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番外編 ドミニク、愛人に捨てられる①
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フローラに離縁状を渡した俺は、すっきりした気持ちだった。政略結婚でしかたなしに結婚し、長らく夫としての役割を演じてきた。本当は家庭なんて持ちたくなかったし、剣と可愛い女がいればそれでよかった。家庭をわざわざ持ちたいと思う男の気が知れない。たぶん、子どもがほしいというのと混同しているのだろう。
歳を取れば取るほど女は劣化する。性格が良くなるかというと、性格だって悪くなる一方だ。フローラの更年期はひどいものだった。女という生き物は子どもの頃の成長は男よりもはやいが、十歳くらいで精神の成長が止まる。つまり子どもの頃に”大人っぽく”なって、そのまま”大人っぽい”を維持しているだけで、精神が成熟していかないのだ。若さに宿る美しさが、人間としての女を堕落させる。
まあとにかく、俺とフローラの間には子どもがなかったし、家庭を守っていこうと思う動機もこれといってなかった。
フローラと別れるすがすがしい朝。剣のコレクションとの別れは辛かったが、しかたなかった。酒のつまみになるような素晴らしい剣だけを持って、アンナに会いに行った。アンナは街の居酒屋の娘で、飛びきり可愛かったし、愛想もよかった。
これまでフローラには社交場に行くという言い訳をたくさんしてきた。あえてここでフローラの良いところを一つ挙げるとするなら、鈍感さかな。馬鹿な女ほど”女の勘”なんていう思い上がりの能力を口にするが、フローラはそんなものとは無縁だった。純粋に、彼女なりに俺を愛してくれていた。浮気を疑われたことは一度もない。鋭い女も確かにいるが、男として嬉しいのは鋭くない女に決まっている。女が鋭さを発揮したところで、究極的に何になるというんだ? 男を追い詰めて、子どもを男から引き離し、子どもを自分のすべてにして、己を捨てるだけだろ? 実家にすがりついて、「この子にとっての母親は、この私一人」なんていう特別感を持つために、子どもを利用する。
教主様の「世界の滅亡」宣言は最高だったよ。みんな素直になった。嘘が剥がれ落ちた。みんなあと何十年も生きるつもりだから我慢しているんだよな。あと一週間しか生きれないとわかったら、好きなことをする。働いているのなんてバカバカしくなるし、いたくもない人と一緒にいようとするはずもない。
街の居酒屋に着いて扉を開けると、誰もいなかった。俺は「アンナ! ドミニクだ! 会いに来たぞ!」と大声で呼んだ。居酒屋は二階が住居スペースになっていて、そこから降りてくるかなと思っていたが、アンナは降りて来なかった。
すると、俺の背後に人の気配がした。
そいつは俺に言った。
「アンナに何か用か? おっさん」
俺ははっとして振り返り、男を見上げた。でかかった。俺とは頭一つ分くらい背が違った。筋肉が隆々としていて、頭のサイドは刈り上げていた。いかにも建築関係の仕事か、不動産営業マンのような男だった。
「アンナに会いに来たんだ。お前さんには関係ないよ」と俺は答えた。
男は冷たい目をして、無言でしばらく俺を見下ろしていた。
「……アンナはおれの女だ」
ようやくしゃべったかと思うと、俺の横を通り過ぎようとした。
「待て。アンナはここにいるのか?」と俺はきいた。
男は立ち止まって、こちらを振り返った。
「ああ、いるよ。でも『世界の滅亡」まで俺と一緒にいる。おっさんが出る幕はない。帰れ」
「嫌だと言ったら?」
俺は大男を前にしても、不思議と物怖じしなかった。普段であれば怖くてちびっていただろう。しかし、「世界の滅亡」を前にして、遠慮する気はさらさらなかったのだ。
