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「バイロン。私が王太子妃になったばかりのとき、どうして私にクリフォード様の愛人のことを教えてくれたの?」
「……」
バイロンは無言だった。
私は気にせずに待った。
「…………。わたくしはライナス様に王太子になってもらいたかったのです。エリザベス様に事実を伝えれば、こうなると予想しました」
「でも……あなたはクリフォード様の派閥だったじゃない?」
「わたくしは昔――ベアトリス様が陛下の側妃になられる前――ベアトリス様と恋人同士でした」
「えぇ!? てことはライナス様は……?」
「そのご想像は違います。ライナス様は正真正銘、陛下とベアトリス様との間に生まれた子です」
「じゃあどうして……?」
「未練が多いようで恥ずかしいのですが……かつての恋人が産んだ子どもを国王にして、支えたいのでございます。申し訳ございません、わたくし個人のつまらない思いを口にしてしまい……」
バイロンはベアトリス様が好きで、ずっとその思いを抱きながら生きてきたんだ……。クリフォード様の派閥にいたのも、あえて昔の関係を勘ぐられないようにするため……なのか。仮にクリフォード様が国王になったとしても、自分の宰相としての立場は守れる。私に対してクリフォード様の秘密を告げることは、宰相としての王太子妃への配慮ともとれるから、大きな問題にはならない。万が一にでも私がクリフォード様が廃太子となるよう行動するなら、バイロンの目的は達成できる。バイロンは宰相として、自分を含めた各方面に気配りをしていたのだ。
「バイロン。あなたの気持ちを聞かせてくれてありがとう。あなたの人間性が、少し垣間見えた気がして嬉しいわ」
「もったいなきお言葉です。では、失礼します」
ベアトリス様は、バイロンが今も恋心を抱いていることを知っているのだろうか。謀略と裏切りにあふれる城において、こうした一個人の感情がさまざまなところで、ある種の矛盾を含みながら展開していく様に驚いた。人間性がないから策謀が生まれるのではなく、どうしようもなく人間だからこそ策謀が生まれるのだと……思ったのだった。
月日は流れ、国王陛下がご病気で亡くなり、ライナス様が国王となった。それに従い私も王妃となった。
ライナス様と私は仲睦まじい夫婦関係を続けられている。ライナス様は、王妃教育を受けるかつての私をずっと見守ってくれていた。その当時は自分の妻になるなどと思っていなかっただろう。立場や身分が人の感情を突き動かすこともあれば、どうしようなく抑えられない感情が立場や身分を変えていくこともある。ライナス様は立場や身分を越えて私を好きでいてくださった。その思いに私の地位が追いついて、心からよかったと思っている。私もライナス様を愛していて、これからもライナス様を守るためにありとあらゆることを考えていくだろう。それが王妃としての役割であり、一人の人間エリザベスとしての幸せだからである。
「……」
バイロンは無言だった。
私は気にせずに待った。
「…………。わたくしはライナス様に王太子になってもらいたかったのです。エリザベス様に事実を伝えれば、こうなると予想しました」
「でも……あなたはクリフォード様の派閥だったじゃない?」
「わたくしは昔――ベアトリス様が陛下の側妃になられる前――ベアトリス様と恋人同士でした」
「えぇ!? てことはライナス様は……?」
「そのご想像は違います。ライナス様は正真正銘、陛下とベアトリス様との間に生まれた子です」
「じゃあどうして……?」
「未練が多いようで恥ずかしいのですが……かつての恋人が産んだ子どもを国王にして、支えたいのでございます。申し訳ございません、わたくし個人のつまらない思いを口にしてしまい……」
バイロンはベアトリス様が好きで、ずっとその思いを抱きながら生きてきたんだ……。クリフォード様の派閥にいたのも、あえて昔の関係を勘ぐられないようにするため……なのか。仮にクリフォード様が国王になったとしても、自分の宰相としての立場は守れる。私に対してクリフォード様の秘密を告げることは、宰相としての王太子妃への配慮ともとれるから、大きな問題にはならない。万が一にでも私がクリフォード様が廃太子となるよう行動するなら、バイロンの目的は達成できる。バイロンは宰相として、自分を含めた各方面に気配りをしていたのだ。
「バイロン。あなたの気持ちを聞かせてくれてありがとう。あなたの人間性が、少し垣間見えた気がして嬉しいわ」
「もったいなきお言葉です。では、失礼します」
ベアトリス様は、バイロンが今も恋心を抱いていることを知っているのだろうか。謀略と裏切りにあふれる城において、こうした一個人の感情がさまざまなところで、ある種の矛盾を含みながら展開していく様に驚いた。人間性がないから策謀が生まれるのではなく、どうしようもなく人間だからこそ策謀が生まれるのだと……思ったのだった。
月日は流れ、国王陛下がご病気で亡くなり、ライナス様が国王となった。それに従い私も王妃となった。
ライナス様と私は仲睦まじい夫婦関係を続けられている。ライナス様は、王妃教育を受けるかつての私をずっと見守ってくれていた。その当時は自分の妻になるなどと思っていなかっただろう。立場や身分が人の感情を突き動かすこともあれば、どうしようなく抑えられない感情が立場や身分を変えていくこともある。ライナス様は立場や身分を越えて私を好きでいてくださった。その思いに私の地位が追いついて、心からよかったと思っている。私もライナス様を愛していて、これからもライナス様を守るためにありとあらゆることを考えていくだろう。それが王妃としての役割であり、一人の人間エリザベスとしての幸せだからである。
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一気読みさせて頂きました
なんというか……… クリフォードが1番かわいそう?
宰相が好き放題過ぎるし、過去 自分は平民とやらかしてるのに 殺すのを厭わない王もなんだかなぁ… だし……… でも まぁ 現実ならありそうな… (笑
sakikanameさん
感想ありがとうございます!
クリフォードが1番かわいそうだと思うお気持ちわかります。知らずに間違った人を愛してしまったわけですし。。。
クリフォードはモニカの過去の行為に驚きながらも、モニカへの愛を貫きます。きっかけは「命の恩人」だったかもしれないけど、過ごした時間は一組の男女だったのだと思います。
とんでも宰相やとんでも国王でしたよね笑
現実もこんなふうに個人の欲望が渦巻いているのではないかと想像してしまいます。
一気読みして頂いたとのこと、本当にありがとうございました!
重ね重ねお礼申し上げます( ;∀;)
んー最初は良くあるざまぁ作品だなぁって読んでたけど、最後まで読んだら出てくる人物全てがアホだなって思った
祐さん
感想ありがとうございます!
おっしゃる通り登場人物みんながヘンテコな動きをしていますよね。私はアホなことをしてしまう人間たちにも共感してしまう性格かもしれません(笑)。
最後までお読みいただきありがとうございました( i _ i )