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幼少期のクリフォード様を助けたのがモニカじゃないとすると、一体誰が……。クリフォード様は全然関係のない平民を愛しているの?

私はライナス様に恐る恐るきいた。
「クリフォード様はライナス様の……その記憶をご存知なのですか? クリフォード様を助けたのは黒髪の女の子だったという」

ライナス様は私の顔を見ることなく、木々や周りの草の様子に注意を払いながら「兄上が知ってるわけないじゃん」と言った。

私はどう反応していいかわからなかった。
「じゃあモニカと名乗っているあの女は……自分がクリフォード様を過去に助けたと嘘をついているんですか?」

「そうなるね。だから言ったでしょ? やばい女だって」

「どうしてライナス様はクリフォード様に真実を伝えないんですか?」

「最初は伝えようと思ったよ。でももし兄上が国王にならないなら、俺がならなくちゃいけない。国王になったところで、暗殺に怯えなくちゃいけないし、陰謀策謀の多い城でつまらない仕事をするだけ。そんなの嫌だよ。俺は国王になりたくない」

――なるほど。ライナス様がこの秘密を押し黙っているのは、国王になってしまわないようにするためなのだ。たとえ……クリフォード様が得体の知れない平民と逢瀬を重ねていたとしても。



初日にしては十分な情報収集ができたと思ったので、クリフォード様やモニカとはなるべく関わらずに城に帰った。これから王太子妃として、どう振る舞うべきか。王太子妃の役割は、クリフォード様をお支えすること。しかし、人違いの平民を愛している夫をそのままにしておくのは、妻として正しいのだろうか?



夜、私はクリフォード様に呼ばれた。クリフォード様はまたワインを開けて、私にすすめてくれた。
「今日はお疲れさま。狩りに付いてきてくれてありがとう。モニカは可愛い女性だったでしょ?」

「はい……。そうですね……」

「ライナスとは話せたかい?」

「とても気さくな方で、たくさんお話させていただきました」

「それはよかった! ライナスはエリザベスのことが好きだからね。あいつも喜んだだろう」

「はい……!!??」

ライナス様が私のことを好き?
からかわれているのだろうか。

「クリフォード様……ご冗談はおやめください」

「本当なんだよ。ライナスの母ベアトリスは君の王妃教育の先生だっただろ? ライナスは君が学ぶ姿を陰から見ていて、惚れたらしいよ」

「私を……陰から……?」

「健気なもんだよな。小さい頃から、ライナスは君に一途なんだ。実は僕もライナスと一緒に王妃教育を覗いたことがある。昔の思い出だな」

そういえば、ライナス様は私のことをベアトリス様から聞いたと言っていた。でもまさか……見られていたなんて……。

クリフォード様はワインをくゆらせる。
「だから君は王太子妃になるんじゃなくて、ライナスの妻になればよかったのになと思っている。まあ君に決定権はないわけだけど……。ライナスは君を望んでいるのに、僕は君をこれっぽっちも望んでいないなんて、悲劇だよ」

クリフォード様だって……もし間違った女性を愛してしまっているなら、悲劇に違いないのに……。
過去にクリフォード様を助けたのは、きっと黒髪の女の子。ブロンズの髪のモニカではない。

「クリフォード様のほうが……悲劇ですよ」

私はクリフォード様に、真実を告げようと決意するのだった。
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