6 / 22
6
しおりを挟む
私とディートハルト様との縁談は思いのほかトントン拍子に進み、私は王家の城に入城しました。
ディートハルト様も私と同様、ずっと結婚を拒んでいたタイプだったので、結婚に際して周りの喜びようは大変なものでした。特にディートハルト様のお母様(王妃)はやっと息子が身を固めてくれたと涙していました。王国は歴史的にも異性間の早期の結婚を推奨しており、同性愛は固く禁じています。王妃様は息子が妻を娶ったことで、ようやく一人前になったと考えているようです。
私は王家の温かい歓迎を受けてほっとしていたのですが、一つだけ例外がありました。ディートハルト様の妹シルヴィア様です。シルヴィア様は私が入城した初日から敵意を剥き出しにしていて、口も聞いてもらえませんでした。
王家の使用人ナディエ(私のお世話係のリーダーに就任した人)から聞くところによると、シルヴィア様は兄であるディートハルト様が大好きで、私に嫉妬しているとのことです。その愛は妹としての領分を超えるほど熱烈で、王家の悩みの種の一つになっているそうです。
「ねえナディエ。今日は会ってもらえるかしら? シルヴィア様とずっと気まずい関係でいたくないわ」
私はシルヴィア様の部屋に向かいながら、側に控えるナディエにこう話しかけました。するとナディエは珍しく快活な調子で応えました。
「今日こそは大丈夫です。今朝、シルヴィア様の使用人が部屋の掃除を始めたと報告が入っています。掃除嫌いなシルヴィア様が許可したということは、ビアンカ様を迎えてお話するおつもりでしょう」
「掃除嫌いっていうのも珍しいわね。自分で掃除するわけではないでしょうに」
「ええ。埃が立つのがお嫌なご性分です。でも今日は使用人たちに次々指示を出して、段取っていたようです」
そんな会話をしながら私とナディエはシルヴィア様の部屋に招かれました。シルヴィア様は腕を組んで頭を気だるそうに垂れ、目も合わせてくれません。
しかし私がそわそわしつつ応対用の椅子に腰掛けると、口火を切ったのはシルヴィア様でした。
「ディートハルト兄様と離縁して、実家に帰りなさい」
突然のシルヴィア様の言葉に驚きました。
「いえ、その……ディートハルト様とは結婚したばかりです。なぜ離縁せねばならないのでしょうか……?」
シルヴィア様が「ちっ」と舌打ちをして、私を軽蔑のまなざしでにらみます。
「あんたは腹黒い計画を立てて、ディートハルト兄様に近づいたんでしょ? みんなは騙せても、わたしは騙されないから。丘の上で偶然出会って結婚? そんなおとぎ話みたいな話あるわけないでしょ」
「シルヴィア様は誤解していらっしゃいます。あの丘は……私が普段からよく行く丘なのです。そこへ偶然、ディートハルト様がいらっしゃって、お話してくださったんです。企てなど何もありません。誰よりも私自身が……いまだに信じられない気持ちでいます」
「ふんっ……。それにあんたの義務は月に一度の会食だけでいいそうね。なんでそんなに仕事が少ないの? ディートハルト兄様の弱みを握って、脅したんでしょ? そうに決まってる。兄様の秘密につけ込むなんてまともな人間のすることじゃないわ」
「秘密……? ディートハルト様は何かご事情を抱えていらっしゃるんですか?」
ディートハルト様も私と同様、ずっと結婚を拒んでいたタイプだったので、結婚に際して周りの喜びようは大変なものでした。特にディートハルト様のお母様(王妃)はやっと息子が身を固めてくれたと涙していました。王国は歴史的にも異性間の早期の結婚を推奨しており、同性愛は固く禁じています。王妃様は息子が妻を娶ったことで、ようやく一人前になったと考えているようです。
私は王家の温かい歓迎を受けてほっとしていたのですが、一つだけ例外がありました。ディートハルト様の妹シルヴィア様です。シルヴィア様は私が入城した初日から敵意を剥き出しにしていて、口も聞いてもらえませんでした。
王家の使用人ナディエ(私のお世話係のリーダーに就任した人)から聞くところによると、シルヴィア様は兄であるディートハルト様が大好きで、私に嫉妬しているとのことです。その愛は妹としての領分を超えるほど熱烈で、王家の悩みの種の一つになっているそうです。
「ねえナディエ。今日は会ってもらえるかしら? シルヴィア様とずっと気まずい関係でいたくないわ」
