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最終話

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私が城の自室にいるとき、使用人が慌てて報告に来た。
「フローラ様! 申し上げます! 今お城にドミニク様が来ております。奥様にお目通りを願っているようでして……」

私は久しぶりにドミニクの存在を思い出した。そんな男いたわね……という感想。私を捨てた元夫には簡単に冷酷になれるんだなと自覚した。

「まあ……とりあえず会いましょうか……」

ドミニクを一番簡素な客室に通すよう指示した。
行ってみると、ドミニクは家を出ていったときと同じ格好をしていて、ぼろぼろだった。

ドミニクは私を見るなり睨みつけるようにして言った。
「フローラ、やっと会えたな。俺の家はどうした? なんで何もなくなっている?」

「家は壊しましたよ。領地も国王陛下へお返ししました」

「何を勝手なことをやっている!? 俺の領地、俺の家だぞ! お前にそんな権限はない」

「離縁状に家や領地を譲る旨も書いて頂きましたし、正当な手続きです。あなたのほうこそ今さら戻ってきてどうしたのですか? 愛人は?」

「あいつは……他に男がいた。俺は会うこともできなかった」

ドミニクは何もかも捨てて愛人のもとへ行ったのに、みじめなものだった。しかも世界滅亡宣言によって治安が悪くなっていた街で賊に襲われ、手持ちの剣と金品はすべて奪われたという話である。命と破れた服だけはなんとか確保して帰ったらしい。

「領地や家だけじゃなく、私のことだって捨てたじゃない。ひどい男。自業自得よ」

「うるさいなこの糞ばばあ! お前みたいな薄情なやつが城に住むなんて、世の中不公平なんだよ!」

国王陛下が客室までいらっしゃった。使用人からすでに事情を聞いていたようだった。

国王陛下はドミニクに言う。
「貴族は与えられた領地を治めるのが責務だ。ドミニクよ、お前は領地も家も領民も捨て、何より自分の妻まで捨ててしまった。お前のようなやつにこれから任せられることはないし、爵位も取り上げる。さっさと城から出ていけ」

ドミニクは目に涙を浮かべ、国王陛下にすがった。
「申し訳ございません! なにとぞ、もう一度だけ機会をください。私は国王陛下の役に立ちたいんです」

国王陛下はドミニクを突き放した。
「ええい、うっとおしい! こいつをさっさと城からつまみ出せ!」

ドミニクは城の警備兵に連れて行かれながら、私に言った。
「フローラ……俺の……俺の剣はどこに行ったんだ……? 売ったのか?」

「――家から一番近くの谷に捨てたわ」

「そうか……」

その後、城から追い出されたドミニクはまっすぐ谷に向かい、落ちていったとのことだった。
愛人のもとへ行かず、剣を集めて楽しんでいればこんなことにはならなかったのに。愛人は愛人でドミニクに会いもせず、「世界の滅亡」を別の誰かと過ごしたのだろうか。


世界滅亡宣言を出した教主様は異端扱いされて、処刑された。結局は預言なんて聞いてなくて、自分の権力を確認したくておかしくなってしまったらしい。人騒がせな人ね。おかげで私はレオポルドと結ばれたけど。



それから一年が経ち、王太子様は病気で亡くなってしまった。レオポルドは正式に王太子となり、国を継ぐ立場となった。私もレオポルドの妻として王太子妃となり、終生レオポルドを支える妻として幸せに暮らすのだった。
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