4 / 20
3 アリアの手紙 3/5
セリーヌがもし私の親友でもなく、魅力的な女性でもなかったなら、彼女を心の中で容赦なく罵り、「どうしてあんな女を好きになるのか」と疑問に思っていたかもしれません。その嫌悪感を盾に、心の中で渦巻く怒りや不満を陰で吐き出し、心を少しでも軽くすることができたでしょう。
しかし、現実のセリーヌは素晴らしい女性です。フィリップがなぜ彼女に惹かれるのかを、私が誰よりも理解していました。彼女の美しさは、その瞳の輝きや凛とした立ち振る舞いにとどまらず、内面から溢れ出る温かさが周囲を照らしていたのです。もし私が男に生まれていたら、間違いなくセリーヌに惚れていたことでしょう。
自分の体中を這い回る毒々しい感情を抜き去りたいと思い、私はしばしば祈祷の場へ足を運びました。ステンドガラスから射し込む太陽の光が、色とりどりに散りばめられた床に映え渡り、その神聖な光の中で祈ることが癒やしでした。まるで重たい鎖が一つずつ解かれていくかのように、心が浄化されるのを感じました。
当時、誰にも頼ることができない孤独感の中で、精神的な重荷を自分だけで解決しようと躍起になっていたのを覚えています。「フィリップに何も期待してはいけない」という言葉を、呪文のように繰り返しました。強い感情が湧き上がるたびに、その呪文を唱えることで、かろうじて自分を保っていました。
ですが、最終的に残るのは――自分の思考も感情もコントロールはできないのだという無力感。誰かの最愛の存在になりたいという望み自体が私には許されない過ちだったのだと、気がつけば自分を責めていました。
当時の私はただ苦しいばかりでなく、見えない将来への不安にもさいなまれました。親友を失う恐怖、婚約者を失う恐怖、自分という人格を失う恐怖……。疲れた時に物が二重に見えるように、心もまた二重になって、自分で何を考えているのかわからなくなった気がしました。
そのような中でも、最後の砦のように認識していることがありました。
それは、私が一番でなくとも、フィリップが婚約者として私を大切にしてくれているということです。それだけが頼りでした。必要以上の感情を彼に抱いてはいけない。卒業して、お互いが一つ屋根の下で快適に生活できればよかったのです。気楽な友人関係のように。
振り返ってみると、セリーヌがフィリップの気持ちに気づいていたかどうかはわかりません。今でも聞けないでいます。ただ、もし気づいていたとしても、セリーヌにはどうすることもできなかったでしょう。もし私が逆の立場だとして、セリーヌの婚約者から好意を寄せられたとしたら、せいぜい彼を徹底して避ける程度のことしか思いつきません。セリーヌに「あなたの婚約者から好かれてるんだけど?」などと、間違っても口に出せません。
――たとえセリーヌがフィリップを受け入れていたとしても、私は彼女のことを嫌いになれなかったと思います。
先生はご存じないかと思いますが、学校生活を送る中で唯一、セリーヌと私との間にフィリップをめぐる事件が起きたことがありました。
しかし、現実のセリーヌは素晴らしい女性です。フィリップがなぜ彼女に惹かれるのかを、私が誰よりも理解していました。彼女の美しさは、その瞳の輝きや凛とした立ち振る舞いにとどまらず、内面から溢れ出る温かさが周囲を照らしていたのです。もし私が男に生まれていたら、間違いなくセリーヌに惚れていたことでしょう。
自分の体中を這い回る毒々しい感情を抜き去りたいと思い、私はしばしば祈祷の場へ足を運びました。ステンドガラスから射し込む太陽の光が、色とりどりに散りばめられた床に映え渡り、その神聖な光の中で祈ることが癒やしでした。まるで重たい鎖が一つずつ解かれていくかのように、心が浄化されるのを感じました。
当時、誰にも頼ることができない孤独感の中で、精神的な重荷を自分だけで解決しようと躍起になっていたのを覚えています。「フィリップに何も期待してはいけない」という言葉を、呪文のように繰り返しました。強い感情が湧き上がるたびに、その呪文を唱えることで、かろうじて自分を保っていました。
ですが、最終的に残るのは――自分の思考も感情もコントロールはできないのだという無力感。誰かの最愛の存在になりたいという望み自体が私には許されない過ちだったのだと、気がつけば自分を責めていました。
当時の私はただ苦しいばかりでなく、見えない将来への不安にもさいなまれました。親友を失う恐怖、婚約者を失う恐怖、自分という人格を失う恐怖……。疲れた時に物が二重に見えるように、心もまた二重になって、自分で何を考えているのかわからなくなった気がしました。
そのような中でも、最後の砦のように認識していることがありました。
それは、私が一番でなくとも、フィリップが婚約者として私を大切にしてくれているということです。それだけが頼りでした。必要以上の感情を彼に抱いてはいけない。卒業して、お互いが一つ屋根の下で快適に生活できればよかったのです。気楽な友人関係のように。
振り返ってみると、セリーヌがフィリップの気持ちに気づいていたかどうかはわかりません。今でも聞けないでいます。ただ、もし気づいていたとしても、セリーヌにはどうすることもできなかったでしょう。もし私が逆の立場だとして、セリーヌの婚約者から好意を寄せられたとしたら、せいぜい彼を徹底して避ける程度のことしか思いつきません。セリーヌに「あなたの婚約者から好かれてるんだけど?」などと、間違っても口に出せません。
――たとえセリーヌがフィリップを受け入れていたとしても、私は彼女のことを嫌いになれなかったと思います。
先生はご存じないかと思いますが、学校生活を送る中で唯一、セリーヌと私との間にフィリップをめぐる事件が起きたことがありました。
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を盛られて追放された第一王子ですが、王妃になった元婚約者の王国を滅ぼしました
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
第一王子だった俺は婚約者の公爵令嬢に毒を盛られ追放された。彼女は第二王子と結ばれ王妃になろうとしたのだ。だが王家の秘密が暴かれ王国は混乱。そして十数年後――王妃となった元婚約者の前に俺は軍を率いて現れる。これは、毒を盛られた王子が王国を滅ぼすまでの物語。
本作は「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝的な短編作品です。
なろうでも公開している作品です。
双子の片割れと母に酷いことを言われて傷つきましたが、理解してくれる人と婚約できたはずが、利用価値があったから優しくしてくれたようです
珠宮さくら
恋愛
ベルティーユ・バランドは、よく転ぶことで双子の片割れや母にドジな子供だと思われていた。
でも、それが病気のせいだとわかってから、両親が離婚して片割れとの縁も切れたことで、理解してくれる人と婚約して幸せになるはずだったのだが、そうはならなかった。
理解していると思っていたのにそうではなかったのだ。双子の片割れや母より、わかってくれていると思っていたのも、勘違いしていただけのようだ。
私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので
藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。
けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。
それなら構いません。
婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。
祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。
――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」
今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。
しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。
でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。
そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。
((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))
ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。
――魅了されてしまっていた――
そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。