裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

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ふぅ。わかったよ

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 再び武器屋に戻ると、青い剣を持った店主がカウンターにいた。

「店で暴れてた男がいたみたいだな」

 目を細めて鋭い視線でハラディンを見た。剣呑な雰囲気を出している男――ハラディンが犯人だと勘違いしているのだ。

「誤解するなよ。俺は止めた方だ」

「……そうなのか?」

 店内にいる人間の視線が、顔は腫れてボロボロな優男に集まった。

 見た目割にはしっかりと意識は残っていて、ハラディンの活躍は覚えている。

「ああ。彼は助けてくれた恩人だ」

 他人の女性を寝取るような男ではあるが、他人を貶めるほど腐った性格はしていない。また嘘をついてしまえば報復が恐ろしいこともあって正直に答えた。

 ハラディンが人助けをするとは思わなかった。

 先入観によって人の見極めを誤ったことに店主は後悔する。

「すまんかったな。勘違いした」

「気にするな。主犯は気絶させて店の外に出しておいたから、衛兵に通報するなり、放置するなり好きにしろ」

「わかった」

 持っていた青い剣をカウンターの上に置いた。

 むき出しの刀身についていた錆は消えていて綺麗になっている。周囲の景色が映り込むほど研がれていた。

「確かめてくれ」

 手を伸ばしてハラディンは青い剣の柄を掴んだ。初めて触ったのに馴染む。長年使っていたと勘違いしてしまいそうだ。

 刀身をじっくり見ても刃こぼれ、歪みはない。しかもうっすらとだが霊力を発揮していることに気づき驚く。倉庫は薄暗く気づけなかったのだが、今ならはっきりと黒いオーラ上のものが出ているのだと分かる。

 素材となった動物や魔物か、もしくは使い手の魂が入り込んでいるのだ。

 生物だけが持つことを許された霊力が物に宿るのは珍しい。

 曰くがあるというのもあながち嘘ではなく、青い剣の霊力に体が浸食されて悪さをしたのかもしれなかった。

「外で試し切りでもするか?」

「不要だ」

 断ると青い剣をメーデゥに渡した。

 外に捨てた男がいつ目覚めるか分からない。早めに店を出たかったので断ったのだ。

「どうだ?」

「変な感じ」

「何か入ってきたか?」

「大丈夫。排除した」

 他人の霊力を受け流す技術はハラディンから学んでいる。物に宿った残滓なんかには負けない。重さやサイズも問題なく、すぐに使えそうだ。

「そこの嬢ちゃんが使うのか?」

「荷物持ちだよ。使うのは俺だ」

 素直に答えても怪しまれるだけだ。

 購入を円滑に進めるには嘘も必要である。
 
「だよな。安心した」
 
「約束の金だ。買わせてもらおう」

 銀貨が45枚入った革袋をカウンターの上に置くと、店主は中身を開けて5枚抜き取る。
 
「店の騒動を解決してくれた礼だ」
 
 手に持っている銀貨をハラディンに返した。

 勘違いした詫び代も含まれている。

「いいのか?」

「素材にしても銀貨数枚程度の物だ。俺は得しているんだよ」

「だったらもっと安くしてくれ」

「ダメだ。取引は終わってるからな」

 もっと交渉すれば良かったとハラディンが後悔していると、にかっと歯を見せながら店主が笑う。

 粗雑に見えても相手は商人だ。戦うことしか知らない男が勝てる相手ではなかった。

「ふぅ。わかったよ」

 銀貨5枚を受け取るとポケットにしまう。

「ついでにこれもやる」

 投げられた物をハラディンが掴んだ。鞘だ。

 色落ちして年期は入っているがまだ使えそうである。むき出しの剣を持ち歩くわけにはいかないので、ありがたいサービスであった。

「助かる」

 短く礼を言ってからメーデゥに渡す。

「自分で持つんだ」

「うん」

 青い剣を鞘にしまうと肩に担いで二人は外に出ていった。

 気絶させた男に人が集まっている。汚れた子供が服から財布を抜き取り逃げ出す。人間が多ければ比例して治安も悪くなりがちだ。バックス港町も例に漏れず、隙を見せたらスリや強盗にあってしまう。

 意識が戻る前にこの場を立ち去らなければ。

 メーデゥの手を引いて武器屋を離れて屋台が並ぶ道に入った。店は左右に並んでいて串焼きやアイス、紅茶、ジュース、ジャムを塗ったパンなどといった飲食が売られている。

 良い匂いが漂っていて目移りしてしまう。

 青い剣を買ってもらったばかりなのでおねだりは出来ない。メーデゥは我慢しなければと言い聞かせて、手をつなぎながら歩く。

「輸入してきたばかりの香辛料をたっぷりと入れた肉だよ!」

 おばちゃんの呼びかけは聞こえたが、足は止まらない。

 面倒ごとに巻き込まれたばかりなので、さっさと宿に戻ろうとしているのだ。原因は自分の出自にあるとわかっているためメーデゥは素直に従っているが、目だけは美味しそうな食べ物に向いてしまう。

 その中でも太陽の光を反射してキラキラと輝く、果実の入ったジュースは魅力的に感じた。

 どんな味がするんだろう。

 興味は尽きないけど、おねだりなんてしてはいけない。そう思って顔を後ろに向けて名残惜しそうに見ているとハラディンが止まった。

 無言で屋台に近づくと銅貨を渡し、木のコップに入ったジュースを二つ受け取る。

「実は喉が渇いてたんだ。メーデゥも飲むか?」

「うん!」

 自分のために買ったと言えば遠慮なんてしないだろうとハラディンが予想した通り、ためらうことなく返事をした。

 
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