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五歳上の姉は、二歳の頃から優秀だったらしい。ブロックや粘土遊びをしても芸術的な才能を見せ、三歳になる頃には両親を描いた絵が街の美術館に飾られていた。
勉強もよくできたそうで、四歳のときには作文でsophisticatedという単語を使い、先生を驚かせたという逸話が残っている。ちなみに辞書で今調べてみたのだが、「洗練された」という意味のようだ。
さてそんな”完璧”な姉なので、私がエバンズ家という伯爵家に生まれたのは、間が悪かったと言わざるをえない。私が勝っているところといえば健康だけで、姉は半年に一度は必ず風邪をひくような体質。私の名前はエミリーだけど、ヘルシーという名前でもよかったかもしれない。
姉だっていつもベッドで寝ていなくちゃいけないわけじゃない。でも身体が病弱なのと、姉の優秀さもあって、両親の溺愛は止まらなかった。はっきり言って、べったりつきっきりと言ってもよい。容姿も可憐だったので、姉の美しさはいっそう儚さを増していたのだろう。
まだ姉に憧れていた私が七歳のとき、姉と遊んでいると「お姉ちゃんはか弱いんだからね。お姉ちゃんのことをもっと考えてあげなさい」と言われた。それからもことあるごとに「エミリーはお姉ちゃんと違って勉強できないのね」とか「お姉ちゃんがエミリーのように健康であれば……」などと言われ、まるで私はよその子のような扱いだった。
私の唯一の味方は、叔父さんだった。「元気が一番なんだぞ。エミリーは身体が丈夫でよかったな」と言ってくれた。テストで赤点を取ったときにも「赤点を隠さずに、赤点だったと見せられるエミリーは偉いな」と褒めてくれた。ただ叔父さんは毎日家に来るわけでもなかったし、今はもう流行病で亡くなってしまった。
両親や姉にとって喜ばしいことに、月日が経てば経つほど姉の身体は強くなっていき、能力にも磨きがかかった。私なんか、両親の視界にも入っていない。
姉はある程度大人になってから芝居の勉強に夢中になる。両親にあの手この手を使ってわがままを通しては、また懲りずに両親を頼るのだった。
両親は両親で、姉への溺愛をやめることはなかった。姉は、私が買ってもらえないようなものをたくさん買ってもらっていた。たとえば、勉強ができるので本は惜しみなく与えられていたし、家庭教師も毎日来ていた。新作の可愛い洋服、アクセサリーも思うがまま。一方で私は「どうせお前は勉強ができない」と言われながら、本など触らせてももらえず、筆記用具もすべてお下がり。洋服もお下がりで着られたならまだよかったけど、姉と違って私は太っているからサイズが合わない。使用人と同じような服を着させられて、お客様から使用人と間違えられることさえあった。
そうは言っても伯爵令嬢として生まれたおかげで、結婚の話はきた。相手の名前はオリバーといい、同じく伯爵身分の家の男性だった。父が仕事でお世話をしているそうで、立場的には父のほうが上のよう。初めて会ったのは冬のことで、私が「寒くないでしょうか?」などの言葉をかけるだけで「エミリーさんは気遣いのできる方だ」と言ってくれた。見た目や能力ではなく内面で向き合ってもらえたのは初めての経験だった。
結婚の話は不慣れなことばかりだったけど、私は結婚の話を受け入れた。オリバーは私を邪魔者扱いしないだろうし、なにより私自身を一人の女性として見てくれている気がした。
結婚すれば、オリバーの家で暮らせる。
やっと、両親も姉もいない生活!