私はシルヴィア様の部屋に向かいながら、側に控えるナディエにこう話しかけました。するとナディエは珍しく快活な調子で応えました。
「今日こそは大丈夫です。今朝、シルヴィア様の使用人が部屋の掃除を始めたと報告が入っています。掃除嫌いなシルヴィア様が許可したということは、ビアンカ様を迎えてお話するおつもりでしょう」
「掃除嫌いっていうのも珍しいわね。自分で掃除するわけではないでしょうに」
「ええ。埃が立つのがお嫌なご性分です。でも今日は使用人たちに次々指示を出して、段取っていたようです」
そんな会話をしながら私とナディエはシルヴィア様の部屋に招かれました。シルヴィア様は腕を組んで頭を気だるそうに垂れ、目も合わせてくれません。
しかし私がそわそわしつつ応対用の椅子に腰掛けると、口火を切ったのはシルヴィア様でした。
「ディートハルト兄様と離縁して、実家に帰りなさい」
突然のシルヴィア様の言葉に驚きました。
「いえ、その……ディートハルト様とは結婚したばかりです。なぜ離縁せねばならないのでしょうか……?」
シルヴィア様が「ちっ」と舌打ちをして、私を軽蔑のまなざしでにらみます。
「あんたは腹黒い計画を立てて、ディートハルト兄様に近づいたんでしょ? みんなは騙せても、わたしは騙されないから。丘の上で偶然出会って結婚? そんなおとぎ話みたいな話あるわけないでしょ」
「シルヴィア様は誤解していらっしゃいます。あの丘は……私が普段からよく行く丘なのです。そこへ偶然、ディートハルト様がいらっしゃって、お話してくださったんです。企てなど何もありません。誰よりも私自身が……いまだに信じられない気持ちでいます」
「ふんっ……。それにあんたの義務は月に一度の会食だけでいいそうね。なんでそんなに仕事が少ないの? ディートハルト兄様の弱みを握って、脅したんでしょ? そうに決まってる。兄様の秘密につけ込むなんてまともな人間のすることじゃないわ」
「秘密……? ディートハルト様は何かご事情を抱えていらっしゃるんですか?」
11
あなたにおすすめの小説
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
「『お前の取り柄は計算だけだ』と笑った公爵家が、私を追い出した翌月に財政破綻した件」
歩人
ファンタジー
公爵家に嫁いだ伯爵令嬢フリーダは、10年間「帳簿係」として蔑まれ続けた。
夫は愛人に夢中、義母は「地味な嫁」と見下す。しかし前世で公認会計士だった
フリーダは、密かに公爵家の財政を立て直し、資産を3倍にしていた。離縁を
突きつけられたフリーダは、一言も抗わず去る。——翌月、公爵家は財政破綻した。
「戻ってきてくれ」と跪く元夫に、王家財務顧問となったフリーダは微笑む。
「申し訳ございません。もう私は、公爵家の帳簿係ではありませんので」
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢エレーナは、義母と義妹に3年間毒を盛られ続けた。「病弱な姉」として
社交界から消し、財産と婚約者を奪う計画——しかしエレーナには、前世の記憶から
来る毒物の知識があった。毒の種類を特定し、密かに解毒しながら「弱った姉」を
演じ続け、証拠が積み上がるのを待つ。卒業の夜会で義妹が勝ち誇るその場で、
エレーナは3年分の診断書を差し出す。「復讐? いいえ。ただ、もう助けないだけ」
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う
柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。
大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。
その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。
そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。
……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる