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あきらかに怪しい雰囲気を醸し出す謎の老婆だった。関わり合いにならないほうが賢明だと思った。
私が足早に立ち去ろうとすると老婆は、
「メリッサ様。あなた様こそウィリアム殿下にふさわしいお方なのです」と静かに言った。
足を止めた。止まってしまった。
(そう……ウィリアム殿下にふさわしいのは私。クラリスではない)
私は老婆に問いかけた。
「どうして私の名を? どうしてウィリアム殿下のことまで?」
「それは大した問題ではありません。クラリスという女は、ウィリアム殿下にとって新参者に近い。幼い頃からウィリアム殿下と親交のあるメリッサ様こそウィリアム殿下と結婚すべきなのです」
「……まだ結婚の話なんて早すぎるわ」
「いえいえ。ウィリアム殿下とクラリスの結婚の話が水面下で進んでおります。ほぼ確定しているのです」
私は首の後ろあたりがかゆくなってきて掻き始めた。
(そんなはずはない……そんな重要な話を殿下が私になさらないはずはない。私たちは小さい頃から一緒にいた仲。結婚しようとも言い合った仲じゃない……)
老婆は私の顔をじっくり眺めながら言う。
「いらだつのも当然のことです。あのクラリスという女はろくでもない女なのです。貞淑なふりをしているが実際には腹黒い。本当は私が殺してやりたいと思っています」
「おばあさん、あなたがそんなにクラリスを憎む理由はなに?」
「クラリスは私の息子との婚約を破棄したのです。息子はショックで谷に身を投げました」
「……気の毒だったわね」
「ご配慮のお言葉痛み入ります。なのでメリッサ様にはこの特別な毒薬を使っていただきたいのです。私がクラリスに近づくことはできませんが、メリッサ様には可能です」
「いや、さすがにクラリスが邪魔だからといって毒を盛るっていうのは……」
「ご安心ください。この毒薬は若い女性にしか効かない特別なものです。なのでウィリアム殿下がもし口にしたとしても効果はありません。メリッサ様さえ飲まなければ大丈夫です」
今回のお茶会は何組かの家族しか呼ばないから、若い女性は私とクラリスだけ……。どうしよう……。クラリスは確かに邪魔。婚約だって自分勝手に破棄したような女なんだよね? クラリスが死んだら、私と殿下はまた仲良くなれる? そうだ、クラリスが亡くなったら私が殿下をお慰めして、その流れで……。うん、いける、それだったらいけると思う。
私は老婆に確認した。
「毒を使ったっていう証拠は残らないのよね?」
老婆は目を輝かせて答えた。
「さようでございます。毒を飲んでもすぐに死にはいたらず、夜眠っているときに効果を発揮します。死因は病気だとされるでしょう」
「わかったわ。毒をちょうだい」
私が足早に立ち去ろうとすると老婆は、
「メリッサ様。あなた様こそウィリアム殿下にふさわしいお方なのです」と静かに言った。
足を止めた。止まってしまった。
(そう……ウィリアム殿下にふさわしいのは私。クラリスではない)
私は老婆に問いかけた。
「どうして私の名を? どうしてウィリアム殿下のことまで?」
「それは大した問題ではありません。クラリスという女は、ウィリアム殿下にとって新参者に近い。幼い頃からウィリアム殿下と親交のあるメリッサ様こそウィリアム殿下と結婚すべきなのです」
「……まだ結婚の話なんて早すぎるわ」
「いえいえ。ウィリアム殿下とクラリスの結婚の話が水面下で進んでおります。ほぼ確定しているのです」
私は首の後ろあたりがかゆくなってきて掻き始めた。
(そんなはずはない……そんな重要な話を殿下が私になさらないはずはない。私たちは小さい頃から一緒にいた仲。結婚しようとも言い合った仲じゃない……)
老婆は私の顔をじっくり眺めながら言う。
「いらだつのも当然のことです。あのクラリスという女はろくでもない女なのです。貞淑なふりをしているが実際には腹黒い。本当は私が殺してやりたいと思っています」
「おばあさん、あなたがそんなにクラリスを憎む理由はなに?」
「クラリスは私の息子との婚約を破棄したのです。息子はショックで谷に身を投げました」
「……気の毒だったわね」
「ご配慮のお言葉痛み入ります。なのでメリッサ様にはこの特別な毒薬を使っていただきたいのです。私がクラリスに近づくことはできませんが、メリッサ様には可能です」
「いや、さすがにクラリスが邪魔だからといって毒を盛るっていうのは……」
「ご安心ください。この毒薬は若い女性にしか効かない特別なものです。なのでウィリアム殿下がもし口にしたとしても効果はありません。メリッサ様さえ飲まなければ大丈夫です」
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私は老婆に確認した。
「毒を使ったっていう証拠は残らないのよね?」
老婆は目を輝かせて答えた。
「さようでございます。毒を飲んでもすぐに死にはいたらず、夜眠っているときに効果を発揮します。死因は病気だとされるでしょう」
「わかったわ。毒をちょうだい」
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