浮気した婚約者は慰謝料地獄。過酷な労働を強いられる。

Hibah

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9 セリーヌの手紙 3/5

わたしは動揺のあまり、言葉を発することができませんでした。アリアのほうを見ると、そこにいるのはいつもの穏やかなアリアで、怒っているとか、悲しんでいるといった様子はありません。

心臓にひんやりと氷が触れたような気がしました。

アリアは弱々しく肩をすくめながら、微笑んでいます。優しい雰囲気なのに目を合わせてくれない感じが、その時のわたしには怖かったです。つい黙ってしまいました。

アリアはわたしが困っていることに気づき、焦った様子で手を振りました。


「あ、ごめんね! そんなに真剣にとらえないで! それに……いいのよ。もしフィリップがセリーヌのことを好きだったとしてもね。フィリップは私のことを婚約者として尊重してくれていると思うし、軽はずみなことはしないと思う。私は政略結婚に愛を求める気はないしね……」


わたしはアリアの声にほんの少しですが、震えがあるように思いました。無理をして、自分に言い聞かせているような感じです。

親友として、アリアを励まさないといけないと思いました。


「アリア、初めからそんなに悲観的じゃダメよ。確かに親の都合で結婚させられるんだから、気に食わない男を連れて来られることも世の中にはあると思う。でも結婚前から愛人を認めるなんて、男をつけあがらせるだけ。確かに愛人を作る人もいるけど、作らない人のほうが多いって叔母様は言ってた。家庭内に無駄な不和を生むと、家が安定しないからとか」


アリアは目をつむって微笑んでいました。一瞬泣いているのかなと心配したのですが、泣いてはいませんでした。


「勘違いしないで。私はフィリップに愛人を作ってほしいわけじゃないわ。ただ、もしその相手がセリーヌだったらと考えると……納得しちゃうなあって思って」


身体に悪いタイプの「ドキッ」がわたしを襲います。アリアからの勘違いだけは何としても避けたかったです。


「変なこと言わないでよ! わたしにはガブリエル様がいるし、月に二度くらいは会ってるの。かっこいいし賢いから、わたしは親に感謝してるほどよ。政略結婚にかこつけてイケメンをゲットできたわ!」


この時、自分でもわかるほど不自然な大声でアリアに返事してしまった記憶があります。アリアに誤解されるのだけが怖くて、ざわざわする気持ちを懸命に落ち着かせようとしました。

アリアはわたしの手を握ってくれました。アリアの手は思ったより冷たくて、どうしてこんなに冷たいんだろうと思い、アリアを見ました。

アリアはただ小刻みにうなずいていました。


「ガブリエル様のことが好きなのね、よかった。ガブリエル様が羨ましいなあ。だってセリーヌみたいな女の人、絶対にお嫁さんにしたいもの」


わたしはアリアの優しい声に胸をなでおろしました。


「それはこっちのセリフよ。わたしだって許されるならアリアと結婚したい」


アリアは満面の笑みを見せてくれました。表裏のない、彼女らしい純真な笑顔です。


「残念だったわね、セリーヌ! 私は婚約者と毎日のように愛を深めているわ。修道院学校に入れて運がよかったなと今でも思うのよ。いつも見守ってくれてありがとね、これからもよろしくね!」


空元気なのか、嘘なのか、それとも本心で思っているのか、わたしはアリアがわからなくなりました。”いつものわたしたち”という輪郭をなぞる言葉しか出てきませんでした。


「そうよね! 学校で婚約者と毎日のように会えるなんて、アリアは幸せ者ね! もしフィリップが浮気するようなことがあれば、わたしが絶対に許さないから。パパの権力だろうがなんだろうが全部使って、アリアを守る」


わたしは初めてアリアに対して貴族的な会話をしてしまいました。友達どうしの気遣いとは別物の、もっと乾燥した会話です。

この日以来、わたしはアリアを失うのが急に怖くなりました。わたしの表面的な会話がばれて、絶交されてしまうのではないかと恐れたのです。



そして、か細い神経しか持たないわたしは、ついに過ちを犯してしまいました。
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