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エミール様が出ていったあと、私は頭の中の整理がつかず、激しい鼓動もおさまらないままでした。



なぜエミール様はディートハルト様にキスをしたのか。



二人は男性同士だけれども、大人の関係なのでしょうか。そうだとしたらこの国では法律違反になってしまいます。同性愛が禁じられているからです。特に規範となるべき王族ともなると、絶対にあってはいけないことです。



(あぁ……わからない……どうして……?)



とにかく一人になりたいと思った私は立ち上がり、部屋の出口へ早足で向かいました。後ろからディートハルト様が「説明したいんだ! 待って」と止めてきたのですが、その言葉を聞かず部屋を出ました。妻の前でキスしておいて、何を言い訳するつもりなのでしょう。顔も見たくありませんでした。

私はディートハルト様の部屋を出た後、急いで自分の部屋に戻りました。椅子に深々と座ってから、目の前のテーブルに上半身をあずけます。なんだか大きな事件に巻き込まれた気がして、しばらくうつむきで過ごしました。



これまでのことを振り返ってみると、ディートハルト様にとって私との結婚は隠れ蓑だったのかもしれません。ディートハルト様とエミール様は愛し合っているけれども、それを公にはできない。だから私と結婚して同性愛の噂を絶ちつつ、関係を続けることにした。そう考えれば納得できます。エミール様はディートハルト様のことが好きだから、妻になった私は目の敵。私へ向ける冷たい視線にもうなずけます。

エミール様にとって、ディートハルト様と私の結婚は悔しかったのでしょう。いくら関係を続けるためとはいえ、同性愛を育む彼らが異性の私を受け入れるなど、苦渋の決断だったに違いありません。

こんなことを考えていると、急に涙がこみあげてきました。泣きはしませんが、悲しい気持ちでいっぱいでした。どうしてなのでしょう。私だって、のんびり生活をするために契約結婚をしたはずです。向こうには向こうの事情があって当然ですし、気にする必要はないのです。そう、私は私の目指した暮らしができればいい……。

元の目的を自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、胸が苦しくなります。

そんなタイミングで、使用人のナディエが来ました。



「ビアンカ様。お部屋の外でディートハルト様がお待ちです。直接会ってお話がしたいとのことです」
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