上 下
19 / 20

19 ジュリエッタ視点

しおりを挟む
偽物の”ローレンス様”が変なことを言ってきた……。「結婚してもらえませんか」ですって?

私には夫たるローレンス様がいるのよ。それなのに本人がいる前でそんなこと言うなんて……。頭おかしいんじゃないの? 本当に貴族なのかしら……?

そもそも、ローレンス様のほうが100倍素敵よ。呆れて物も言えないわ。こんなのにお返事しなくちゃいけないの……?

そうこう悩んでいると、偽物の”ローレンス様”は、
「わたしは今こうしてジュリエッタさんを前にして、運命を感じています。あなたが私に惹かれたのもきっと運命で、わたしたちは結ばれる将来にあるのだと確信しています。今の夫のローレンス様との関係もあるでしょうから、わたしはいつまででも待ちます。あなたを待つ権利が……わたしにありますか?」
とペラペラ喋ってきた。

この男……自分に酔ってる? まるで自分はフラれるはずがないとでも思っているみたい。はあ……私はこんな人に恋してしまっていたんだ……。反省しなきゃな……。頭の中であれこれ考えるんじゃなくて、これからは実際に会って話した人を大切にしよう。

「あの、何を勘違いなさっているのですか? 私はあなた様のことなんてこれっぽっちも好きではありません。私の夫はこちらにいるローレンス様だけです。失礼ですが、あなた様が入ってくる隙はないのです」

はっきり言っておかないと、ローレンス様に愛を疑われてしまうわ。そうなると、迷惑以外のなにものでもない。

偽物の”ローレンス様”は、わかりやすいほどうろたえていた。

断るに決まってるでしょ、ばーか。

「その……ジュリエッタさん……? 決して焦る必要はないのですよ。ローレンス様と別れてほしいとも言っていません。ただ、お友達でもよいので、これから関係を築けていけたらと思っているのです」

なんであんたと友達にならなきゃいけないのよ! 媚びるような目が気持ち悪いし、嫌になってきた。膝をついても無駄だし、手をコネコネさせるその動きは何!? 早く帰ってくれないかな。

「いえ、あなた様とはお友達になる義理もありません。どこの貴族様か存じませんが、私は主人一筋です。ここまでご足労いただきましてありがとうございました」

ローレンス様のお客様にあたるのだろうけど、きちんと言わせてもらった。変に勘違いされても困るしね。

偽物の”ローレンス様”はあからさまに面白くなさそうな顔をしている。使用人に腕を引かれると「なんだ! 触るな! クソが!」と大声を出した。びっくりした。ヤバい人……なのかしら……?

ローレンス様は私に「大丈夫だよ。この男爵様は気性が少し荒くてね。ちょっと送っていくから、また戻ってくるよ」と言い残して、また屋敷を出てしまった。

わざわざ私のためにあの偽物の”ローレンス様”を探し出してくれたのだろうか。とすると、長い間出張に行ったのは、捜索をするため?

ああ……私はなんて愚かな妻だったのだろう。ローレンス様は私のために長い間留守にしていたというのに、私はといえば「早く帰ってこないかな」と愚痴るばかり。人違いで恋をしてしまった私を許してください。





日は傾き、散り散りになりながら空を流れている雲も、夕焼けに染まっていった。

私は屋敷の外でローレンス様を待った。
それがせめてもの、私の務めだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

『そうぞうしてごらん』っていうけどさ。どうしろっていうのさ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:94

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,111pt お気に入り:1,554

政略結婚の相手に見向きもされません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:546pt お気に入り:4,399

隻腕令嬢の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,995pt お気に入り:101

処理中です...