2 / 96
1-2
しおりを挟む
ため息は飲み込み、顔を上げて奈月は人混みに逆らって歩き出した。靴音を響かせながら、自社ビルの入口で社員証をかざし中に入る。
「あれ、主任。直帰じゃなかったんですか?」
ビルの4階フロアに入ると、終業時間を過ぎた頃ということもあり、ちらほらと帰り支度をしている人の姿がある。その中で奈月の姿を見つけて声をかけてきたのは、後輩の真壁亜也。彼女は奈月が初めて教育係を勤めた相手で、今は直属の部下の一人だ。クリクリとした大きな瞳が印象的な彼女は、奈月に懐いてくれていて、奈月も妹のように感じている。
彼女はこれから帰る所なのだろう。パソコンの電源を落とし、バッグに荷物を詰め込んでいる所だった。
「ちょっと書類を取りにね」
「また持ち帰りですか? 仕事し過ぎですよ」
むぅ、と頬を膨らませる亜也に笑いながら目当ての書類を探す。それをバッグに入れていると、亜也があっと声を上げた。
「そうだ、主任。今からお時間あります?」
「え? 特に用はないけど……」
今日は金曜日。土日休みの仕事のため、あとは帰るだけだ。たまに飲みに行く仲でもあるため、その誘いかと思っていると、亜也は何故かウキウキしながら携帯の画面を見せてくる。
「これ、行きません?」
「……何これ」
見せられた画面に自然と眉が寄る。一面ピンクに染まった画面に散りばめられた無数のハート。その中央には男女が楽しげに会話する写真と、街コンという文字。
「今から行くんですけど、一緒に行くって約束してた友達が行けなくなっちゃって」
「それで、私?」
「主任って、今、彼氏さんいませんでした、よね?」
おずおずと聞いて来た亜也に、奈月は苦笑いを浮かべる。
「彼氏なんかいたことないわよ」
「でも、欲しいんですよね?」
奈月の返答に、亜也が食い気味に言葉を続けた。身長が低い亜也に上目遣いで見つめられると心が揺れる。彼女は最近24歳の誕生日を迎えたばかり。ちょうど奈月の母が彼女を産んだ頃だ。
可愛らしく見上げてくる亜也を甘え上手だな、と思いながら奈月は亜也の頭をポンポンと撫でる。よくあざといと他の女子社員に陰口を叩かれてしまう彼女だが、この可愛さが真似できそうにない奈月は感心してしまう。これでコロッといってしまう男性たちの気持ちが分かるような気がした。
「分かった。行きましょ」
「やった! ありがとうございます!」
正直、合コンやら街コンやらに参加した経験がないから、不安でしかない。でも、可愛い部下の頼みを無下に断ることは奈月にはできなかった。
それに、母とのこともある。あの調子では、次に控えている盆休みに見合いをセッティングされかねない。そうなる前に何か手を撃たねばなるまい。
果たして街コンとやらで相手が見つかるかは不明だが、出会いの場は日常の中に早々ないのだ。ならば自分で作るより他にない。これもいい機会だ。
「あれ、主任。直帰じゃなかったんですか?」
ビルの4階フロアに入ると、終業時間を過ぎた頃ということもあり、ちらほらと帰り支度をしている人の姿がある。その中で奈月の姿を見つけて声をかけてきたのは、後輩の真壁亜也。彼女は奈月が初めて教育係を勤めた相手で、今は直属の部下の一人だ。クリクリとした大きな瞳が印象的な彼女は、奈月に懐いてくれていて、奈月も妹のように感じている。
彼女はこれから帰る所なのだろう。パソコンの電源を落とし、バッグに荷物を詰め込んでいる所だった。
「ちょっと書類を取りにね」
「また持ち帰りですか? 仕事し過ぎですよ」
むぅ、と頬を膨らませる亜也に笑いながら目当ての書類を探す。それをバッグに入れていると、亜也があっと声を上げた。
「そうだ、主任。今からお時間あります?」
「え? 特に用はないけど……」
今日は金曜日。土日休みの仕事のため、あとは帰るだけだ。たまに飲みに行く仲でもあるため、その誘いかと思っていると、亜也は何故かウキウキしながら携帯の画面を見せてくる。
「これ、行きません?」
「……何これ」
見せられた画面に自然と眉が寄る。一面ピンクに染まった画面に散りばめられた無数のハート。その中央には男女が楽しげに会話する写真と、街コンという文字。
「今から行くんですけど、一緒に行くって約束してた友達が行けなくなっちゃって」
「それで、私?」
「主任って、今、彼氏さんいませんでした、よね?」
おずおずと聞いて来た亜也に、奈月は苦笑いを浮かべる。
「彼氏なんかいたことないわよ」
「でも、欲しいんですよね?」
奈月の返答に、亜也が食い気味に言葉を続けた。身長が低い亜也に上目遣いで見つめられると心が揺れる。彼女は最近24歳の誕生日を迎えたばかり。ちょうど奈月の母が彼女を産んだ頃だ。
可愛らしく見上げてくる亜也を甘え上手だな、と思いながら奈月は亜也の頭をポンポンと撫でる。よくあざといと他の女子社員に陰口を叩かれてしまう彼女だが、この可愛さが真似できそうにない奈月は感心してしまう。これでコロッといってしまう男性たちの気持ちが分かるような気がした。
「分かった。行きましょ」
「やった! ありがとうございます!」
正直、合コンやら街コンやらに参加した経験がないから、不安でしかない。でも、可愛い部下の頼みを無下に断ることは奈月にはできなかった。
それに、母とのこともある。あの調子では、次に控えている盆休みに見合いをセッティングされかねない。そうなる前に何か手を撃たねばなるまい。
果たして街コンとやらで相手が見つかるかは不明だが、出会いの場は日常の中に早々ないのだ。ならば自分で作るより他にない。これもいい機会だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる