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そんな金はない
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「お前、どこまで知っているのか?」
ハラディンの言葉で空気がピンと張り詰めた。
情報を取り扱うのが生業とはいっても、数時間前に発生した貴族のパーティー襲撃事件に詳しすぎる。内部から情報提供されたと説明されても信じられないほどのスピードだ。
何かある。
しかもそれを隠そうとしていない。
警戒するには十分な理由であった。
「落ち着いてください。ここで暴れてはいけません」
敵対してしまえば欲しい情報は何も手に入らない。それどころか貴族たちに捕まってしまう可能性すら高まってしまう。
どれだけ相手が怪しく見えても、立場の弱いペイジたちは従うしかないのだ。
「……わかった」
気持ちを落ち着けて殺気をおさえた。
危機を脱出したため、ふぅとペイジが息を吐く。
「良いコンビね」
殺気を向けられても余裕のある表情を崩さなかったブレアは笑っていた。
二人の関係も把握できたこともあって、事情を説明し出す。
「襲撃犯の彼女はちょっとした知り合いなの」
だから色々と知っていると遠回しに伝えた。
求めている情報の多くは持っていそうだ。期待が持てる。ペイジは依頼内容を伝えることにした。
「我々が要望する情報は二つです。バックス港町の脱出経路、それと襲撃犯がどうやって成人した魔物付きを従えていたか、です」
魔物付きとクレイアの関係はハラディンも気になっていたことだ。なぜパーティー会場を一緒に襲ったのか、成人になるまでどこにいたのかなど、疑問はつきない。
もしかしたらメーデゥと一緒に目指している魔物付きの村があるかもしれない。
「襲撃犯の居場所は知りたくないの?」
「大体の目星は付いていますよね……?」
「ああ。俺なら分かる」
ペイジが確認のために話を振り、ハラディンが頷いた。
クレイアは民兵を見殺しにしてダブク王国から逃げ出した貴族や豪商を殺し回っているのだ。一緒に育ってきたこともあって、次のターゲットなんてすぐにわかる。
ブレアに聞くまでもなかった。
「そこの男性は色々と知ってそうね。私に情報を売ってみません?」
「断る」
例えクレイアの知り合いでも自ら、そして仲間の情報を売るようなことなんてしない。
検討なんてすることもなく即座に拒否した。
「あら、残念」
楽しそうに笑ってからブレアは視線をペイジに戻した。
「見張りの坊やに見せてくれた金貨なら脱出経路ぐらいは教えられるわよ」
「魔物付きの情報は?」
「そんなんじゃ足りない。十倍の金貨を用意してちょうだい」
商売に使っていた資金はすべて宿に置いてきてしまった。
大金なんて持ってない上に、騎士に追われているため回収も不可能である。
「そんな金はない」
「だったら、それでもいいわよ」
ブレアの狙いは腰にぶら下がっている――刀だった。
素人でも高級品だと分かる逸品だ。見逃すことはなかった。
「これはダメだ」
「だったらお金を用意してちょうだい。それが出来なければ町の外に案内するだけの関係で終わりよ」
興味は失せた。
出すものが出せないなら話す価値はないと判断する。
ブレアが腰を浮かしかけると、なんとペイジがタキシードの上着を脱いだ。さらにシャツのボタンを外し始める。
彼女の眉間にシワが寄って目が鋭くなった。
「あなたの裸に銅貨一枚の価値もないんだけど……?」
辛らつな言葉を無視してペイジはシャツを脱ぎ捨てた。
「あれ。どこにしまったっけ……」
カチャカチャと音を立ててベルトを外し、ズボンも脱ぐ。下着の中をチェックしたが脱ぐことはなかった。
周囲は安堵する。
全裸を拝まなくて良かった、と。
そんな周囲の心情に気づいていないペイジは革の靴を脱ぐと、中を覗く。
「そうそう、ここに隠してたんだ」
手を突っ込んでゴソゴソと靴の中をかき回す。しばらくして白い硬貨を取り出した。サイズは金貨より二回りも小さい。銀よりも色味は暗く倍以上の重さがある。
白金と呼ばれる金属で作られた硬貨だ。
これだけで金貨50枚の価値がある。
追い剥ぎに遭って持ち物をすべて取られてしまった時に備えて、ペイジが軍資金として隠していた。秘蔵の金だ。
「これで足りますよね?」
ぐいっと腕を伸ばすと、ブレアの前に白金貨がきた。
少しだけ汗臭いが、それだけで価値は損なわれない。
指先でちょんとつまむと受け取った。
「十分ね。教えてあげても良いわ」
浮かべていた腰を下ろすと足を組む。
「魔物付きは襲撃犯の彼女――クレイアが育てた……わけじゃないわ。そういう組織の力を借りていたのよ」
ペイジが思いついたビジネスアイデアは、既に他が実現していた。使い捨てても心が痛まない魔物付きの暗殺者。それを育てる集団が裏社会にあったのだ。
「そんな話聞いたことありません。本当なんでしょうか?」
「魔物付きを育てるなんてバレたら、国が動く重要事件よ。麻薬商人ごときが手に入られるレベルの情報じゃないの」
