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鈍くて申し訳ございません
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「確かにそうかもしれない。けど、復讐するって決めたから。死ぬまで止まれない」
会話は終わりだと言わんばかりに、霊力で赤黒い槍を作り出すとハラディンに向けて放つ。
「そんなことない。俺たちは他者を許し、新しい道を見つけられる!」
刀を数度振るうだけで赤黒い槍を細切れにした。クレイアがなんとか動きを目で追えたが、他は勝手に壊れたように見えてしまう。結果しか分からなかったのだ。
「だったらその刀で私を止めてみせるがいい!」
両手に赤黒い剣を作り出したクレイアが走る。相対するハラディンは攻撃しない。間合いに入られて剣を振るわれても後ろに下がって回避するだけである。
攻撃する隙があっても手を出さないのだから、しばらくして戦いを見守っている人たちも異変に気づく。
「なぜ、ハラディン様は攻撃されないのでしょうか……?」
依頼を遂行するつもりがないことは、ペイジは気づいている。
裏切りに対して怒りはない。
仕事柄、慣れているからだ。
それよりも今後の付き合いを検討するためにも理由が知りたかった。
「そんなのもわからねぇのか? だからお前は一流の商人になれないんだよ」
得意げな顔をして隣に立つボンドが、マウントを取るために嫌みを言った。
腕を組んでいて、横目でペイジの反応を伺っている。
「鈍くて申し訳ございません」
「ふん。わかればいいんだよ」
心の中で舌を出しているペイジに気づかず、ボンドは相手より優位な立場になったと機嫌が良くなった。
「愚鈍なお前に親切な俺が教えてやるよ。ありゃぁ、親しい関係だ。男女の仲……までいっているかはわからんが、それに近しいだろう。しかもプルデン島のダブク王国だ」
「どうしてそんなことまでわかるのでしょうか?」
「あの男がリザードマンとの戦いになれていて、襲撃してきた女がパウル男爵を狙っているからだ」
たったそれだけの情報で、ハラディンの故郷やクレイアとの関係にたどり着いたのだ。人を見る目に関しては、傲慢な態度をとっても当然だと思えるほどの能力がある。
ペイジは隣にいるボンドが最年少で支店長になった理由がわかった。
「勉強になります」
「ならいい。で、どうするつもりだ?」
「私ごときじゃ止められません。もう流れに任せるしかないでしょう」
「パウル男爵を外へ逃がさないのか?」
「私はプルグド子爵に用があっただけですので……」
金庫を見ると血だまりが出来ていた。ペイジの取引相手はプルグド子爵であり、彼が事故で死んだことにより裏商人脱却の足がかりは消えてしまった。
もう、クレイアを捕らえ、パウル男爵を救う理由はないのだ。
他の貴族を助けたところで子爵ほどの権力はなく、恩を売ったところで大したコネクションにはならない。めぼしい商売はボンドが所属しているような大手商会が全て押さえているため、大きな後ろ盾が作れないのであれば、まだ禁制品を取り扱い続けたほうがマシである。
「子爵に用事ねぇ。お前、表に出たいのか?」
「…………できることなら」
「だったら俺の下で働かないか?」
「私を雇っても足手まといになるだけですよ」
「そんなことはねぇ。禁制品の類いを取り扱う商人の平均寿命は、二年なのにお前は五年も生き延びている。これでも機転の良さは買ってるんだぜ」
いつも見下されていたこともあって、ペイジにとっては意外な提案だった。
下っ端扱いかもしれないが、大手商会に入って実力を示せば上にはいけるだろう。安全でそこそこ良い生活は夢ではない。現実的なものになる。
しかも誘ってきた相手が最年少で支店長になった男だ。付いていく相手としては悪くない。
「ありがたい話ですが、私は大きな組織で働くのは向いてないんですよ」
「そういうと思ったぜ」
格下の相手が断ったのにボンドの顔は穏やかだった。
口を閉じるとハラディンの戦いを見る。
状況は大きく変わっていた。
クレイアは仰向けに倒れていて、刀の切っ先が眼前にある。他の襲撃犯は騎士や護衛たちの手によって全滅しており、決着が付いたように見えた。
「どうした? 殺さないのか?」
挑発されてもハラディンは動かなかった。捕まえることすらしないので次第に周囲がざわつく。
「早くその女を殺せ! 俺が許可する!!」
命を狙われていたパウル男爵が命令するものの無視される。
彼はそれを侮辱だと受け取ってしまった。
危機を脱したと安心感と他貴族の前で恥をかかされた怒りが混ざり合って、攻撃的な行動に出る。
襲撃犯を殺した際に付いた血が付着したメーデゥの青い剣を拾い、大股で歩いてきた。
「従わないのであれば俺の手で殺してやるッ!」
剣を振り上げるとクレイアの前に赤黒い盾が出現する。振り下ろされた青い剣が衝突した。
衝撃によってパウル男爵は数歩後ろに下がってしまう。
抵抗するなんて気に入らない。
さらに怒りが高まると、青い剣を水平に構えて攻撃の準備をする。
ドクンと、パウル男爵の心臓が強く鼓動した。
全身の血流が早くなる。
青い剣から何かが侵入してきて体に侵入して、恨み、嫉み、妬みといった感情が心を支配する。
