危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。

Hibah

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クリフォード様が私以外の方を愛するのはかまわない。でも、モニカは許せない。クリフォード様には、クリフォード様を騙すような人を愛してほしくないのだ。王太子妃としての私のプライドが許さない。どうせ好きになるのなら、クリフォード様を本当に助けた黒髪の女の子を好きになってほしい。

クリフォード様はワイングラスをテーブルの上に強く置いた。
「何が……悲劇だというんだい?」

クリフォード様が気に障っている様子はわかっていたけど、私は気にしなかった。
「モニカは、クリフォード様を幼少期に救った人ではありません。クリフォード様を川から助けたのは黒髪の女の子なのです」

「……なん……だと……? どうして君がそんなことを知っている?」

「クリフォード様が溺れたとき、ライナス様も近くにいましたね。ライナス様がはっきりおっしゃいました」

「ライナスは……覚えていないと言っていたぞ……?」

クリフォード様は目をきょろきょろさせ、立ち上がった。部屋の中を歩き回り、繰り返し髪をかきむしった。

「ライナスが……なぜライナスが……なぜ」

私は言うべきことを言った。平民を愛するという、この国の王族の禁忌を犯すだけならまだしも、無関係の人間に恋しているとなると、クリフォード様が気の毒すぎるからだ。

クリフォード様はうなだれていたが、はっと何かを思いついたかのように私を見た。
「エリザベス……君は嘘をついているな! わかったぞ。僕とモニカを別れさせるために、ライナスの名前まで使って僕を騙そうとしたな……! 卑劣なやつめ!」

騙そうとなんかするはずがない! 私は模範となる王太子妃のつもり……。
「誤解でございます! 目をお覚ましください! そもそも……平民を愛人に持つなどということ事体が許されないのですから」

「本性を出しやがったな! やっぱり君は僕の味方なんかじゃない。はっきりわかったよ。もう……出ていってくれ!」

言うのが早すぎただろうか……。でも、王太子妃としてはクリフォード様を守る義務があるから……。

「クリフォード様。私は……離縁されるのでしょうか?」

クリフォード様は言葉に詰まっていたけど、
「……その必要はない。ライナスはいつも狩りに一緒に行けるわけじゃない。次も君を森に連れて行く。君は王太子妃なんだから、僕の恋を守ってくれ」と言った。

クリフォード様と接していて、私は初めて悔しい気持ちになった。思いが伝わらない虚しさと、クリフォード様が変わらずモニカを思いやっているやるせなさとが、混ざり合った。決して嫉妬ではないのだけど、もし私がモニカよりも魅力的だったら、もしクリフォード様が私を愛してくれていたら、こうはならなかっただろうに……。

「――かしこまりました」

こうして私はクリフォード様が「狩り」に行くたびに帯同し、モニカとの逢瀬を見守った。ライナス様も来れるときには一緒に来てくれた。

だが、こんな日々が続くはずもなく……。クリフォード様とライナス様と私が三人そろって狩りに出かけたある日のこと、事件は起きるのだった。
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