笑わぬ虎は、青瞳を愛する。

ぼんつく地蔵

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笑わぬ虎は、青瞳を愛する。

episódio.32 笑わぬ虎は、青瞳を愛する①

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 初期には灌漑工事にともない森林を伐採して切り拓いた路盤、直近では啸風子と化して亡命をはかった獣道、そして刻下に闊歩かっぽするは朋輩殄戮ほうばいてんりくを果たさんがための茨道いばらみち
 キドンは、サーベルを片手に、余光消失の黒々とした鋭い双眸を剥いて、ヴィア・ドロローサに挑む。

 まもなくして、草叢をかき分けたさきの、くだんの大河にたどり着いた。
 おとといには留守であった聖騎士団だが、今夜こそは巡警を再開したようで、中流域の対岸に在駐している。

 数えること総勢二十八人、その中に、キドンはアルコの隻影を見つけた。
 いまや夜叉となりしキドンの気息が、強い意趣をもって一呼吸荒くなる。

 されども、橋梁きょうりょうのない急湍きゅうたんの、川底に両足の付かぬようなみずかさでは、とうてい渡河もままならない。そこで、キドンはいったん、けわしい岩場をぬって川尻まで歩きくだる。
 浅瀬まで来たれば泥沢が広がっており、水量も微々たるして玉砂利が密集していた。さような泥沢のさざれ石をつたいながら対岸の葦辺あしべへと飛び渡ったキドンは、ふたたび川縁かわべりを登って中流域地点に戻る。

 現地に戻りたれば、二十八人の聖騎士団と対峙するも、正々堂々と人目をはばからずして、波に乗った歩度を断じて乱さぬキドンであった。
 対して、アルコ含む聖騎士団の二十八人は、川下の遠路からはるばるゆるまぬ歩調でこちらへ来向かうキドンの、月華に照るる影法師を少なからずいぶかしがる。いくらきらめく月光といえどひしめく木葉にさえぎられた冥暗の闇夜で、この武者の正体がルンブラン公国の将帥なりと判別するまでには至らなかった。

 ただならぬ不審感に眉根を寄せるはまず八人、抜刀しておそるおそるキドンににじり寄る。
 されば、キドンは手始めとばかりに、先陣を切るに一歩進んで「何者だ」と問うた勇猛果敢なる一人の頸動脈を、サーベルの刀区はまちで摺って斬り捨てた。

 さするに、現場は一気に大混乱を発する。
 聖騎士団はキドンを通り魔の殺人鬼なるぞと認識し、前面にあゆみ出た残る七人が一丸となってアサシンに襲いかかった。

 しかし、それをものともしないキドンは、先駆けて間近に差し迫る三人の太刀をはじき飛ばす。そしてすみやかに腰を低めるなり、横一列に並ぶ三人のアキレス腱を裂き、体勢が崩れた拍子にその喉仏を真一文字に両断した。
 続く四人が四方から肉迫するに、太刀を肩越しにかまえて脇腹のあらわとなった死角に目星を定めたキドンは、サーベルの長柄をひっくりかえして持ち直し、一周薙ぎ回す。するに四人は、はらわたから臓器をふきこぼして死するのであった。

 次なるは、八方に散らばって太刀の切先を青白く光らせる十人である。
 抹殺された同胞の仇敵なればこそと叫びたげに、キドンを般若の形相でにらみつける。

 さきんじて行動に移ったのは、キドンであった。
 キドンは、右方にて恐怖で膝の笑うままに殺人鬼の雲行きをうかがっているだけの三人を、それぞれすばやい刺突しとつの連打を浴びせ手早にほふる。

 左方の七人は、騎士らしく気炎万丈として雄叫びを上げ、キドンへ向かって太刀をめくらめっぽうに振るった。
 しかしてキドンによるサーベルの猛攻の、あやまたずして七人の唐竹割りを受け太刀したがゆえに、全員の白刃の反りし平地ひらじが欠損する。

 さもあらばあれ、キドンは、太刀を折られて愕然とする一人の右肩を切り落とし、同じく身をすくませる一人の太腿を切断した。ついでは、流暢にサーベルを挽き、繊維喪失して逃走するに顔をそむける寸前であった一人の胸部を斜方に叩きちぎる。
 さてもや、刃こぼれしてもなお奇襲によりをかけた三人の両腕を、キドンはまたもやサーベルのよどみなき刃紋でもぎるのであった。出遅れた七人目があえなくキドンの犠牲となったのは、言うまでもない。
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