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あっちの方に行って下さい
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「……」
人生を賭けた商談を台無しにしてしまったこともあり、ペイジの言葉を素直には受け取れない。
だが代替案を出せるかと言えば無理だ。初めて来た町で地理は分からず伝手なんてない。危機的な状況を抜け出すようなアイディアなんて思い浮かばなかった。
「師匠」
ずっと黙っていたメーデゥが服を引っ張る。
「どうした?」
「敵がいっぱい」
話している間にハラディンたちを探す明かりが増えていた。兵たちも総動員して捜索を続けている。
空き家や路地裏を調べるだけでなく、屋根に登る姿もあった。
もうすぐ見つかってしまう。悩む時間はない。
「港にまで連れて行けば良いんだな?」
「はい。細かい場所は移動しながらお伝えします」
「わかった。逃げるぞ」
またペイジを抱きかかえると、メーデゥはハラディンの肩に乗った。頭を抱きしめて離れようとしない。
走りにくいと文句を言おうとするが、近くから「屋根に人影が見えたぞ!」と兵の声が聞こえたので断念する。思っていたよりも動きが速い。
「落ちるなよ」
「うん」
さらにぎゅっと強く掴まれると、ハラディンは駆け出した。
音を立てず、静かに屋根の上を跳躍して移動する。
住宅密集地から港の方へ近づく。
兵たちの姿が増えた。
船で逃げ出すことを警戒して集まっているのだ。また外壁の門付近にも同様に兵が集まっていて、まともに出ようと思った一戦は覚悟しなければいけない。
「あっちの方に行って下さい」
指示された場所は倉庫が密集しているエリアだ。左に曲がって進むが途中で大通りにあたってしまい、向こう側にある建物までの距離は二十メートルほどある。地上には兵が数名いて降りたら戦闘は避けられないだろう。
「落ちるなよ」
走ったままハラディンは跳躍した。霊力による身体能力強化はすさまじく、長い間宙に浮かぶ。
しかし少し足りなかった。このままでは地面に着地してしまう。
『霊玉』
足下に白い霊力の玉を作り出すと、足場にしてさらに高く跳躍する。
二十メートルの距離を軽く越えて大通りの向かい側にある建物の屋根に着地した。
衝撃によって多少破損してしまったが兵は気づいてない。すぐに走り出す。
「人間って空を飛べるんですね!」
超人的な動きを体験したペイジは笑っていた。
計画はめちゃくちゃになってしまい、町中が敵だらけだ。絶望するしかない状況なのに何故か楽しい。
それはハラディンという男の放つ安心感があるからだ。
一緒にいるだけで絶対に負けない、逃げ出せるという確信が持てるのである。
「師匠、もう一回」
「目立つから無理だ」
意味もなく飛び跳ねていればさすがに気づかれてしまう。隠密行動中であるため断ると、メーデゥはしゅんとしてしまった。
頭の上にいても元気がなくなったと分かる。
「落ち着いたら何度でもやってやる」
「いいの?」
「訓練にもなるからな。直接戦闘以外の技術も教えよう」
「やった」
ちいさく喜んだメーデゥは犬耳をピコピコと上下に動かす。
小さい頃から過酷な環境に追いやられ、大人どころか少年・少女といった年齢に成長できることも稀なため、笑顔を忘れた魔物付きは多い。無感情、無表情が標準だ。
感情を発露するとしたら怯え、悲しみ、怒り、恨み等の負の側面のみ。
先ほどのように笑うなんてことは少なくとも人前ではしない。珍しい行為だった。
「メーデゥ様は感情が豊かですね。魔物付きの方は笑わないと思っていました」
今後のことを考えれば、ペイジはメーデゥを人間扱いしなければいけない。今のうちに慣れておくのも悪くはないと、出会って初めて声をかけることにした。
「嫌い」
常にペイジから差別意識を感じていたメーデゥは顔を背けた。
お互いの仲がすぐに深まるはずはなく、時間はかかるだろう。
「それじゃ、好かれるように頑張りますね」
「いらない」
「そんなこと言わずに。チャンスをください」
「やだ。師匠、こいつ捨てよ」
しつこく食い下がってきたのでハラディンに助けを求めた。
この手のトラブルが最も苦手であるため何もできない。
「ペイジがいないと町から出られない。我慢しろ」
と、実利のみ伝えた。
メーデゥだけでなくハラディンも攻略対象である。魔物付きを集めた村に行って暗殺集団を作ろうなんて夢を実現するにはハードルが多すぎる。だが、ペイジは諦めない。むしろ困難であるとわかるほど心が燃えていた。
「あの半壊している倉庫に入ってください」
「わかった」
周囲に兵や騎士がいないことを確認してから屋根から飛び降りると、静かに着地する。二人は降ろさずに疾走し、目的地の建物に入った。
壁は残っているが天上は崩壊している。月明かりが照らしているのでペイジも周囲は見える。一人で歩き出すといきなり四つん這いになった。
「確かこの辺だったよな……」
不安になるようなことを口に出しながらも床を叩き回る。
「あれ、何しているの?」
「情報屋が使っている隠し扉でも探しているんだろう。しばらく待ってやれ」