男は意外にも天井を見上げながら考え、「アンナに聞いてみるよ。待っててくれないか?」と言った。俺は拍子抜けした。てっきり喧嘩になるのかと思った。
男が二階に上がると、会話の内容まではわからなかったが、話し声が聞こえた。アンナの声だった。俺は彼女の声がすることにほっとした。
歳を取れば取るほど女は劣化する。性格が良くなるかというと、性格だって悪くなる一方だ。フローラの更年期はひどいものだった。女という生き物は子どもの頃の成長は男よりもはやいが、十歳くらいで精神の成長が止まる。つまり子どもの頃に”大人っぽく”なって、そのまま”大人っぽい”を維持しているだけで、精神が成熟していかないのだ。若さに宿る美しさが、人間としての女を堕落させる。
まあとにかく、俺とフローラの間には子どもがなかったし、家庭を守っていこうと思う動機もこれといってなかった。
フローラと別れるすがすがしい朝。剣のコレクションとの別れは辛かったが、しかたなかった。酒のつまみになるような素晴らしい剣だけを持って、アンナに会いに行った。アンナは街の居酒屋の娘で、飛びきり可愛かったし、愛想もよかった。
これまでフローラには社交場に行くという言い訳をたくさんしてきた。あえてここでフローラの良いところを一つ挙げるとするなら、鈍感さかな。馬鹿な女ほど”女の勘”なんていう思い上がりの能力を口にするが、フローラはそんなものとは無縁だった。純粋に、彼女なりに俺を愛してくれていた。浮気を疑われたことは一度もない。鋭い女も確かにいるが、男として嬉しいのは鋭くない女に決まっている。女が鋭さを発揮したところで、究極的に何になるというんだ? 男を追い詰めて、子どもを男から引き離し、子どもを自分のすべてにして、己を捨てるだけだろ? 実家にすがりついて、「この子にとっての母親は、この私一人」なんていう特別感を持つために、子どもを利用する。
教主様の「世界の滅亡」宣言は最高だったよ。みんな素直になった。嘘が剥がれ落ちた。みんなあと何十年も生きるつもりだから我慢しているんだよな。あと一週間しか生きれないとわかったら、好きなことをする。働いているのなんてバカバカしくなるし、いたくもない人と一緒にいようとするはずもない。
街の居酒屋に着いて扉を開けると、誰もいなかった。俺は「アンナ! ドミニクだ! 会いに来たぞ!」と大声で呼んだ。居酒屋は二階が住居スペースになっていて、そこから降りてくるかなと思っていたが、アンナは降りて来なかった。
すると、俺の背後に人の気配がした。
そいつは俺に言った。
「アンナに何か用か? おっさん」
俺ははっとして振り返り、男を見上げた。でかかった。俺とは頭一つ分くらい背が違った。筋肉が隆々としていて、頭のサイドは刈り上げていた。いかにも建築関係の仕事か、不動産営業マンのような男だった。
「アンナに会いに来たんだ。お前さんには関係ないよ」と俺は答えた。
男は冷たい目をして、無言でしばらく俺を見下ろしていた。
「……アンナはおれの女だ」
ようやくしゃべったかと思うと、俺の横を通り過ぎようとした。
「待て。アンナはここにいるのか?」と俺はきいた。
男は立ち止まって、こちらを振り返った。
「ああ、いるよ。でも『世界の滅亡」まで俺と一緒にいる。おっさんが出る幕はない。帰れ」
「嫌だと言ったら?」
俺は大男を前にしても、不思議と物怖じしなかった。普段であれば怖くてちびっていただろう。しかし、「世界の滅亡」を前にして、遠慮する気はさらさらなかったのだ。
男は意外にも天井を見上げながら考え、「アンナに聞いてみるよ。待っててくれないか?」と言った。俺は拍子抜けした。てっきり喧嘩になるのかと思った。
男が二階に上がると、会話の内容まではわからなかったが、話し声が聞こえた。アンナの声だった。俺は彼女の声がすることにほっとした。
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