39 / 61
3
11
しおりを挟む
クロードから病人と言われたことを思い出し、メイベルは頬に軽く触れてみる。いつもよりも僅かに体温が高い気がする。
「寝ていろと言ったろ」
呆然としていると、お叱りの声が飛んできた。お盆を抱え入ってきたクロードは、後ろ手でドアを閉め、こちらへと歩いてくる。洗面器を奥に寄せてお盆を置くと、近くに置いてあった椅子を引き寄せて座る。その椅子も確か居間にあったはずのものだ。
首を捻るメイベルに、クロードがカップを差し出す。温かな湯気を立ち上らせる焦茶色の液体から漂う甘い香りが、鼻をくすぐった。
「え、ココア?」
「嫌いか?」
「いえ、好きですけど……ありましたっけ?」
ココアなんて贅沢品、この孤児院では常備していない。すると、クロードは何でもないことのように答える。
「団長がくれた」
「ああ、団長さんが」
「昼間、君の見舞いに来てくれたらしい」
「そうなんですか、昼間……昼間?」
疑問が解決しかけたと思ったら、また新たな疑問が浮上する。ココアに口をつけようとして止めたメイベルに、クロードはまず飲め、と促す。言われるがまま一口飲むと、温かな甘さが口の中に広がり、ホッと息を吐く。
「君は熱が出て、一日寝込んでいた」
「……うそぉ」
「当たり前だろう。川には雪解け水が流れ込んでいる。春先の川に飛び込むなんて、風邪をひいて当然だ」
クロードが頬に触れてくる。自分の体温が高いからか、ヒンヤリとした手のひらが心地いい。
「まだ熱いな……」
「クロードさんは? それにあの子……」
自分と少年を引き上げてくれたのはクロードなのだろう。彼だってずぶ濡れになったはずだ。
「また君は人の心配ばかり……」
心配だったから聞いただけなのに、何故か大きなため息を吐かれてしまった。少しムッとしていると、鼻をぎゅっと摘まれる。
「なっ……」
「俺は平気だ。あの子もすぐに処置できたから心配いらない」
「良かった……」
「君はこのところ働きすぎだったからな、疲れが一気に来たんだろう。食欲はあるか?」
「いえ……」
ココアを飲んだことで、空腹感はそこまでない。首を横に振ると、クロードはそうか、と言いながらお盆を指す。
「少しでも食べた方がいいだろうと持ってきた。オリーブからの見舞いだ」
ドクンと心臓が音を立てる。何故だろう、オリーブの名前を聞いただけなのに胸が騒めく。皿に盛られた小さな赤い実を美味しそうだと思うのに、手に取るのは憚られた。
「完全に熱が引いたわけじゃない。それを飲んだら大人しく寝ろ」
ポン、と頭を撫でてクロードが立ち上がる。メイベルは反射的に離れようとしていたその手を掴んでいた。
「寝ていろと言ったろ」
呆然としていると、お叱りの声が飛んできた。お盆を抱え入ってきたクロードは、後ろ手でドアを閉め、こちらへと歩いてくる。洗面器を奥に寄せてお盆を置くと、近くに置いてあった椅子を引き寄せて座る。その椅子も確か居間にあったはずのものだ。
首を捻るメイベルに、クロードがカップを差し出す。温かな湯気を立ち上らせる焦茶色の液体から漂う甘い香りが、鼻をくすぐった。
「え、ココア?」
「嫌いか?」
「いえ、好きですけど……ありましたっけ?」
ココアなんて贅沢品、この孤児院では常備していない。すると、クロードは何でもないことのように答える。
「団長がくれた」
「ああ、団長さんが」
「昼間、君の見舞いに来てくれたらしい」
「そうなんですか、昼間……昼間?」
疑問が解決しかけたと思ったら、また新たな疑問が浮上する。ココアに口をつけようとして止めたメイベルに、クロードはまず飲め、と促す。言われるがまま一口飲むと、温かな甘さが口の中に広がり、ホッと息を吐く。
「君は熱が出て、一日寝込んでいた」
「……うそぉ」
「当たり前だろう。川には雪解け水が流れ込んでいる。春先の川に飛び込むなんて、風邪をひいて当然だ」
クロードが頬に触れてくる。自分の体温が高いからか、ヒンヤリとした手のひらが心地いい。
「まだ熱いな……」
「クロードさんは? それにあの子……」
自分と少年を引き上げてくれたのはクロードなのだろう。彼だってずぶ濡れになったはずだ。
「また君は人の心配ばかり……」
心配だったから聞いただけなのに、何故か大きなため息を吐かれてしまった。少しムッとしていると、鼻をぎゅっと摘まれる。
「なっ……」
「俺は平気だ。あの子もすぐに処置できたから心配いらない」
「良かった……」
「君はこのところ働きすぎだったからな、疲れが一気に来たんだろう。食欲はあるか?」
「いえ……」
ココアを飲んだことで、空腹感はそこまでない。首を横に振ると、クロードはそうか、と言いながらお盆を指す。
「少しでも食べた方がいいだろうと持ってきた。オリーブからの見舞いだ」
ドクンと心臓が音を立てる。何故だろう、オリーブの名前を聞いただけなのに胸が騒めく。皿に盛られた小さな赤い実を美味しそうだと思うのに、手に取るのは憚られた。
「完全に熱が引いたわけじゃない。それを飲んだら大人しく寝ろ」
ポン、と頭を撫でてクロードが立ち上がる。メイベルは反射的に離れようとしていたその手を掴んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【本編完結】獣人国での異種族婚
しろねこ。
恋愛
獣人とひと言で言っても多種多様だ。
力の強いもの弱いもの、体の大きいもの小さいもの、違いがあり過ぎて皆が仲良く暮らすというのは難しい。
その中でも変わらず皆が持っているのは感情だ。喜怒哀楽、憎悪や猜疑心、無関心やら悪戯心……そして愛情。
人を好きになるのは幸せで、苦しい。
色々な愛情表現をお楽しみください。
ハピエン厨なので、こちらもそのような話となる予定。
ご都合主義、自己満、それと両片思いが大好きです(n*´ω`*n)
同名キャラにて色々なお話を書いておりますが、作品により立場、性格、関係性に多少の違いがあります。
他サイトさんでも投稿中!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。
ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで
ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。
だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。
「私は観る側。恋はヒロインのもの」
そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。
筋肉とビンタと回復の日々。
それなのに――
「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」
野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。
彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。
幼馴染ヴィルの揺れる視線。
家族の温かな歓迎。
辺境伯領と学園という“日常の戦場”。
「……好き」
「これは恋だ。もう、モブではいたくない」
守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、
現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。
これは――
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。
※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。
※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。
※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる