裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
32 / 47

それは良き買い物をされましたね

しおりを挟む
 予定より少しや早めに宿へ戻どると、二階に上がってペイジが滞在している部屋の前に立つ。

 中から人の気配がしている。

 準備が終わって戻ってきているのだ。

 ノックをするとドアが開き、見慣れてきた顔が出てきた。

「ハラディン様、お早いお帰りで……おや? 武器を新調されたのですか。なかなか質が良さそうで」

 視線はメーデゥが持っている青い剣に向いていた。

 禁制品を扱っているといっても商人ではあるので、簡単な目利きぐらいはできる。

「次の旅に備えて買い換えた。これもお前がくれた前金のおかげだ。助かったぞ」

「いえいえ。正当な対価をお渡ししただけでございます」

 手をもみながらペイジは脳内でハラディンの財布の中身を計算する。

 曰く付きの品とまでは気づけていないため、前金はすべて使い切ったと考えてしまった。

 金に困っているはずだから、追加報酬を渡すと言えば無理な願いを聞いてくれる可能性は高い。

 過程は間違っているが一応の正解にはたどり着いた。

 気づかれないよう、ニヤリと笑いながら話し出す。

「このような良質な武器をご購入されたのでしたら、旅の資金は乏しいのでは?」

「いや、これは曰く付きの品だから安く買えた。仕事終わった後の報酬さえもらえれば数年は暮らせるだろう」

 予想外の結果にペイジは驚く。まさか戦闘しかできないハラディンが、商人と交渉して安くて良い物を買うとは思ってみなかった。ようやく計算するまえの前提条件が違っていたと気づく。
 
「な、なるほど……それは良き買い物をされましたね」

「まあな。だが、できれば防具もそろえたい。追加のもうけ話があるなら聞くぞ」

「実はですね。美味しい話が一つあるんです」

「内容は?」

「パーティーの襲撃犯を捕らえるのではなく殺せば、さらに覚えが良くなるようで……」

 声をワントーン落としてペイジが依頼内容を伝える。

「ハラディン様、襲撃犯を狙って殺せませんかね」

 背後関係を洗うために周囲は生かす方向で考えているが、新しく叙任される男爵は過去の汚点を消そうとしてクレイアを確実に殺したいのだ。

 その汚れ役を裏商売が得意なペイジに依頼したのである。

「ヤれそうなら狙ってみる。それでいいか?」

「もちろんです。頼みましたよ」

 思ってもない発言をしたハラディンをペイジは信じた。

 これで仕事を邪魔することないだろう。彼がクレイアを殺すつもりはないと判明したときは、すべてが終わった後である。

「さて、難しい話はここまでにしましょう。パーティー用の服をご用意したのでサイズを合わせませんか」

「いいだろう」

「それではお入りください」

 部屋の中にペイジが入ったのでハラディンとメーデゥも続く。

 貴重な商品を置けるように配慮されているため一人で泊まるには大きな室内だ。ペイジは部屋に備え付けられている大きいクローゼットを開けると、ハンガーにぶら下がった真っ黒なタキシードと白いシャツを取り出した。

「戦闘がしやすいように伸縮性のある生地で作っています。サイズが合うか試着して下さい」

 タキシードを受け取るとハラディンはこの場で着替える。下着姿になって無数の傷を晒しながらシャツ、パンツ、ジャケットを着ると、腕を伸ばして動きを確認した。

「少し窮屈だ。調整は可能か?」

 死んだ護衛のために作っていたためハラディンにはサイズがあわなかった。日常生活を送る上では大丈夫だが、戦闘でもしたら破けてしまう可能性もある。

「ちょっと確認させて下さい」

 体を触りながら、ペイジがタキシードの裾や丈の長さを確認していく。

 禁制品を売りさばく商人になる前は中古の衣服を取り扱っていたので、寸法を測るのは得意なのだ。

「ふむ。確かに小さめですね。調整するので脱いでもらえますか」

「わかった」

 タキシードとシャツを脱いで下着姿になると、サイズ調整するペイジを見る。

 針と糸、鋏を使って肩や袖回りの調整を行っていた。慣れた手つきに感心する。

「器用だな」

「昔は兄弟や親の服もこうやって直してましたからね。唯一の取り柄ですよ」

 自慢することなく、事実を言っただけといった感じで淡々としていた。

「メーデゥの変装はどうするつもりだ?」

「頭の上半分を覆う仮面と長いマントを用意したので、それをつけてください。あ、念のために尻尾は体にまいてもらえると助かります」

 手を止めたペイジはベッドの下を指さしていた。

 ハラディンが覗くと皮のケースが置かれている。取り出して中を開くと、折りたたまれたマントの上に長い二本の角が付いた悪魔の仮面があった。顎から下は露出するようにデザインされているので、会話や飲食に困ることはないだろう。

 悪魔の仮面を手に持つとずっしりとした重さがあった。仮面の内側、角の部分は空洞になっていて、無理すれば犬耳がしまえそうな仕組みだ。

 さらに角の先端には穴が空いていて、空気が抜けるようになっている。

 汗をかいても蒸れにくい工夫がされていた。

 パーティーだけではなく、夜こっそりと移動するときにも使えそうだ。

「正体は隠せそうだが、こんなもん付けて文句言われないのか?」

「酷いケガをしているから見苦しくならないように隠していると言えば何とかなりますよ」

「そんなもんか……」

 自信満々に言われてしめば、ハラディンは口を閉じるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...