平凡な私には、平凡な暮らしがあるだけでいい。
そんなふうに思い結婚に向けて準備していた頃、私とオリバーのところに姉がやって来た。
「あなたがオリバーさんなのですね。はじめまして、エミリーの姉のソフィアです。とっても素敵な方ね」
姉は胸元が開いたセクシーな洋服を着ていて、オリバーの肩から肘をさらっとなでた。オリバーは女性に免疫がないようで、あからさまに頬を赤らめて嬉しそうにしていた。私の婚約者に対してべたべたする姉もおかしいと思ったけど、姉にデレデレするオリバーもひどいと思った。
しかし、今まで好き勝手に振る舞ってきた姉にも事件が起きた。
勉強もよくできたそうで、四歳のときには作文でsophisticatedという単語を使い、先生を驚かせたという逸話が残っている。ちなみに辞書で今調べてみたのだが、「洗練された」という意味のようだ。
さてそんな”完璧”な姉なので、私がエバンズ家という伯爵家に生まれたのは、間が悪かったと言わざるをえない。私が勝っているところといえば健康だけで、姉は半年に一度は必ず風邪をひくような体質。私の名前はエミリーだけど、ヘルシーという名前でもよかったかもしれない。
姉だっていつもベッドで寝ていなくちゃいけないわけじゃない。でも身体が病弱なのと、姉の優秀さもあって、両親の溺愛は止まらなかった。はっきり言って、べったりつきっきりと言ってもよい。容姿も可憐だったので、姉の美しさはいっそう儚さを増していたのだろう。
まだ姉に憧れていた私が七歳のとき、姉と遊んでいると「お姉ちゃんはか弱いんだからね。お姉ちゃんのことをもっと考えてあげなさい」と言われた。それからもことあるごとに「エミリーはお姉ちゃんと違って勉強できないのね」とか「お姉ちゃんがエミリーのように健康であれば……」などと言われ、まるで私はよその子のような扱いだった。
私の唯一の味方は、叔父さんだった。「元気が一番なんだぞ。エミリーは身体が丈夫でよかったな」と言ってくれた。テストで赤点を取ったときにも「赤点を隠さずに、赤点だったと見せられるエミリーは偉いな」と褒めてくれた。ただ叔父さんは毎日家に来るわけでもなかったし、今はもう流行病で亡くなってしまった。
両親や姉にとって喜ばしいことに、月日が経てば経つほど姉の身体は強くなっていき、能力にも磨きがかかった。私なんか、両親の視界にも入っていない。
姉はある程度大人になってから芝居の勉強に夢中になる。両親にあの手この手を使ってわがままを通しては、また懲りずに両親を頼るのだった。
両親は両親で、姉への溺愛をやめることはなかった。姉は、私が買ってもらえないようなものをたくさん買ってもらっていた。たとえば、勉強ができるので本は惜しみなく与えられていたし、家庭教師も毎日来ていた。新作の可愛い洋服、アクセサリーも思うがまま。一方で私は「どうせお前は勉強ができない」と言われながら、本など触らせてももらえず、筆記用具もすべてお下がり。洋服もお下がりで着られたならまだよかったけど、姉と違って私は太っているからサイズが合わない。使用人と同じような服を着させられて、お客様から使用人と間違えられることさえあった。
そうは言っても伯爵令嬢として生まれたおかげで、結婚の話はきた。相手の名前はオリバーといい、同じく伯爵身分の家の男性だった。父が仕事でお世話をしているそうで、立場的には父のほうが上のよう。初めて会ったのは冬のことで、私が「寒くないでしょうか?」などの言葉をかけるだけで「エミリーさんは気遣いのできる方だ」と言ってくれた。見た目や能力ではなく内面で向き合ってもらえたのは初めての経験だった。
結婚の話は不慣れなことばかりだったけど、私は結婚の話を受け入れた。オリバーは私を邪魔者扱いしないだろうし、なにより私自身を一人の女性として見てくれている気がした。
結婚すれば、オリバーの家で暮らせる。
やっと、両親も姉もいない生活!
平凡な私には、平凡な暮らしがあるだけでいい。
そんなふうに思い結婚に向けて準備していた頃、私とオリバーのところに姉がやって来た。
「あなたがオリバーさんなのですね。はじめまして、エミリーの姉のソフィアです。とっても素敵な方ね」
姉は胸元が開いたセクシーな洋服を着ていて、オリバーの肩から肘をさらっとなでた。オリバーは女性に免疫がないようで、あからさまに頬を赤らめて嬉しそうにしていた。私の婚約者に対してべたべたする姉もおかしいと思ったけど、姉にデレデレするオリバーもひどいと思った。
しかし、今まで好き勝手に振る舞ってきた姉にも事件が起きた。
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