だから白金貨が出なければ教えるつもりはなかった。それほど世間には隠されており、こうやって教えているブレアも相応のリスクを背負っている。
情報漏洩したことがバレれば命が危ないからだ。
ハラディンの言葉で空気がピンと張り詰めた。
情報を取り扱うのが生業とはいっても、数時間前に発生した貴族のパーティー襲撃事件に詳しすぎる。内部から情報提供されたと説明されても信じられないほどのスピードだ。
何かある。
しかもそれを隠そうとしていない。
警戒するには十分な理由であった。
「落ち着いてください。ここで暴れてはいけません」
敵対してしまえば欲しい情報は何も手に入らない。それどころか貴族たちに捕まってしまう可能性すら高まってしまう。
どれだけ相手が怪しく見えても、立場の弱いペイジたちは従うしかないのだ。
「……わかった」
気持ちを落ち着けて殺気をおさえた。
危機を脱出したため、ふぅとペイジが息を吐く。
「良いコンビね」
殺気を向けられても余裕のある表情を崩さなかったブレアは笑っていた。
二人の関係も把握できたこともあって、事情を説明し出す。
「襲撃犯の彼女はちょっとした知り合いなの」
だから色々と知っていると遠回しに伝えた。
求めている情報の多くは持っていそうだ。期待が持てる。ペイジは依頼内容を伝えることにした。
「我々が要望する情報は二つです。バックス港町の脱出経路、それと襲撃犯がどうやって成人した魔物付きを従えていたか、です」
魔物付きとクレイアの関係はハラディンも気になっていたことだ。なぜパーティー会場を一緒に襲ったのか、成人になるまでどこにいたのかなど、疑問はつきない。
もしかしたらメーデゥと一緒に目指している魔物付きの村があるかもしれない。
「襲撃犯の居場所は知りたくないの?」
「大体の目星は付いていますよね……?」
「ああ。俺なら分かる」
ペイジが確認のために話を振り、ハラディンが頷いた。
クレイアは民兵を見殺しにしてダブク王国から逃げ出した貴族や豪商を殺し回っているのだ。一緒に育ってきたこともあって、次のターゲットなんてすぐにわかる。
ブレアに聞くまでもなかった。
「そこの男性は色々と知ってそうね。私に情報を売ってみません?」
「断る」
例えクレイアの知り合いでも自ら、そして仲間の情報を売るようなことなんてしない。
検討なんてすることもなく即座に拒否した。
「あら、残念」
楽しそうに笑ってからブレアは視線をペイジに戻した。
「見張りの坊やに見せてくれた金貨なら脱出経路ぐらいは教えられるわよ」
「魔物付きの情報は?」
「そんなんじゃ足りない。十倍の金貨を用意してちょうだい」
商売に使っていた資金はすべて宿に置いてきてしまった。
大金なんて持ってない上に、騎士に追われているため回収も不可能である。
「そんな金はない」
「だったら、それでもいいわよ」
ブレアの狙いは腰にぶら下がっている――刀だった。
素人でも高級品だと分かる逸品だ。見逃すことはなかった。
「これはダメだ」
「だったらお金を用意してちょうだい。それが出来なければ町の外に案内するだけの関係で終わりよ」
興味は失せた。
出すものが出せないなら話す価値はないと判断する。
ブレアが腰を浮かしかけると、なんとペイジがタキシードの上着を脱いだ。さらにシャツのボタンを外し始める。
彼女の眉間にシワが寄って目が鋭くなった。
「あなたの裸に銅貨一枚の価値もないんだけど……?」
辛らつな言葉を無視してペイジはシャツを脱ぎ捨てた。
「あれ。どこにしまったっけ……」
カチャカチャと音を立ててベルトを外し、ズボンも脱ぐ。下着の中をチェックしたが脱ぐことはなかった。
周囲は安堵する。
全裸を拝まなくて良かった、と。
そんな周囲の心情に気づいていないペイジは革の靴を脱ぐと、中を覗く。
「そうそう、ここに隠してたんだ」
手を突っ込んでゴソゴソと靴の中をかき回す。しばらくして白い硬貨を取り出した。サイズは金貨より二回りも小さい。銀よりも色味は暗く倍以上の重さがある。
白金と呼ばれる金属で作られた硬貨だ。
これだけで金貨50枚の価値がある。
追い剥ぎに遭って持ち物をすべて取られてしまった時に備えて、ペイジが軍資金として隠していた。秘蔵の金だ。
「これで足りますよね?」
ぐいっと腕を伸ばすと、ブレアの前に白金貨がきた。
少しだけ汗臭いが、それだけで価値は損なわれない。
指先でちょんとつまむと受け取った。
「十分ね。教えてあげても良いわ」
浮かべていた腰を下ろすと足を組む。
「魔物付きは襲撃犯の彼女――クレイアが育てた……わけじゃないわ。そういう組織の力を借りていたのよ」
ペイジが思いついたビジネスアイデアは、既に他が実現していた。使い捨てても心が痛まない魔物付きの暗殺者。それを育てる集団が裏社会にあったのだ。
「そんな話聞いたことありません。本当なんでしょうか?」
「魔物付きを育てるなんてバレたら、国が動く重要事件よ。麻薬商人ごときが手に入られるレベルの情報じゃないの」
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