裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

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だがそれに何の意味がある

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「うん。わかった」

 それっきり荷台から声はしなくなった。ハラディンに言われたとおり隠れていることがバレないよう黙ったのである。

 次は彼が約束を守る番だなのだが、コミュニケーションが苦手であるため適当な話が見つからない。

 幼少の頃から幼なじみと剣術の訓練をする日々であったため、誰もが知っている物語すら知らないのだ。困ったあげく、昔の話をすることになってしまう。

「これは友人の話だ」

 興味深そうにしながら御者台で聞き耳を立てているペイジは、友人ではなくハラディンのことだと察したが、余計なことは口に出さない。

 薄笑いを浮かべながらも正体不明の男に関する情報を集めるため、どこかで話に加わろうと企んですらいた。
 
「この大陸から少し離れた島――ダブク王国に生まれ冒険者として活動する男がいた。戦いの才能はあったようで順調に成績を上げていき数年という異例のスピードでトップクラスまで上り詰める。思い返せば、そのときが男にとって人生で最も幸せだった時期だったかもしれんな」

 相づちがないので話しにくい。

 口を止めたら沈黙になる。

 気まずさまで感じ始めたハラディンは、必死に口を動かし続ける。

「冒険者でトップになった一年後、最強の魔物として有名なドラゴンの一族が島に上陸して町や村を次々と滅ぼしてきた」

 蜥蜴が霊力を暴走させ、巨大化したことでドラゴンという魔物が生まれた。種類は数多くあり、人類が確認しただけでも数十はある。どれも強力な魔物であり、例外的に世代を重ねても力がほとんど落ちない特性もある。

 繁殖力はあまりないが不死に近い寿命を持っていることもあって個体数は増加傾向であり、住む場所に困った一族がハラディンの住んでいた島を占拠しようとしたのだ。

「もちろん俺……ではなく友人の住む国も総力を挙げて必死に抵抗したが、あれは普通の人間が勝てる相手じゃない。戦っても負け続けて、残すは王都のみという所まで追い詰められたんだよ」

「俗に言うダブク滅亡戦ですね……あっ」

 わざとらしく会話の途中でペイジが口を挟んだ。ハラディンは睨みつけるが文句はいわない。

 反応してくれる相手がいると話しやすいからである。

「この大陸では、そのように言われている」

「貴族や一部の上位国民を逃がす時間を稼ぐために軍は全滅したらしいと聞いていたんですが、生き残りがいたんですね」

「数人だけだが生き残った……らしい。友人がそう言っていた」

「逃げ延びた貴族が流している話と違いますね。私はドラゴン族を足止めするため軍は全滅したと聞いています」

 些細な違いかもしれないが、商人は事実と異なる話が気になっている。

 こういった場合は裏があるのだ。

 噂に隠れた事実が知りたいとハラディンの言葉を待つ。

「それは嘘だ。貴族たちは逃げ出した後、ドラゴン族が追ってこないように逃げ道を潰して軍を見捨てたんだ」
 
 どちらが正しいのか商人は確かめる術を持っていないが、目の前にドラゴン族と戦って生き残れそうな人間がいるのだ。どうしてもハラディンが嘘を言っているとは思えなかった。

 自国民を見捨てて逃げ出したと考えれば、貴族が嘘を言う理由にもなるし、一定の説得力はある。

「ドラゴン族との戦いはどうでした? 世界でも有数の力を持つ魔物だと聞いていますが、残された軍はドラゴン族に抵抗できたのでしょうか?」
 
「できないから一部を残して全滅し、国は滅亡した」

「結果だけを見ればそうかもしれませんが、個人単位ではどうでしたか? ご友人は生き残ったのであれば、対抗する力がお持ちだったのでは?」

「……まあ、その考えは間違っていない。隊長と呼ばれる地位にいたヤツらはドラゴン相手にも引けを取らない力を持っていた。単体であれば優勢だったと言っても良いだろう」

 商人はようやく聞きたいことを引き出せた。

 友人というのがハラディン自身のことであれば、顔見知りになるだけで価値はある。
 
「だがそれに何の意味がある。大切な者を守れず、戦友の死によって生き残ってしまった男に価値はない。そうだろ?」

「……私には分かりません。それに答えられるのは同じ経験をした方だけかと」

「ペイジの言うとおりだな。すまん。友人の話だというのに興奮しすぎた」

「とんでもないです! 大変勉強になりました」

 ドラゴン族と対等に戦える人間は貴重だ。出会えたとしても王侯貴族や豪商が抱えてしまっているため、違法商人なんかが縁は結べない。不可能である。

 正体不明の男、ハラディンが想像していた以上に大物だとわかり、商人はどうにかして関係を深めるために、町へ入る手伝いだけでなく宿や食料などの手配をして恩をたっぷり売ろうとしていた。

「まあ、そんな感じで貴族に見捨てられた哀れな軍……といっても平民で構成された民兵であるのだが、そいつらは見捨てられ、ドラゴン族に食い殺された。そんなつまらん話だが、退屈しのぎにはなっただろ?」

 黙っているという約束を守るメーデゥからの返事はなかった。

 暇つぶしの話はすぐに終わってしまい、三人とも会話のネタがなくなって黙ってしまう。

 ガラガラと荷台の車輪が回る音を聞きながら進む。

 空はどんよりとした雲が覆っていて、いつ雨が降ってもおかしくはない。

 ハラディンはロバが早く歩くよう殺気を飛ばしてみるが、感覚が鈍すぎて気づいてくれない。

 しかたなく、ゆっくりとしたペースで目的の町を目指すことにした。
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