「くるな! こっちに来るな!」
青い剣を振り回して錯乱している。正常な意識は消え去っていた。
会話は終わりだと言わんばかりに、霊力で赤黒い槍を作り出すとハラディンに向けて放つ。
「そんなことない。俺たちは他者を許し、新しい道を見つけられる!」
刀を数度振るうだけで赤黒い槍を細切れにした。クレイアがなんとか動きを目で追えたが、他は勝手に壊れたように見えてしまう。結果しか分からなかったのだ。
「だったらその刀で私を止めてみせるがいい!」
両手に赤黒い剣を作り出したクレイアが走る。相対するハラディンは攻撃しない。間合いに入られて剣を振るわれても後ろに下がって回避するだけである。
攻撃する隙があっても手を出さないのだから、しばらくして戦いを見守っている人たちも異変に気づく。
「なぜ、ハラディン様は攻撃されないのでしょうか……?」
依頼を遂行するつもりがないことは、ペイジは気づいている。
裏切りに対して怒りはない。
仕事柄、慣れているからだ。
それよりも今後の付き合いを検討するためにも理由が知りたかった。
「そんなのもわからねぇのか? だからお前は一流の商人になれないんだよ」
得意げな顔をして隣に立つボンドが、マウントを取るために嫌みを言った。
腕を組んでいて、横目でペイジの反応を伺っている。
「鈍くて申し訳ございません」
「ふん。わかればいいんだよ」
心の中で舌を出しているペイジに気づかず、ボンドは相手より優位な立場になったと機嫌が良くなった。
「愚鈍なお前に親切な俺が教えてやるよ。ありゃぁ、親しい関係だ。男女の仲……までいっているかはわからんが、それに近しいだろう。しかもプルデン島のダブク王国だ」
「どうしてそんなことまでわかるのでしょうか?」
「あの男がリザードマンとの戦いになれていて、襲撃してきた女がパウル男爵を狙っているからだ」
たったそれだけの情報で、ハラディンの故郷やクレイアとの関係にたどり着いたのだ。人を見る目に関しては、傲慢な態度をとっても当然だと思えるほどの能力がある。
ペイジは隣にいるボンドが最年少で支店長になった理由がわかった。
「勉強になります」
「ならいい。で、どうするつもりだ?」
「私ごときじゃ止められません。もう流れに任せるしかないでしょう」
「パウル男爵を外へ逃がさないのか?」
「私はプルグド子爵に用があっただけですので……」
金庫を見ると血だまりが出来ていた。ペイジの取引相手はプルグド子爵であり、彼が事故で死んだことにより裏商人脱却の足がかりは消えてしまった。
もう、クレイアを捕らえ、パウル男爵を救う理由はないのだ。
他の貴族を助けたところで子爵ほどの権力はなく、恩を売ったところで大したコネクションにはならない。めぼしい商売はボンドが所属しているような大手商会が全て押さえているため、大きな後ろ盾が作れないのであれば、まだ禁制品を取り扱い続けたほうがマシである。
「子爵に用事ねぇ。お前、表に出たいのか?」
「…………できることなら」
「だったら俺の下で働かないか?」
「私を雇っても足手まといになるだけですよ」
「そんなことはねぇ。禁制品の類いを取り扱う商人の平均寿命は、二年なのにお前は五年も生き延びている。これでも機転の良さは買ってるんだぜ」
いつも見下されていたこともあって、ペイジにとっては意外な提案だった。
下っ端扱いかもしれないが、大手商会に入って実力を示せば上にはいけるだろう。安全でそこそこ良い生活は夢ではない。現実的なものになる。
しかも誘ってきた相手が最年少で支店長になった男だ。付いていく相手としては悪くない。
「ありがたい話ですが、私は大きな組織で働くのは向いてないんですよ」
「そういうと思ったぜ」
格下の相手が断ったのにボンドの顔は穏やかだった。
口を閉じるとハラディンの戦いを見る。
状況は大きく変わっていた。
クレイアは仰向けに倒れていて、刀の切っ先が眼前にある。他の襲撃犯は騎士や護衛たちの手によって全滅しており、決着が付いたように見えた。
「どうした? 殺さないのか?」
挑発されてもハラディンは動かなかった。捕まえることすらしないので次第に周囲がざわつく。
「早くその女を殺せ! 俺が許可する!!」
命を狙われていたパウル男爵が命令するものの無視される。
彼はそれを侮辱だと受け取ってしまった。
危機を脱したと安心感と他貴族の前で恥をかかされた怒りが混ざり合って、攻撃的な行動に出る。
襲撃犯を殺した際に付いた血が付着したメーデゥの青い剣を拾い、大股で歩いてきた。
「従わないのであれば俺の手で殺してやるッ!」
剣を振り上げるとクレイアの前に赤黒い盾が出現する。振り下ろされた青い剣が衝突した。
衝撃によってパウル男爵は数歩後ろに下がってしまう。
抵抗するなんて気に入らない。
さらに怒りが高まると、青い剣を水平に構えて攻撃の準備をする。
ドクンと、パウル男爵の心臓が強く鼓動した。
全身の血流が早くなる。
青い剣から何かが侵入してきて体に侵入して、恨み、嫉み、妬みといった感情が心を支配する。
「くるな! こっちに来るな!」
青い剣を振り回して錯乱している。正常な意識は消え去っていた。
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