俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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「小鳥遊さんのお陰ですから、俺が結婚できたのは」

 彼の奥さんとなった人は、バリバリのキャリアウーマンで出張も多く、ほぼ遠距離恋愛のようなものだった。お互いに結婚は意識していたというが、岸田がなかなか踏み込めずにいたのは自分が契約社員だということに負い目を感じていたから。だが、それを聞いていなくとも、侑李は彼を正社員に推しただろう。それだけ、彼は優秀な人材だったから。

「小鳥遊さんもいい人に出会えるといいですね」

 そう言って笑う岸田は本当に幸せそうで、眩しく感じる。だが、侑李は特段、結婚について願望がなかった。いい人がいれば、とは思うがあまり積極的に探そうとは思わない。
 はぐらかすように微笑みながら、街コンの会場を見やる。すでに他のスタッフが準備を行い、参加者が集まり出している時間だ。と、会場の手前の廊下で2人の女性が何やらゴソゴソしているのが見えた。
 何気なく様子を見ていると、薄いベージュのスーツを着た女性がジャケットを脱ごうとしている。するとすかさず、側に立つもう1人の女性が、彼女が腕に通していたバッグをそっと抜き取った。言葉を交わさず、流れるような動作でバッグを持ち、ジャケットを脱いだ女性の乱れた髪を優しく直す姿に目を奪われた。
 黒いパンツスーツに、黒の高めのヒールパンプスを履いたスラリとした印象の女性。肩にかかるくらいの黒髪は、艶があって指通りが良さそうだ。
ペコリと頭を下げたベージュのスーツの女性に微笑む横顔が見えた瞬間、侑李は息を飲む。後ろ姿から、カッコいいキャリアウーマンを想像していた。だが、ふと見えた横顔は想像より幼く見えて、どちらかというと可愛らしい印象を持つ。彼女の顔を正面から見てみたい、という衝動に駆られ、そんな自分に驚いた。

「小鳥遊さん? どうかしましたか?」

 どのくらい惚けていたのか、岸田の声で我に返ると、彼女たちは揃って会場に入って行くところだった。侑李は何でもない、と笑い、気を取り直す。自分へ主催側の人間だ。今は仕事に集中しなくてはならない。そう気を引き締め直し、会場へと入りながら、一瞬見えた彼女の横顔が頭にチラついていた。

※  ※  ※

 これまで付き合った女性がいなかったわけではない。ただ、最後に付き合っていた人は、侑李が小野原グループを辞めると話すと離れていった。好きだから付き合っていたはずなのに、別れを告げられても、ああそうか、と追おうともせず、それからもう3年近く恋愛とは無縁の生活を送っている。
 そんな侑李の前に現れた1人の女性。街コンに参加しながら、どこか心ここにあらずといった感じで。1人5分ずつ、1対1の会話では聞き役に徹し、フリータイムが始まると参加者がこぞって目当ての人に声をかける中、真っ先に料理を皿に取り、隅っこに移動した人。
 ずっと気になって目で追ってしまう自分も大概だが、何故街コンに参加したのかと思う程、彼女は消極的だった。

「どうかされましたか?」
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