「うん」
暇になったメーデゥは近くに転がっている瓦礫に座ると足をブラブラとさせながら、急に仲良くなろうと近づいてきた怪しい男、ペイジを睨みつけていた。
人生を賭けた商談を台無しにしてしまったこともあり、ペイジの言葉を素直には受け取れない。
だが代替案を出せるかと言えば無理だ。初めて来た町で地理は分からず伝手なんてない。危機的な状況を抜け出すようなアイディアなんて思い浮かばなかった。
「師匠」
ずっと黙っていたメーデゥが服を引っ張る。
「どうした?」
「敵がいっぱい」
話している間にハラディンたちを探す明かりが増えていた。兵たちも総動員して捜索を続けている。
空き家や路地裏を調べるだけでなく、屋根に登る姿もあった。
もうすぐ見つかってしまう。悩む時間はない。
「港にまで連れて行けば良いんだな?」
「はい。細かい場所は移動しながらお伝えします」
「わかった。逃げるぞ」
またペイジを抱きかかえると、メーデゥはハラディンの肩に乗った。頭を抱きしめて離れようとしない。
走りにくいと文句を言おうとするが、近くから「屋根に人影が見えたぞ!」と兵の声が聞こえたので断念する。思っていたよりも動きが速い。
「落ちるなよ」
「うん」
さらにぎゅっと強く掴まれると、ハラディンは駆け出した。
音を立てず、静かに屋根の上を跳躍して移動する。
住宅密集地から港の方へ近づく。
兵たちの姿が増えた。
船で逃げ出すことを警戒して集まっているのだ。また外壁の門付近にも同様に兵が集まっていて、まともに出ようと思った一戦は覚悟しなければいけない。
「あっちの方に行って下さい」
指示された場所は倉庫が密集しているエリアだ。左に曲がって進むが途中で大通りにあたってしまい、向こう側にある建物までの距離は二十メートルほどある。地上には兵が数名いて降りたら戦闘は避けられないだろう。
「落ちるなよ」
走ったままハラディンは跳躍した。霊力による身体能力強化はすさまじく、長い間宙に浮かぶ。
しかし少し足りなかった。このままでは地面に着地してしまう。
『霊玉』
足下に白い霊力の玉を作り出すと、足場にしてさらに高く跳躍する。
二十メートルの距離を軽く越えて大通りの向かい側にある建物の屋根に着地した。
衝撃によって多少破損してしまったが兵は気づいてない。すぐに走り出す。
「人間って空を飛べるんですね!」
超人的な動きを体験したペイジは笑っていた。
計画はめちゃくちゃになってしまい、町中が敵だらけだ。絶望するしかない状況なのに何故か楽しい。
それはハラディンという男の放つ安心感があるからだ。
一緒にいるだけで絶対に負けない、逃げ出せるという確信が持てるのである。
「師匠、もう一回」
「目立つから無理だ」
意味もなく飛び跳ねていればさすがに気づかれてしまう。隠密行動中であるため断ると、メーデゥはしゅんとしてしまった。
頭の上にいても元気がなくなったと分かる。
「落ち着いたら何度でもやってやる」
「いいの?」
「訓練にもなるからな。直接戦闘以外の技術も教えよう」
「やった」
ちいさく喜んだメーデゥは犬耳をピコピコと上下に動かす。
小さい頃から過酷な環境に追いやられ、大人どころか少年・少女といった年齢に成長できることも稀なため、笑顔を忘れた魔物付きは多い。無感情、無表情が標準だ。
感情を発露するとしたら怯え、悲しみ、怒り、恨み等の負の側面のみ。
先ほどのように笑うなんてことは少なくとも人前ではしない。珍しい行為だった。
「メーデゥ様は感情が豊かですね。魔物付きの方は笑わないと思っていました」
今後のことを考えれば、ペイジはメーデゥを人間扱いしなければいけない。今のうちに慣れておくのも悪くはないと、出会って初めて声をかけることにした。
「嫌い」
常にペイジから差別意識を感じていたメーデゥは顔を背けた。
お互いの仲がすぐに深まるはずはなく、時間はかかるだろう。
「それじゃ、好かれるように頑張りますね」
「いらない」
「そんなこと言わずに。チャンスをください」
「やだ。師匠、こいつ捨てよ」
しつこく食い下がってきたのでハラディンに助けを求めた。
この手のトラブルが最も苦手であるため何もできない。
「ペイジがいないと町から出られない。我慢しろ」
と、実利のみ伝えた。
メーデゥだけでなくハラディンも攻略対象である。魔物付きを集めた村に行って暗殺集団を作ろうなんて夢を実現するにはハードルが多すぎる。だが、ペイジは諦めない。むしろ困難であるとわかるほど心が燃えていた。
「あの半壊している倉庫に入ってください」
「わかった」
周囲に兵や騎士がいないことを確認してから屋根から飛び降りると、静かに着地する。二人は降ろさずに疾走し、目的地の建物に入った。
壁は残っているが天上は崩壊している。月明かりが照らしているのでペイジも周囲は見える。一人で歩き出すといきなり四つん這いになった。
「確かこの辺だったよな……」
不安になるようなことを口に出しながらも床を叩き回る。
「あれ、何しているの?」
「情報屋が使っている隠し扉でも探しているんだろう。しばらく待ってやれ」
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