裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
39 / 47

だって、どうする?

しおりを挟む
 クレイアを倒すべく、メーデゥが走る。

 赤黒い霊力で作られた槍が数本飛んできた。

 一本目は青い剣で弾いて軌道を変え、同時にくる二本目、三本目はスライディングで回避、立ち上がりながら小さく跳躍して四本目をやる過ごすと、着地と同時に前へ飛ぶ。背後に数本の赤黒い槍が床に刺さった。

「その動き、人間ではないな。魔物付きか」

 少し動きを見ただけでメーデゥの正体を看破したクレイアだが、侮蔑の感情はなかった。あるのは哀れみといったものだろう。

「だからなに?」

 間合いに入ると青い剣を横に振るう。

『霊壁』

 クレイアの横に霊力で作られた壁がせり上がり、攻撃を止めた。

 どんなに力を込めてもヒビすら入らない。非常に強固だ。メーデゥは身体能力、武器強化に使っている霊力の量を増やすと、全身にうっすらと青と黒がまざったオーラのようなものが出現した。

 魔物付きが霊力を扱えるだけでも珍しいのに、基礎技術をしっかりと身につけている。独学でできることではない。

「霊力の扱いを誰に学んだ?」

 興味を持ったクレイアが聞いたが、メーデゥは答えない。邪魔をする『霊壁』を破壊することだけに集中して周りが見えないのだ。

 メーデゥの横に赤黒い霊力の塊を出現させると、横っ腹にぶつけて吹き飛ばす。

 不意の一撃をまともに受けてしまったため、青い剣を手放し壁にまで叩きつけられてしまう。衝撃によって仮面が大きくひび割れて半壊してしまう。

「ゴフッ、ゴフッ」

 内臓が傷ついて口から赤い血が大量に出た。気絶しそうな痛みが全身を襲い、戦意を挫こうとしてくるが、メーデゥは負けない。

 命の危機を感じ取った魔物の魂が、体の主導権をよこせと叫ぶ。

 理性が吹き飛びそうだ。意識が薄れていく。

 心が負けてしまいそうではあるが、ようやく未来に希望が持てるようになったのだ。こんな所では負けられないと、気迫だけで耐えて立ち上がる。

「その目、魔物の魂が暴走しかけているな」

 命の危機を感じ取って体を乗っ取られそうになっているのだ。一度明け渡してしまえば元に戻るのは難しい。

 技術を与えた存在は気になるが、どうしても聞き出したいほどではない。

 さっさと殺して慈悲を与えようとするクレイアが赤黒い槍を放つ。

 途中で細切れになってしまった。

「もうリザードマンを殺したのか?」

 いつの間にかメーデゥの前にハラディンが立っていた。

 刀は鞘に収まっているが、手を添えて構えている。

「あの女を相手にして良く戦った。あとは俺に任せろ」
 
「師匠……」

 助けて欲しいときに誰も手を差し伸べてくれなかった。それが当たり前の世界で生きていたメーデゥにとって、頼れる背中は魔物の魂を鎮めるには十分な効果があった。

 もう、一人ではない。

 安心してしまい力が抜けて座り込んでしまった。

「強い子だと思ってたけど、ハラディンが教えていたなら納得だ。相変わらず才能を伸ばすのが得意みたいだね」

 パチパチと手を叩きながら周囲に赤黒い槍を浮かべて放ち、近づいてきた騎士を突き殺す。

 鬼の仮面を付けていた襲撃犯は全滅している。騎士や護衛たちは生き残っているが、先ほどの攻撃で怯えて動けない。

 貴族が戦えるはずもなく、パーティー会場はクレイアとハラディンだけの戦場となっていた。

「お前は変わりすぎたな。まさかリザードマンを連れてくるとは思わなかったぞ」

 故郷を滅ぼした相手を利用したこと非難するような目で見ている。

「でも効果的だった」

 否定はできない。

 ドラゴン族の登場によって会場が混乱してしまい、他襲撃犯への対応が遅れてしまったからだ。

 さらにハラディンが対応に時間が取られてしまい、多くの騎士や護衛たちが倒れてしまった。

「ねぇ、パウル男爵を殺したら帰るから見逃してくれない?」

 これはハラディンだけに言ったわけではない。

 この場にいる全員に対する取引だ。

 生け贄を差し出せば死ぬことはない。

 視線がパウル男爵に集まる。

 死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。

 口に出すまでもなく伝わった。

「いやだ! 俺は死にたくない! お前、さっさとあの女を殺せ!」

 クレイアを指さして叫んだ。

 彼女、そして対峙しているハラディンが同郷だと気づけていない。

 過去、国のために死ねと命令した相手ではあるが、もう忘れてしまっているのだ。

「だって、どうする?」

 戦意を大きくそがれたが、ハラディンは構えを解かない。

「お前を止める」

「なんで? そんなにパウル男爵を助けたいの?」

「いや。アイツの命なんてどうでも良い。俺は君を貴族殺しにしたくないだけだ」

「そっか…………ありがとう」

 ふっとクレイアの顔が緩んだ。

 目の前にいる男は本当に何も変わっていない。袂を分かった人間ですら、まだ仲間だと思っている。情が深い。

「もう手遅れだよ。大陸にきてから私たちを見殺しにした貴族を何人も殺してきた」

 復讐に走る前であれば、説得されて良かったかもしれない。しかし今のクレイアは、国を捨てて逃げ出した貴族、豪商を何人も殺している。

 既に手は真っ赤になっていて汚れてしまっているが、それでもハラディンの考えは変わらない。

「だからなんだ? これ以上、手を汚させる理由にはならんぞ」

 汚れているから、さらに汚れてもいいなんて考えはおかしい。そう否定したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...