ」
「ありがとう」
メーデゥは抱きつくと腕を回した。少し震えているのは拒否されるかもしれないという懸念があったからだが、抱きしめ返されたことですべて不安は吹き飛ぶ。
魔物付きでも平等に接してくれるうれしさと安心感、そして日々の訓練と狩りによって溜まった疲労が襲いかかってきて眠ってしまった。
時刻は昼過ぎだ。
今から移動しても大して距離は稼げない。
急ぐ旅ではないため、ハラディン今日はここを寝床にしようと決める。
木の根に座って膝の上にメーデゥの頭をのせた。
鳥の鳴き声が聞こえるだけで、魔物が近づく気配はない。怯えて近づいてこないため平和が続く。
一人でいるときは何もしないと退屈であったが、守るべき存在がいるだけで感じ方が全く変わる。
故郷が滅ぼされ多くの仲間が死んだハラディンの心を癒やすほどの価値ある時間となっていた。
一時間後、メーデゥが目覚めると模擬戦や野営の準備をしてから、遅めの食事を取って寝ることにした。いつもは離れて寝ているのだが、今日の彼女は違う。ハラディンの隣から離れず横になる。
手をつないだままでいるのは、離れたらまた一人になってしまうのではないかという不安があるからだ。
甘えたい盛りの子供であるため、ハラディンは黙って受け入れることにすると、メーデゥの寝顔を見ながら一人で夜番をすることにした。
翌日の朝。
少しだけ距離が縮まったハラディンとメーデゥは、軽食を食べてから出発する。
「敵が単体もしくは二体までなら許可する。俺が居場所を探すから付いてこい」
霊力が濃い方角を探して歩いて行く。
ナイフで邪魔な枝や草を切りながら進んでいるので隠密行動なんて出来ない。正面から戦うことを覚悟して、魔物がいそうなポイントまで近づくと剣戟が聞こえてきた。
「助けて!!」
男の野太い声だ。誰にも会いたくないので森のなかを進んでいたのだが、不幸にも同じ考えをした人間がいたようだ。
見捨てるべきかハラディンが悩んでいるとメーデゥが服を引っ張ってくる。
目が駆けつけたいと訴えかけていた。
(俺ですら数日間はかかったのに、数十分で武器に霊力をまとわせるとは……天才と呼ばれる者のなかでも群を抜いている。戦神に溺愛された神子だと言われても信じてしまいそうだ)
彼が驚いている間にもメーデゥの急成長は止まらない。
刀身が青と黒の斑色になって色が変わった。さらには身につけている革製の鎧やガンドレットまでも霊力に覆われている。
武器だけでなく防具までも体の一部だと認識したのだ。
本人は気づいていないが、霊力の基礎をマスターしてしまったのである。
「もういい。剣をしまえ」
ハラディンがパンと大きく手を叩く。
振り上げている途中の剣がピタリと止まった。
全身の筋肉が悲鳴を上げそうな動きではあるが、メーデゥには余裕がある。表情は変わっていない。うっすらと汗は浮いているが、その程度の変化だ。
「できてた?」
「完璧だ。もう教えることはない」
「よかった」
小さい手を握り喜んでいる姿を見て、目の前にいる才能の塊が少女だというのを思い出す。
これからまだまだ成長するのだ。
伸びしろしかない。
十年、いや数年後ですら、どのぐらいの強さを手に入れているのか。ハラディンは予想すらできずにいる。鍛えているのが恐ろしくなってくるほどだが、彼女のためにも手を抜くわけにはいかない。
修行を次の段階へ進めると決めた。
「後は実践だな。魔物を探してみるか」
「いいの? 戦っても大丈夫?」
比較対象がハラディンしかいないので、高い才能を持っているのにメーデゥの自己評価は低い。何度も彼に褒められてきたが、それは未経験の割には良いというぐらいの認識である。
魔物と戦えるほどの実力があると思ってないため、実践をするという判断に驚いていた。
「そんなことはない。メーデゥの霊力操作は完璧だ。問題ない」
「そうなの?」
「もちろんだ。仮に勝てない相手が出てきてしまったら、俺が戦う。心配しなくていいぞ」
「わかった。がんばる」
「それでいい」
素直な態度だったので、ハラディンは思わず頭を撫でてしまった。
怯えるか、もしくは嫌がるかと懸念したが、予想とは反して気持ちよさそう目を閉じている。
「嫌じゃないか?」
「初めて。うれしい」
頭から離れてしまわないようにと、メーデゥはハラディンの手首を掴んだ。
甘えられている。
今後も長く続く関係なので悪くはない傾向なのだが、場所が問題である。
魔物の領域に入りかけている危険地帯というのを忘れてはいけない。いつ襲われるかわからないので、目を閉じて警戒を緩めてはいけないのだ。
「このままだと危険なんだが……」
「もう終わりにするの?」
上目づかいで悲しそうな顔をされてしまい、強くは言えなくなってしまった。しかたがなく、ハラディンは殺気がこもった霊力を周囲にばら撒くことで安全を確保し、頭をなで続ける。
「満足するまでこのままでいいぞ」
「ありがとう」
メーデゥは抱きつくと腕を回した。少し震えているのは拒否されるかもしれないという懸念があったからだが、抱きしめ返されたことですべて不安は吹き飛ぶ。
魔物付きでも平等に接してくれるうれしさと安心感、そして日々の訓練と狩りによって溜まった疲労が襲いかかってきて眠ってしまった。
時刻は昼過ぎだ。
今から移動しても大して距離は稼げない。
急ぐ旅ではないため、ハラディン今日はここを寝床にしようと決める。
木の根に座って膝の上にメーデゥの頭をのせた。
鳥の鳴き声が聞こえるだけで、魔物が近づく気配はない。怯えて近づいてこないため平和が続く。
一人でいるときは何もしないと退屈であったが、守るべき存在がいるだけで感じ方が全く変わる。
故郷が滅ぼされ多くの仲間が死んだハラディンの心を癒やすほどの価値ある時間となっていた。
一時間後、メーデゥが目覚めると模擬戦や野営の準備をしてから、遅めの食事を取って寝ることにした。いつもは離れて寝ているのだが、今日の彼女は違う。ハラディンの隣から離れず横になる。
手をつないだままでいるのは、離れたらまた一人になってしまうのではないかという不安があるからだ。
甘えたい盛りの子供であるため、ハラディンは黙って受け入れることにすると、メーデゥの寝顔を見ながら一人で夜番をすることにした。
翌日の朝。
少しだけ距離が縮まったハラディンとメーデゥは、軽食を食べてから出発する。
「敵が単体もしくは二体までなら許可する。俺が居場所を探すから付いてこい」
霊力が濃い方角を探して歩いて行く。
ナイフで邪魔な枝や草を切りながら進んでいるので隠密行動なんて出来ない。正面から戦うことを覚悟して、魔物がいそうなポイントまで近づくと剣戟が聞こえてきた。
「助けて!!」
男の野太い声だ。誰にも会いたくないので森のなかを進んでいたのだが、不幸にも同じ考えをした人間がいたようだ。
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