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第二幕
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夜の暗がりの中を、一人の少女が必死に走っている。その後ろからは二人の男が、少女を追いかけていた。
細い路地に入ってしまったため、街灯もなく、少女は何度か転びそうになりながら必死に大通りを目指していた。しかし。
「きゃっ……」
「はい、ざんねーん」
後ろから羽交い締めにされた少女は叫びかけたが、その声は男の手によって遮られた。口を塞がれた少女は、何とか逃げようともがく。しかし、口元に布を当てられ気を失った小柄な少女の身体は、あっけなくもう一人の大柄の男に抱え上げられてしまった。
「おい、早く縛れ。急がねぇと約束の時間に……」
大柄の男が少女を押さえ、縛り上げる。すると、急ぐよう催促していた男の言葉が不自然に途切れたため、大柄の男は顔を上げた。
「うぐっ⁉」
顔を上げると同時に、その顔目掛けて飛んできたもの。眉間にピンポイントで当たったそれは、男の手に落ちた。
「石……?」
手のひらに転がるのはただの石ころ。訝りながらも大柄の男は、続けざまに自分の側頭部を狙ってきた木材を、素手で受け止める。
「っ……」
最初の比較的小さな男を石一つで気絶させたまでは良かったのだが、この大柄な男には石一つでは無理だろうと思っていた。だからこそ、二の手を打ったのに。
受け止められた木材を手放し、シェララは男と距離を取った。その彼女の姿を見た大柄な男は目を見開く。
「お前……あの村の……!」
そう、今のシェララの姿はマイルス村のシェズ。一応持ってきていた変装道具一式を、王都に来てまで使うはめになるとは思ってなかったのだが。
そして同時にシェララも気が付いた。この男はマイルス村で幼い兄妹を襲った人さらいではなかったか。確か、ディオルと呼ばれていた。
むくりと立ち上がった男は、ニヤリと笑いシェララを見た。
「すげぇな。まさかここまで追ってきたのか?」
「……」
大柄な男が立ち上がる。その様子にじりじりと後退りながら、シェララは男が抱えている少女に目をやった。麻袋を頭から被せられ、縄で縛られている彼女はぐったりとしているようにも見える。
「……その子をどこへ連れていくつもりだ?」
シェララは意識して低めの声を出し、言葉遣いも男っぽくする。
「その子を離せ」
「威勢がいいなぁ。あの時は負けと言われたが、今回はそうはいかねぇよ?」
ニタニタと笑う男に、シェララはポケットの中身を探る。小石はあと三つ。だが、最初に当てた小石は、正確に眉間に当たったが、男の気を反らすことさえ上手くいかなかったのだ。隙を作るのも難しいだろう。
だが、タイミングさえ上手くいけば、彼女を奪還するくらいは……。そう思ったシェララがポケットの中の小石を握りしめた時、誰かが彼女の手首を掴み、ポケットから抜き出した。
「残念だな、坊っちゃん」
聞き覚えのある声に、シェララは反射的に捕まれた手を振りほどこうとする。しかし、男の力には敵わず、両腕を後ろで合わせられ動きが封じられてしまった。
「久しぶりだな。また会えるなんて、嬉しいよ」
「っ……はなせっ」
背後にいるため相手の顔は見えないが、人さらい集団の頭と呼ばれていた男であることに間違いはない。目の端に見え隠れする金色の髪に、シェララは背後への注意を怠った自分に唇を噛む。
「さぁ、行こうか」
軽やかな頭の声に、大柄な男は近くで呻いている男を担ぎ上げる。そして、シェララは頭に背中を押され、歩き出すしかなかった。
細い路地に入ってしまったため、街灯もなく、少女は何度か転びそうになりながら必死に大通りを目指していた。しかし。
「きゃっ……」
「はい、ざんねーん」
後ろから羽交い締めにされた少女は叫びかけたが、その声は男の手によって遮られた。口を塞がれた少女は、何とか逃げようともがく。しかし、口元に布を当てられ気を失った小柄な少女の身体は、あっけなくもう一人の大柄の男に抱え上げられてしまった。
「おい、早く縛れ。急がねぇと約束の時間に……」
大柄の男が少女を押さえ、縛り上げる。すると、急ぐよう催促していた男の言葉が不自然に途切れたため、大柄の男は顔を上げた。
「うぐっ⁉」
顔を上げると同時に、その顔目掛けて飛んできたもの。眉間にピンポイントで当たったそれは、男の手に落ちた。
「石……?」
手のひらに転がるのはただの石ころ。訝りながらも大柄の男は、続けざまに自分の側頭部を狙ってきた木材を、素手で受け止める。
「っ……」
最初の比較的小さな男を石一つで気絶させたまでは良かったのだが、この大柄な男には石一つでは無理だろうと思っていた。だからこそ、二の手を打ったのに。
受け止められた木材を手放し、シェララは男と距離を取った。その彼女の姿を見た大柄な男は目を見開く。
「お前……あの村の……!」
そう、今のシェララの姿はマイルス村のシェズ。一応持ってきていた変装道具一式を、王都に来てまで使うはめになるとは思ってなかったのだが。
そして同時にシェララも気が付いた。この男はマイルス村で幼い兄妹を襲った人さらいではなかったか。確か、ディオルと呼ばれていた。
むくりと立ち上がった男は、ニヤリと笑いシェララを見た。
「すげぇな。まさかここまで追ってきたのか?」
「……」
大柄な男が立ち上がる。その様子にじりじりと後退りながら、シェララは男が抱えている少女に目をやった。麻袋を頭から被せられ、縄で縛られている彼女はぐったりとしているようにも見える。
「……その子をどこへ連れていくつもりだ?」
シェララは意識して低めの声を出し、言葉遣いも男っぽくする。
「その子を離せ」
「威勢がいいなぁ。あの時は負けと言われたが、今回はそうはいかねぇよ?」
ニタニタと笑う男に、シェララはポケットの中身を探る。小石はあと三つ。だが、最初に当てた小石は、正確に眉間に当たったが、男の気を反らすことさえ上手くいかなかったのだ。隙を作るのも難しいだろう。
だが、タイミングさえ上手くいけば、彼女を奪還するくらいは……。そう思ったシェララがポケットの中の小石を握りしめた時、誰かが彼女の手首を掴み、ポケットから抜き出した。
「残念だな、坊っちゃん」
聞き覚えのある声に、シェララは反射的に捕まれた手を振りほどこうとする。しかし、男の力には敵わず、両腕を後ろで合わせられ動きが封じられてしまった。
「久しぶりだな。また会えるなんて、嬉しいよ」
「っ……はなせっ」
背後にいるため相手の顔は見えないが、人さらい集団の頭と呼ばれていた男であることに間違いはない。目の端に見え隠れする金色の髪に、シェララは背後への注意を怠った自分に唇を噛む。
「さぁ、行こうか」
軽やかな頭の声に、大柄な男は近くで呻いている男を担ぎ上げる。そして、シェララは頭に背中を押され、歩き出すしかなかった。
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