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シルヴィア様は私の質問に対し「あっ」と声を漏らしたあと、自分が口を滑らせたことを後悔しているようでした。そして「は、は、は」と口を開けたかと思うと、「はくしょんっ!」とくしゃみをしました。


「……なんでもないわよ! あーあ、これだから掃除したあとの部屋って嫌なのよ。くしゃみが出ちゃう」


シルヴィア様は使用人からハンカチを受け取り、鼻下にそれを当てました。ちらと見えたタグを覗くと、そのハンカチはイマバリ製ではなく、王家御用達の工房(センシュウ)で作られたものでした。ディートハルト様はイマバリ製がお好きなのに、彼を好きなシルヴィア様がそれを使っていないのが意外でした。


「王家の方はセンシュウ製のハンカチをお持ちですよね。羨ましいです」


シルヴィア様は一瞬私のほうを見たものの、ハンカチの話題に関心がなさそうです。そしてまた視線をずらして「あっ!」と叫びました。


「あのブチの野良猫が今日も入っているわよ! 憎たらしい猫ね! 今日こそつまみあげて窓から捨ててしまいなさい!」


シルヴィア様の命令を受けて、使用人たちがわらわらと野良猫を捕まえるために群がりました。窓から捨てろなんていうひどい命令に、耳を疑いました。

ようやく一人の使用人が野良猫を捕まえて抱えあげました。するとシルヴィア様が「さっさと窓から放り投げなさい!」とすごんだので、その使用人は動揺したまま本当に窓から野良猫を放り投げてしまったのです。



「えーーーーー!!!!????」



私は自然と立ち上がり、つい大声で叫んでしまいました。部屋に入ってきたからとはいえ、猫を外に放り投げる必要はありません。私は言葉を失い、しばらく立ち尽くしました。

シルヴィア様が「何か文句ある?」と冷たい声で言ってきたので、さすがに私も言い返しました。


「窓から投げるなんてあんまりじゃないですか。外へ出してあげさえすれば……」


「わたしは猫アレルギーなのよ。鼻が敏感だから、そもそも動物がダメ。それなのに性懲りもなくあの野良猫がやって来るもんだから……自業自得よ」


私はさらに発言しようとしたのですが、シルヴィア様が被せるようにして、

「あんたの顔を見ているだけでもくしゃみが出そうだわ。今日言いたかったのはね……ディートハルト兄様を一番理解しているのはわたし、ってこと。それがわかったらさっさと出ていきなさい」

と言ってきたので、私も不愉快になり部屋を出ました。


(極度のブラコンに加えて、頭がおかしくなってるのね……)


さきほどの野良猫が心配になり急いで外へ行くと、驚いたことに、野良猫が落下した場所のそばにディートハルト様がいたのです。彼は片膝をついてかがみ込んでおり、その足元には野良猫らしき影が見えました。
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